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 ようやく辿り着いた教務員室にて、神経質そうな少年が優雅に一礼した。

「初めまして。今年度首席入学のユーレリアス・シエ・バスクです。学科は魔法科です。よろしくお願いします」

「初めまして。騎士科2年のマルクライン・ディル・コングレンスです。入学おめでとうございます。君の入学を歓迎します」

「ありがとうございます」

 あるぇ?この子って前世で攻略した子じゃないですか。後輩ってことは明日入学じゃないの?

 まだ覚悟出来てなかったのに。一日早いですよどういうことですか先生!

 歓迎担当は魔法科の実技教授で、研究者の面が濃い魔法科に似合わないフランクで感覚派と言われる人だった。しかし実は物凄く理論派である。

「バスクは明日のセレモニーで答辞を読むことになっているから今日来てもらった。毎年前年度首席入学者は歓迎セレモニーでホールへの誘導と祝辞を行ってもらうことになるのだが……言ってなかったか?」

「案内と祝辞は聞いていますが首席は聞いていません」

 なぜなら去年はそんなことしてないですから。

「え?あー、すまんすまん。去年は殿下が首席入学なされたから例年と流れが違っているんだったな。本来なら前年度首席入学者がこの役目をするんだが、殿下にしていただくわけにもいくまいということで、次席のお前に当てられたんだ」

 次席だったの!?初めて聞きましたそれ。というかこの学園大丈夫なのか?

 顔がひきつるのがわかるが、正面に立つユーレリアス君も同じような顔をしている。

「すまんからそんな顔しないでくれ。とにかくコングレンスには急な知らせになったのは謝る。セレモニーの軽食の用意もあったのは知っているが、更に繰り下げてというのは彼や新入学生にも悪いし、留学生の件もある。コングレンスに頼むのが一番角が立たない選択だったんだよ」

 そりゃ、まあ事情はわかりましたけどね。

「はあ……では、明日の流れなのですが」

「ひとついいでしょうか」

 お、来るか?

「なんだ?」

「では、こちらの方は首席ではないということですね?」

 挨拶を交わした時とは違い馬鹿にしたような、というより完璧に馬鹿にした口調で言った。言い切った。言い切りました。

「先程の言葉は撤回します。あなたによろしくしていただくようなことはありません」

 キター(笑)

 ゲームで嫌味なキャラと分かっていたし、成績ばかり気にして人間関係の構築を全く考慮していない性格だと知っていたけど、ここまでゲーム通りなんですね。


 このユーレリアスルートでは、殿下と生徒会長以外のキャラとの交友値が上がりにくい設定でした。

 ルートを確定させても戦争回避フラグのために協力する必要があるので、ある程度の交友値が必要なのですが、このルートとシークレットルートではバッドエンドが起こりやすいとか。

 具体的には、フラグ回収後にある、回避の成否を決めるミニゲームの難易度が変わります。交友値が高ければ難易度が下がり、低ければ上がるという仕様でした。

 そう言えば最低値で挑戦とかいう動画があったな。難易度ルナティックとかいうコメントには笑いましたが、実際ルナティックでしたね。

 今となっては幸か不幸か、プレイした時は一度でトゥルーエンドを迎えたのでバッドエンドを見ていないのですが、確かにバランスを取るのが難しかったです。

 こう考えると、明日から来る主人公さんには、ユーレリアスルートとシークレットルートは止めて欲しいですね。自分はほら、明日会ってみないと世界の強制力というのかそういうのがわからないですから。自発的にはありえませんけど。野望第一!


 さて、現実逃避もここまでですね。

 先生は完全に笑いを堪えています。今までにもこういうタイプはいたんでしょう。大人としてたしなめるでもなく笑って傍観というあたり性格が悪い。

 うーん、おばちゃんにはこの態度も子どもが粋がってるだけにしか見えなくて、どーぞどーぞと流してしまいますね。うんうん、大人になってから身悶えるといいよ若人。

「そうですか。それは構いませんが式の手順は確認させて下さいね」

「っ、言われなくてもわかっています」

 嫌味が通じなくて悔しそうですね。かわいいかわいい。


 それにしても最初にコングレンスのディルだと名乗ってるのに、バスクのシエがこんな態度とか。いっそ感心してしまいますね。

 この世界に生まれて分かりましたけど、単純に爵位の関係でコングレンスの方が上なのと、正妻腹第二子のディルに対し愛妾腹のシエ。シエは認知こそされているものの、相続権などは持っていません。女の子だと、有力者への愛妾として差し出されたりと便利に扱われることが多いのが現状です。

 確か、彼の家族間は仲が良くなく、正妻の子が残念だったこともあり、生まれよりも分かりやすい成績に価値を見出だしたんでしたっけ。

 そう考えると中々に納得のいく理由かもしれませんが、でもそんなの関係ねえ!というのが貴族社会。いっそ平民であればまた違ったのでしょうか。


「ではプログラムの確認からしましょう。先生、お願いします」

「ああ」

 何事もなく終わったことで不満そうにしないで下さい。本当に大人げないなこの人。いや、ある意味大人の余裕か。

 その後は順調に話し合いが続き、無事終わりました。


「それでは失礼いたします」

「おう、明日はよろしくな」

「お気を付けて」

 こちらを睨み付けたまま退出するユーレリアス君を見送り、引き留めた先生へ振り返る。

「コングレンスはこの後調理室か?」

「はい」

「悪かったな。明日は忙しくなるだろうが、殿下方の分はしっかりやってくれ」

「ええ、先ほど廊下でお会いしましたし、気合いを入れて作りますよ」

「頼む。あと……留学生の件だがな、忙しくなると思っててくれ」

 それは、やはり学園の教授ともなれば、何か知っているのでしょうか。

「人当たりのいいお前のことだから、そっちの心配はしてねえ。向こうから送られてくる生徒もこっちの言葉は完璧だ。お前も向こうの言葉を話せるだろ?」

「ええ」

 うん、ゲームでは普通に日本語でしたが、実はこの両国は言語が違います。交換留学に参加する主人公たちは、学ぶのに支障のないようにと始めからお互いの言葉を分かっているのです。

「向こうさんが食糧難なのはお前も既に知っているだろう。何より料理関係だしな。生徒を疑いたくはないが、どうにも今回の件は胡散臭い。国として暫定的に食糧支援をする用意は決定したが、向こうが支援要請をしないことにはな。留学生のリストも来ているが、今一信じきれん。何かあった時、最初に間に入って対応するのは歓迎代表のお前ということになる。特に、殿下にはシクスタスが付いているが、お前も仲がよかったろ。狙われやすいのは殿下だろうから、くれぐれも注意してくれ」

「分かりました」

 始めの頃とは打って変わって真面目な表情をした先生が心配してくれている。普段ふざけている割りに、こういうところが人気なんだよなあ。

「引き留めて悪かったな。明日の料理楽しみにしてるぜ」

「いえ。明日は新作を披露しますので、楽しみにしていてください」

「お、期待しとく」

「それでは、失礼します」

 私も一礼してから退室しました。

 うーん、新しい情報はなしか。仕方ありません。

 とりあえずユーレリアス君とのファーストコンタクトが、タイミング以外は想定の範囲内で終わっただけよしとしよう。


 よーし、調理室へ行っくぞー!

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