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冷たいベッド

作者: 星空

「シャワー浴びてくるよ。暑くてさ。」

そう言うと達彦は、ベッドから起き上がり、バスルームに向かった。15分くらい眠ったあとには、決まっていつもそうだった。瑠美子はまた置いてきぼりにされた。でももう慣れている。一人ベッドに取り残されることに、いつの間にか慣れっこになっている。

 瑠美子は目を閉じた。ちょっと疲れていたし、眠かった。達彦のぬくもりの残るベッドは、とても心地よかった。それにそうして目を閉じていると、一人きりのベッドの広さと寂しさを感じなくてすんだ。

(こんな時間ももう少し。もう少ししたら、シャワー室から彼は戻ってくる。そしてまた私を抱きしめてくれるはず。きっとそう。)


 ラブ・バラードのBGMがかすかに聞こえる。遠くなる意識の中で、女性ボーカルの歌声がやさしく囁いている。瑠美子はすっと眠りについた。


 どのくらい眠っただろう。急に何かの雑音が瑠美子を覚醒させた。テレビの音だ。瑠美子のボーっとした頭と体は、有無を言わさず現実の中に引きずり込まれる。シャワー室から戻った達彦が、テレビのスウィッチをつけたらしい。瑠美子は布団を目の上まで深くかぶり、ちょっとオーバーに寝返りをしてみた。それは、瑠美子が達彦に自分の存在をアピールする為の無意識な行動だった。それでもまるで達彦は瑠美子の気持ちに気づきはしない。瑠美子はやけになって眠ったふりをした。

(なんだ、ベッドには戻ってきてくれないのね。)

 

 時折笑い声が聞こえる。達彦はバラエティ番組を見ているらしかった。ベッドの横の時計をチラッと見ると、ちょうど3時をさしていた。あと1時間。帰るまであと1時間ある。瑠美子は二人だけの時間をもっと大事に過ごしたかった。あと1時間、もっとそばにいてほしかった。もうこのまま達彦はベッドには戻ってこないのだろうか。

 瑠美子がそっと盗み見すると、白いガウンを着た達彦は、ゆったりとソファーに座り、テレビに見入っていた。まるで瑠美子の存在など忘れているかのように。

 

 そういえば、前にも一度こういうことがあった。達彦はやっぱりバラエティー番組を楽しそうに見ていた。手持ち無沙汰の留美子は、仕方なく着替えを済ませながら、そばで一緒に見たのを思い出した。そのテレビ番組は全然面白くなかった。でも、楽しそうに笑っている達彦につきあって、無理やり笑った記憶がある。

(そうだ。もうこのベッドには戻ってこないんだ。)

瑠美子は涙が出そうになるのをこらえて、布団を頭までかぶった。本当はもう一度そばに来て抱きしめてほしかった。時間がとても惜しいと思った。1ヶ月ぶりのデートだというのに。

(今度会えるのはいつ?1ヵ月後?それとも2ヵ月後?)


 達彦が、このベッドでもう一度瑠美子を抱きしめてくれる可能性はない。もう、達彦の心は、ベッドに横たわる瑠美子のそばにはなかった。一人だけの広いベッドが、ますます広く感じられた。


 瑠美子は心の中でつぶやいた。

(そういえばたっちゃん、スウィッチの切り替えが上手だったっけ。私もスウィッチを切り替えなくちゃね。)

瑠美子は、布団を跳ね除け、バスローブを身に着けると、思い切り背伸びをした。そして何事もなかったかのように、黙ったままシャワー室に向かう。後には、完全に冷たくなったベッドだけが残された。


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