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 学園を挟んで隣の女子寮へ部員を送り届け、他の男子生徒と帰宅(帰寮?)した後、部屋にストックしてあった食糧で軽く夕食を済ませました。フリーズドライって便利ですよね。魔力量の関係で2食分ぐらいしか一回に作れないですけど、ブイヨンやスープの作り置きには本当に助かります。たくさん作って、はじめから数回分に分けて保存するものですし。

 フリーズドライの冷却と真空状態に耐えられる箱を技術科に頼んで作ってもらえた時は小躍りしましたよ。というか技術科マジ技術科。

 ん?フリーズドライ……?


 これだ!!


 ちょ、明日技術科に相談しに行かねば、ってダメだセレモニーがある\(^o^)/

 こうなっては仕方ありません。

 諸々をすっ飛ばして明日軽食をお持ちする際にシクスタス殿に実物をお見せして、殿下に概要の説明と、保存食としての価値を納得してもらい、国王陛下と王太子殿下に奏上させていただき、隣国にうちにはこんな技術がありますよと国王陛下に紹介していただき、向こうがこの技術に目をつけ、戦争しないことを選んでもらわないと!

 長いな!

 長いけど戦争回避としての面には非常に役立つのではないかな、どうかな。

 フリーズドライはイタリア軍が開発した技術だったとか聞いたことあるけど、これを迂闊に提供することは難色を示すかな。とりあえずうちにはこんなに軽くておいしいレーションが存在するんですよと脅しにはなるかな。殺してでも奪い取るを選択されるとどうしようもないのですけど……。

 実際、お湯を注ぐだけ、物によっては口に入れるだけで完成する食事です。軽くて長持ちし、何よりおいしいのなら、士気が高く軍の足も速くなります。

 軍の移動に関して、いついかなる時もどうしてもネックになるのは食糧です。

 この世界には魔法がありますから、地球と違って水の調達はそこまで難しくありません。しかし、他の食糧は間違いなく運ぶ必要があるんです。

 敵地に着いてしまえば略奪すればいいなんていう下種の考えもありますけど、国内移動中についてはそうはいきません。途中で買い求めるにしても、量が量です。しかもこの世界1日3食ですから、数百から数千人、場合によっては1万人以上の食糧を、最低でも4日分12食は用意しておかなければなりません。

 となれば必然的に寄った町、村の食糧をすべて買い占めるかそれに近い状態になります。大きな町なら多少の余裕はあるでしょう。しかし小さな村では?毎回全食分買い足す必要はないにしても、その村への打撃は計り知れません。

 過去には行軍後、国内の小さな村が無くなるという事件が発生したと聞きました。他領地の出来事ですが、国からの要請で断れず、ということと、国内でも実際に従軍している兵たちの大多数には縁のない土地の小さな村落ですから、略奪が発生したのだろうと父が言いました。これは、公に教えられていることではなく、各領地の領主が子供たちにこっそりと伝えていることだそうです。それはそうか。気をつけなくてはならないけれど、ややもすれば国への批判として反逆の疑いに繋がりますしね。

 というわけで、兵站の中でも食料の軽量化、長期保存化というのは重要事項なんです。

 汁物や粥のようなものに限られるとはいえ、メインに使えるそれが解決すれば、後は嵩張るけど軽いパンを運ぶだけ。維持費も断然下がります。


 えー、むしろ殿下に伝えていいのこれ?

 うちの国から侵略とかいやですよ?


 とはいえ、却下するにはやはり惜しい技術ですよね。

 この技術が広まれば、自分で作らなくても、日本全国世界各国でお馴染みの出汁の素とかコンソメスープの素とか、卵スープとかパン粥とか米があればリゾットとか、何でも手に入れられますから。応用で乾麺系もできるわけですし、やっぱり便利なんですよね。

 新技術が開発されると、まず軍事関係、次に航空・宇宙・医療等の各専門分野、そして民生向けの販売、最後に一般消費者本人の利用という順に移動するわけで。やはり軍事関係を飛ばすなら殿下に伝える前に、まずは技術科と、寮や学内、コングレンス領と関係者各地で広めてからの方がいいでしょうか。


 実際に技術の細部までを教えるのではなく、完成品のみの輸出は当然だとしてもですよ。どこの国にも干物は存在してますので、保存食を作る際に水分を飛ばすという発想は、やはりどこの国にもあるんですよ。

 この技術の肝の、熱による乾燥ではなく減圧による昇華、というのは始めはわからないにしても、技術なんてものはいずれ広がり解明されていくものですから。隣国にも当然研究施設はあるんですし、どちらにしても迂闊に提供すると戦争回避どころか開戦フラグになりそうです。

 だいたいこの世界には魔法がありますから。目の前に結果があれば、理屈はわからなくても同じものを作ることはそう難しくないんですよねぇ。


 ここはひとまず、ドイツのジャガイモ、スペインのトマトのように気候に合った食物の紹介で留めておくべきでしょうか。何かというとライ麦なのですが。

 隣国は国の平均気温が我が国よりも低く、冷害が起こりやすい地域にあります。古来より寒さに強い品種が残ったとはいえ、この辺りで広く主食とされている小麦は寒さに強くありません。

 それに対してライ麦は、幅広い環境に順応し寒さにもよく耐えます。

 不思議なことにこの世界、ライ麦の成り立ちが地球とは違うようで、小麦によく似た雑草としてではなく、初めから麦の一種としてライ麦が生まれたっぽいんですよね。私がライ麦を見つけたのは、小麦畑とは別に、昔からここに生ってるよと現地の人に教えてもらった野生の状態でしたから。ついでにどんな食物も現代日本と同レベルの味の良さって、と、流石異世界だと遠い目をしてしまったものです。乙女ゲームなら然もあらん、でした。

 他にもこんな事例はあるようですが、この生育環境と本来望まれている地域の齟齬がこの悲劇を生んでしまったのでしょう。


 というわけで、明日やって来る交換留学生たちのうち、主人公とサポート役たちのような、純粋に留学を目的としている生徒を除いた、目的のある(・・・・・)生徒たちには、こちらの情報を持って帰ってもらいましょう。

 そして、しれっと民間からフリーズドライ技術を広げていくことにしましょう。


 そうと決めたら領地にいる父と兄に連絡を取らなければなりません。

 手紙を認めるため、本日の筋トレはここまでです。今日は各メニュー50回ずつを1セットとして、10セットしかできませんでしたね。

 明日はいつもよりちょっと早起きして足りない分をランニングメニューに追加しましょう。

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