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余計なお世話係  作者: 七賀ごふん


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1/5

#1




「何で泣いてるの、鈴」


差し出された青いハンカチは良い香りがした。


それを優しく目元に当てられ、思わず瞼を伏せる。


「真っ赤になってるよ。強く擦っちゃダメだって」


小学生だった俺は毎日と言っていいほどよく泣いていた。そんな俺をいつも心配してくれたのは、四つ歳上の従兄弟。


親が共働きのため、夜になるまで家ではひとり。そんな俺を心配して、彼はしょっちゅう家まで様子を見に来てくれた。泣き虫で臆病で、何もできなかったあの頃……彼は親戚の誰から見ても、俺のお世話係だった。


「誰かに意地悪でもされた?」


彼の質問に、途切れ途切れだけどようやく答えることができた。


親に怒られたと。

理由は朝寝坊したこと、宿題をやらなかったこと、家の鍵をなくしてしまったこと、部屋の掃除をしなかったこと、それと……。

他にもたくさんあったけど、彼は手を突き出して首を横に振った。


「よーしよーし、よく分かった。大丈夫だよ、お前は人よりちょっと……天然なだけ」


彼は腕を組み、考えるようにして天井を見上げる。


「勉強だって手伝いだって、お前が頑張ってることは叔父さん達もちゃんと分かってるよ。だから心配しないで。……なにかあれば、俺がお前を守るから」


あたたかい掌が頬に触れる。気付けば涙は止まっていた。

自分じゃ何もできない俺を気にかけて、世話を焼いてくれる人。彼のことが本当に好きで、大切で。


ずっと一緒にいたいと思った。

この人の役に立ちたい。それだけを願っていたけど、彼は高校卒業と同時に留学生として海外へ行くことが決まる。

そして俺達の距離は八千キロ以上離れてしまった。

遠すぎる距離は感覚が麻痺する。まるで彼とはもう同じ世界にいないように思えた。

同じ時間を生きてるとは思えない。同じ空を見てるとは思えない。


でも、想い続けてる。これは一体、いつまで続くのか……。


何枚もカレンダーを捨てた。気付けば六年の歳月が流れ、俺は二十歳になった。







「ふぅ……っ」


外は暗く肌寒い。駐車場に車を停めて歩くと、顔にあたる夜風に身震いした。


一時間以上運転してやって来たのは首都圏の国際空港。とても急だったが、間に合って良かった。


大学二年生の日永鈴鳴ひながすずなりはスマホで時間を確認して、ひとり目的の第一ターミナルへ向かった。


ここに来たのは実に六年ぶりである。六年前、海外へ飛び立つ従兄弟を見送りに行った、あの日以来。


あぁ……緊張する。

この感じ、あの時と似てるぞ。大学入試のときと同じ、あの胃液が上がってくる感覚に。


十九時四十五分。もうすぐだ。

電光掲示板を見て、彼が乗ってるであろう飛行機の到着時間を交互に見合わせる。

ここへ来たのは、帰国する従兄弟を出迎えるためだ。


到着ロビーでしばらく待っていると、大勢のフライト客がやって来た。ひとりひとり注視していたその時、ある青年に目が留まった。

うっすらと、しかし確かに感じる、懐かしい雰囲気の青年。


「か……和巳さん!」

「……鈴?」


鈴鳴は小走りで彼の元へ向かった。

「うあぁぁ……やっぱり和巳さんだ……! お久しぶりです!」

涙目で言うと、彼は掛けていた眼鏡を外して笑った。

「本当に……久しぶりだな、鈴。すっかり大人になってるから見違えたよ。最初誰だか分からなかった」

キャリーケースから手を離し、彼は強く鈴鳴を抱き締めた。


「迎えに来てくれてありがと。すごい嬉しい」

「……っ!」


少しだけ、周りの視線を感じた。降りてきたのも待っていたのも日本人だし、男同士でこの熱い抱擁はちょっと目立つ。


ドキドキしたし、気まずいから早くこの場から離れたい。

それでも、まだ彼に会えた喜びの方が勝っていて動けない。逸る鼓動を抑えて、彼の両手を握った。


「ずっと待ってました。……おかえりなさい、和巳さん。さぁ、俺の家に帰りましょう!」

「おぉ。でも、本当にお前の家に泊まっちゃっていいの? 彼女とかいたら困らない?」

「困りません。生まれてこの方彼女できたことないんで」


つい大声で言ってしまって、また視線を感じた気がした。やばい。一回落ち着こう、俺。


これからは頑張って、和巳さんの役に立つぞ……!


四つ歳上の従兄弟、日永和巳ひながかずみに再会した鈴鳴は喜びの気持ちで一杯だった。





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