プロローグ
よければぼちぼちお付き合いください。
春。
王立カインクラッド学園高等部騎士科2年、守護騎士コースーー通称肉盾養成所の教室でマルクライン・ディル・コングレンスは深くため息を吐いた。
「どうしてこうなった……」
机に肘をつき、組んだ両手に額を預けて項垂れる姿は、春麗らかな陽気とは不釣り合いに鬱々としている。
光に透ける金の髪、憂いを湛えた深緑の瞳、表情は少し乏しいものの穏やかな笑顔。鍛えられつつも若々しさと発展性を覗かせる肉体美。性格は大らかで細やかな気遣いができ、家は旧くから続く侯爵家の次男である。親友と言えるほど深い付き合いのある人物はいないが、人間関係は広く受け入れられている。また美食家で知られ、なんと守護騎士コース初の調理部員にしてエースである。通常料理など触れもしない貴族位にありながら、新しい調理法、調味料の開発に勤しんでいる。彼の手料理は必見ならぬ必食だという。
つまり学園に通う婿取り希望の女子生徒、及び一部の職員どころか男子生徒にまでその身を狙われる有望株の少年である。
事実、いくら本人が内心で「\(^o^)/」「もうむりぽ」「かくなる上は……」なんて考えていようとも、彼を見つめる視線は絶えない。
むしろ、なぜそのようにお心を悼めていらっしゃるの?私がお力になりますわと言わんばかりの見つめられ具合である。
さて、お気付きかもしれない。
このマルクライン某という少年、所謂転生者というやつである。
そして転生した事実は知りつつも、その世界がただの中世ファンタジーな異世界ではなく、前世で一度だけ遊んだ乙女ゲーの舞台であり、なんと自分が攻略対象に成り代わり、本来の設定から無意識に逸脱させていたということに、生まれ直してから16年にしてようやく気がついた、元女(享年32)である。
そう、前世が女なのに攻略対象になっていたのである。
誰得。