学校に行こう② ―引きこもり魔女に魔法学校の教育理念は響くのか?―
「えっと...レナさんが入るのは魔法技科と戦闘科だっけ?」
「は、はい...魔法技科を主にして、戦闘科をサブで入れようかと」
「いいね。最近は魔道具系の仕事も増えてきたし、将来を見据えたいい選択だと思うよ」
職員室に向かう道中。佐野先生はレナに気さくに話しかけてくれた。だが、レナはあふれる人の気配に気絶寸前である。時間は4時過ぎ、部活の練習などで残っている生徒が多く、校内にはまだ活気が残っていた。
「僕は魔法技科を教えてるからね。入学したら多分君の授業もやると思うから。よろしくね」
「よ、よろしくおねがいします......」
そんな話をしていると職員室に着いた。よくあるザ・職員室といった見た目の部屋である。ここまでの道で見てきた教室も普通の高校と言った見た目をしている。
「えっと...あった、これだ」
机の引き出しをごそごそしていた佐野先生が、1枚の紙を取り出して言った。
「レナさんは一級の魔術免許を持ってるから試験は受けなくていいんだけれど、一応の魔力測定とかそういうのを今日したいなって思って......って一級!?初めてみたよ!この学校の先生にもいないし、えっ本当に一級!?」
何やらレナのことについて書かれた紙を読んでいた佐野先生が、驚きの声でそう言った。
「あ、はい...一応持ってます、一級の免許。えっと確か緩いさんが持たせてくれて......あった、これです」
カバンの中をゴソゴソと探っていたレナだが、やがて何かを見つけたらしく手を抜いた。その手には黒色のカードに金色の印字。確かに一級魔術免許である。
「うわ、これが......実物は始めて見たよ。かっこいいな、ちょうだい?」
佐野先生が冗談めかしてレナにそう言った。しかし残念ながらレナにその冗談は通じなかったようで、
「え、じゃああげます」
レナはなんともないように、その手に持っていたカードを佐野先生に向けて差し出した。
「えっあぁ、ありがとう......じゃなくて!だめだよ、そんな大事なものあげちゃ!」
あまりに簡単にレナがカードを差し出すので、一瞬受け取りそうになってしまう佐野先生。
「そんな大切なものなんですかね?」
「大切なものだよ!まったく......外ではあまり出さないようにするんだよ、盗まれるかもしれないから」
先生はそうレナに言うがレナはいまいち分かっていないようだ。
「まあ、いいか。一級ならそうそう負けないと思うし...じゃあ、実習場に行こうか」
「はい」
そう言ってレナと佐野先生は職員室から出ていった。
◆
「着いたよ、ここが実習場。すごいでしょ、これだけの規模のものは全国でもそうそうないんじゃないかな」
ここは陽光学園の実習場。巨大な体育館のような見た目だが、壁には魔法を防ぐバリアが、天井には魔力暴走を防ぐ巨大な制御装置がある。十数本のレーンがあり、弓道場のような見た目だ。今までの道のりで見た景色が普通の高校だったため、いささか異質に見えてしまう。
「すごいです...ICMの実習場と同じくらいの大きさかも」
レナも驚きを隠せない。トゥエルブ・セインツのレナが驚くほどに陽光学園の実習場は立派だった。
「うちの教育理念は “本物に触れさせる“ だからね。若いうちからできるだけ本物に触れさせて経験を積ませるのに重きをおいていて......」
以下五分間、佐野先生の陽光学園の教育理念に関する演説。
「どう?素晴らしい学校でしょ?」
「は、はい......そう、だと思います......」
そうだと同意したレナだったが、残念ながら内容は殆ど頭に入っていない。なぜならば部活の生徒たちが実習場に入って来たためである。引きこもり魔女は人の活気に当てられて気絶寸前であった。
「あぁ、そうだそうだ。魔力測定するんだった」
佐野先生はふと思い出したかのようにそう言った。
「おーい、そこの魔法部の生徒たちー!どいてくれー!そこ使うから!」
「はーい、わかりましたー!」
魔法部と呼ばれた生徒たちは、佐野先生にそう言われると準備をしていたであろうレーンから出てきて、レナたちの方に集まってきた。
「ひっ、人がたくさん......」
結構な人数がいることから魔法部の人気度が分かる。
「転校生ですか?」
魔法部の部長らしい男子生徒が佐野先生にそう聞いてきた。
「そうそう、今度2年生のクラスに入ってくるんだよね。今日は魔力測定も含めて2、3発打ってもらおうかなって」
「それは楽しみですね。良さそうだったら魔法部に勧誘しちゃおうかな」
「はは、気が早いね。でも、魔法部に入ってみるのもいいかもね」
佐野先生と生徒たちは楽しそうに談笑しているが、たくさんの人でレナは気絶寸前である。
(うう、早く終わって......死んじゃう......)
「ああ、じゃあとりあえず一発あの的に向かって魔力弾打ってみてくれない?レナさんの本気の力でね」
佐野先生は何の気無しに「本気」という言葉を使ったが、彼は後にそれを後悔することとなる。なぜなら......
「は、はい......」
レナはふらふらとしながらも右手を的に向かってかざした。そして魔力を込め始める。
「わ、結構つよいな」
「そうですね、見込みありそうです」
佐野先生と部長はそう話しているが、実際はそれどころではない。残念ながらレナの意識は今朦朧としている。普段ならある程度のところでブレーキをかけるのだが、今日はそれがかからなかった。
「ちょ、ちょっと強すぎじゃない......?」
「魔力って、あんな込められるものなの?」
周りの生徒達もざわざわし始める。その時、レナの手から火花がまった。
「やばい、レナさんストップ――」
佐野先生がそう制止をかけたときにはもう遅い。エグい量の魔力を含んだ魔力弾は発射されたあとだった。
ドーン!
レナの右手から放たれた魔力弾は的に当たるやいなや爆発した。もくもくと煙が巻き上がる。煙が晴れるとそこには無惨にも壊れた的が見えた。しかも、その奥の壁まで貫通して、外が見えている。
「ああ......」
佐野先生は驚きつつも、このあと校長先生にどう説明しようという心配のほうが勝つのだった。
長えよ、おい。