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 学園の正門から車寄せまでは花壇に挟まれていて、季節に合った、たまに技術科謹製の謎技術による季節外の花々が目を楽しませてくれます。春ともなればそれはそれは見事に咲き誇り、香りが暖かな春風に乗って辺りを漂います。

 もちろん馬車に乗って登校する生徒と、徒歩で登校する生徒たちのためにきちんと車道と歩道に分かれていますよ。

 そんな中、遂にこの瞬間がやって参りました。


 新入生が続々と登校してきます。

 大きな期待と少しの不安を浮かべた新入生たちを、車寄せ奥のエントランスに設置した受付でセレモニーホールへ案内しています。

 寮生の入寮手続や荷物の運び込みは、学園の入学試験の合格発表時にすでに手配をすませていまして、地方に住み、荷物ごと馬車を利用するのが困難な生徒の荷物は、なんと学園が費用を負担した上で郵便局を利用して郵送されています。国の、環境に捉われず才能を発掘するという方針の下、助成金が出ているのす。実際は試験の難しさなどもあって、合格するのは貴族の生徒が大半なんですけどね。その貴族の生徒は家の面子などもあり郵便局を利用することはまずありませんし。


 さて、そろそろ新入生の受付時間も終了ですね。新入生の受付時間から30分後に、交換留学生達の乗った馬車が到着する予定となっています。もちろん実際にぎりぎりで到着するのではなく、王都のすぐ隣にある街で一泊してもらい、余裕を持ってこちらに向かってもらう手筈になっているとのこと。

 到着時には大々的な歓迎をせず、入学式が一段落してから、それでは交換留学生の皆さんですとご登場願うので、まず控室に移動してもらいます。そこまでと、控室からの先導を私がやるんですね。

 ん、名簿上で最後の新入生が到着しましたね。時刻は受付終了予定時間の20分前。交換留学生たちが着くまでは50分ほど空くのですか。結構空くんですけど……調理室に行っては……あ、ダメですよね。はい。すみません。ちらっと時計を見ただけで周りの同じ係りの人たちに何を考えているかばれました。そんなにわかりやすかったですか?

 そういえばユーレリアス君とは擦れ違わなかったのですが、どうやら早めに来ていたようです。


 最後の生徒なので周りに他の生徒がいなくて泣きそうになってしまっている新入生がちょっと哀れです。

「おはようございます。入学おめでとうございます。お名前と、合格証を見せてください」

「は、はい!合格証はこれで、自分はヨーナス・バーデンです!北東のバーデン村から来ました!よろしくお願いします!」

 ごつん!という音が響きました。思いっきり頭を下げて、テーブルに額を打ち付けるというお約束をかますなんて、この子、できる……!あ、いやこんなこと考えてる場合じゃないですね。

「大丈夫ですか?額を見せてください」

「だ、だだ大丈夫です、すみません!ぼ、いや、自分はおっちょこちょいで、よくケガをしてたので丈夫なんです!」

 いや、それもどうかと思うよ?

「それに」

 そういうと彼は額に手を当てました。手のひらが打ち付けて赤くなった部分と重なり、やわらかな光が漏れます。

 まさかという思いと共に見ていると、そこには、何事もなかったように白い額があるだけでした。

「もう大丈夫です!これくらいしか使えないんですけど、こうやって魔法で治せるので!」

 にっこりと笑う少年を前に、私も、周りにいた他の生徒たちも呆然としています。

 今のは治療魔法……限りなく使い手が少ない魔法です。

 魔力と想像力でなんでもできるこの世界ですが、郵便局でも生きたものを送れないように、生物への干渉は極めて難しいのです。魔力量が必要になる、想像が難しいなど理由はありますが、それをこの子はこともなげに使いました。

 合格証には魔法科入学とあります。見た感じ魔力はそんなに多くありません。一般人(私)の2倍程度ですが、魔法科に入学する生徒としては平均かむしろ少し下程度。

 それが。

 ……危険、です。


「そうですか。でも、気を付けてくださいね。この学園には階段も多いですし、何より、まずは怪我をしないことが大事ですから」

「すみません、ありがとうございます……」

「いえいえ。そうだ。セレモニーホールまでの案内は私がしましょう。……いいですね?」

「はい」

 最後の確認だけは、本来彼を受け持つはずだった生徒に確認しました。

 少なくともここにいるのは新入生を、学園の常識や仕来たりをまだ知らないままの貴族の生徒の対応をするために選ばれた人間たちです。この場を動くべきではない私があえて彼を送り届ける。その意味を、私が言いたいことを、すぐに理解してくれました。

「え!そんな、お忙しいのではありませんか?場所さえ教えてもらえたら、ひとりで行きますから!」

 恥ずかしさと恐縮で顔を赤く染めたヨーナス君ににこりと笑いかけました。

「そんなことはありませんよ。実は君が最後なんですが、次の予定まで50分ほども空いてしまっているんです。よければ、私の時間つぶしに付き合ってください」

 ヨーナス君は最後というところで顔を青く変えましたが、そこは攻略対象だからこそのイケメンが放つジャパニーズスマイルで落ち着かせました。

 実際、受付時間の20分前には来ているわけですしね。


 そこまで言えば、本より押しが弱そうで、緊張している状態の彼が断われるはずもありません。

「えっと、では、お願いします……」

「こちらこそ。あ、私の名前はマルクライン・ディル・コングレンスです。親しい人にはマークと呼ばれてますので、気軽にマーク先輩とでも呼んでくださいね」

「え」


 北東のバーデン村といえば、コングレンス領の北隣にあるベッカー伯爵領にある村です。

 それでなくともコングレンスの名前は有名だそうですので、彼からしたらいきなり大変なところの家の御子息にフレンドリーに接されたわけで。

 完全にフリーズしてしまった彼の手を引き、セレモニーホールへと向かいました。


 ……先生は私がこの子を庇護(・・)することまで読んでいたのでしょうか。ほんと、食えない人ですよ。

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