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バンド、辞めるか?

作者: WAIai
掲載日:2026/11/05

「ーバンド、辞めるか?」

ボーカルの藤木が低い声で言い出した。

場所は控え室で、メンバーしかいなかった。

皆、年齢は30近く。

まだ若いのだが、空気が足らずにもがくような、そんな仕草を藤木がした。

「俺、もう限界。消えたい」

祈るように手を合わせ、そこに額を乗せる。

もう何度も考えてきたことだった。

しかし言葉にするのは、初めてだった。

「どうしたの、藤木くん?」

ギターの増田が雰囲気を明るくしようとするかのように、優しく声をかける。

しかし藤木は何も言わず、じっと動かない。

時刻は深夜であり、ようやく冬の寒さが溶けた頃だった。

エアコンが効いているので、寒くはないのだが、藤木だけは全身に冷水を浴びたような感じだった。

「冗談だよね?」

「いいや、本気」

短い言葉に鋭さがあり、他のメンバーも近寄ってくる。

「どうしたの、藤木くん?」

「そうだよ。いきなり何を言い出すの?」

ベースの直山とドラムの升川が口々に言う。

しかし藤木は振り返らず、背中で語る。

ー30だったら、まだ間に合う。違う職につかせることができる。

そんなことを考えての決断だった。

売れていないわけではないのだが、藤木の心の限界だった。

4人でいると楽しいのだが、どうしても孤独を感じてしまう。

自分はいていいのか、人様の前で歌うなんて偉そうなことをしていいのか、迷いが出てきたのだった。

ー俺、元々、長生きするつもりはないし。

30近くまで生きられれば十分だった。

あと1日、あと1日と、時を刻みながら、ここまで何とかなってきたのだった。

ー俺にしかこの感覚は分からない。

自慢ではないのだが、大きな暗闇に飲まれたみたいに、足元から力が失っていくのだった。

「次の曲で売れなかったら、辞めようぜ」

「え…」

3人が呆然とする中、藤木はノートを取り出す。

「もうできているんだ、最後の曲」

静かに差し出すと、皆、集中して見る。

「そんな…。まだやれるよ、俺達?」

直山が言うと、藤木は無言でノートを突きつける。

増田が受け取り、開くと、藤木のくせにある字が綴られている。

「読んでみて。俺の心が詰まっているから」

「分かった」

3人は真剣な顔で、ノートを見つめる。

そこには、こう書かれていた。


やっと、やっと、ここまでやってきた。

皆が自分を認めてくれたから。

皆が俺を受け止めてくれたから。

でもいつも心のどこかで思っていた。

本当にこのままでいいのか?

俺は生きていていいのか?

呼吸していていいのか?

静かに1人になりたい。

輝く自分じゃなくて、地味な自分にふと戻りたい時がある。

俺は生まれてよかったのか。

頭が狂っているのかと思うかもしれないが、毎日、死ぬような思いで歌ってきた。

曲はサイコー。

もう死んでもいい。

いつも思ってきた。

俺は消えてもいいと思ってきたのだが、メンバーのことを考えると、弱音が吐けなかった。

自分がしっかりしなければと、いつも思ってきた。

でも、もう無理。

俺の歌が流れる度に、これでいいのかと疑問を抱くようになった。

他と比べるわけではないが、時代に合っているのか、嫌われていないのか、いつも気になっていた。

嫌われるのが、1番、怖い。

メンバーはすごいと言ってくれるけれど、疑うわけではないが、本当にこのままでいいのかと悩むようになった。

数字を出せば、皆、喜んでくれて、ほっとするが、毎回、数字を叩き出すのも、しんどくなってきた。

歌で戦ってきたが、諸刃の剣だった。

新しい人達は次々と出てくる。

その危機感は常にある。

でも自分を鼓舞してやってきたが、本当に幸せなのだろうか?

ファンは裏切らないでいてくれるだろうか?

そう考えると、マイクに触れられなくなる。

さよならしようか、ステージと。

さよなら、ありがとう。


3人の視線が止まり、最後まで読んだと確認する。

「…どうだ?」

「どうって…」

直山が暗い雰囲気を変えようとして、やめる。

そういう状況ではなかった。

「本気の言葉だね、藤木くん」

熱い言葉をかけてきたのは、増田だった。

藤木の真剣さをよく分かっているようだった。

藤木は子どものように純粋にうなずくと、他のメンバーの言葉を待つ。

「駄目だよ、諦めちゃ!! その、色々とあるけれど」

升川の言葉に、藤木は天井を見上げる。

スポットライトのように明るく輝く光。

俺を照らすなと手を振ると、増田がノートを抱きしめ、泣き始める。

「お、おい。急にどうした…?」

慌てたのは藤木で、ティッシュを差し出す。

増田は首を振って拒否すると、口を開く。

「藤木くん、辛くてごめんね。1人にしてごめんね。俺、全然、気づかなくてごめんね。もういいんだよ、藤木くん。皆に甘えていいんだよ」

「…甘え?」

棒読みで返すと、直山が増田の背中を撫でる。

それから遠慮がちに言ってくる。

「藤木くんの気持ちは分かった。でも、まだ早すぎる。まだやれる。まだやれるんだよ!! ファンもそう望んでいるし」

「ファンか…」

「そう!! ファンのためにも、やらなきゃ駄目だよ!! 分かった?」

「…」

藤木は重しく口を閉じる。

俺は正しいのか、それとも、メンバーの意見を取ったほうがいいのか、迷っていた。

「…俺、大丈夫か?」

真剣な口調に3人は顔を見合わせ、藤木を真っ直ぐに見つめてくる。

「まだ続けよう。俺達が、その微力かもしれないけれど、助けるから。藤木くんを受け止めるから。やろう? な、皆?」

升川の言葉に、他の2人が口々に言う。

「暗い話は駄目。藤木くんは天才なの。ギターを持った姿は、神様から与えられたものなの。分かる?」

「そうだよ。藤木くんが諦めたら、がっかりするよ、ファンの皆。ライブだって待ってくれている人が大勢いるんだから」

「…そうか」

藤木はぽつりと呟くと、部屋に静かな時が流れる。

チチチと時計の音だけが響くような、何とも言えない雰囲気だった。

「まだやれるかな、俺?」

藤木の言葉に、3人は反応し、同時にうなずく。

藤木は1人1人の顔を覗くと、真剣に受け取ったようで、うなずく。

「分かった。考え直してみる」

「本当!! 本当に!?」

「皆がまだやれると言うなら、信じる。俺、1人じゃないよな?」

「違う。俺らがいる。藤木くんを見ているから。だからお願いだから、もう辞めるって言わないで」

「それは…」

藤木は黙ったかと思うと、いきなり立ち上がる。

「ギターを持ってくる。何か弾きたくなってきた」

「それなら俺が用意するから」

増田がノートを返してきて、藤木の顔をまじまじと観察してくる。

「藤木くん、約束だからね? 俺達とファンを裏切らないで」

「…分かった。早くギター」

「はい!!」

増田が素早く動き、ギターを渡す。

藤木は愛おしいように触れると、

「よし、弾くか」

口元を緩め、弾き始めたのだった。

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― 新着の感想 ―
お初ですm(_ _)m 中の歌詞なんですが、散文詩として理解できますが、歌の歌詞 とすると、一番とか二番に別れてないので、どうかなと素人の 爺さんは思ってしまいました。 カッコいいストーリーですね…
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