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魔法戦とハプニングと

 ――レナたちが魔法戦の選手やら何やらで騒いでいた頃。学校の裏門に一人の男が立っていた。


「ようやく見つけた...今度こそ、君を解放してみせる...!」


 男はそう言うと右の拳を固く握りしめる。脳裏に浮かぶのは燃える研究室と燃え盛る炎の中、中2浮かぶ白髪の少女、そして強い後悔だ。


「今度こそ...絶対に!」


 そう言うと、彼は裏門をくぐり、歓声のあふれる体育祭へと歩き出すのだった。




                        ◆



「うぅ...なんで私がこんな目に...」


 ここは魔法戦に出る選手のための控室。ただ控室と言っても体育祭やお祭りでよく見るテントを張っただけのものなのでとても簡素だ。


「おい、元気だしな、レナ!」


 そう言ってくるのは魔法専用の模擬杖を持って準備万端の沙也加だ。


「魔法戦のルールはわかってるよな?レナ」

「はい、一応...」


 魔法戦には様々なルールがあるが、一般的なのは3対3のチームに分かれて行うものである。それぞれ一人ずつがフィールドに上がり、魔法専用の模擬杖を使って戦う。また各自、的の魔道具を頭の上に浮かべ、この魔道具が破壊されたほうが負けとなる。


「使っていい魔法は魔力弾と防御魔法だけでしたよね」

「あぁ、この魔法戦のルールではそうだな」


 ちなみに魔法免許をとるための試験にも魔法戦は採用されており、一級の魔法試験の魔法戦は観客が駆けつけるほどの迫力がある。


「じゃあ、私が最後だから、レナは2番目を頼むな。あそこの3年の田島先輩が先陣を切ってくれるみたいだから」

「わかりました...」


 レナは諦めたようにそう言った。ちなみに田島先輩は坊主で細めの気が良さそうな人である。生徒たちからの人望も厚いようだが、残念ながらこの学校に通って日の浅いレナは田島先輩のことをよく知らなかった。


「まあ、始まるまではリラックスしてたらいいぞ」


 沙也加のその言葉に、レナは小さく「はい」という事しかできなかった。




                       ◆




「よし、それじゃあ行ってこい!」


 沙也加にそう言われて、レナは控室から外へと出た。眼の前にある魔法戦のフィールドには戦いの傷跡が生々しく残っており、先程の田島先輩の戦いがいかに激しかったかを物語っている。横にある観客席を見ると肩で息をしている田島先輩と紅組の代表選手が座っているのが見えた。勝った田島先輩の体操服も負けた紅組の選手体操服も砂埃で汚れている。

 レナはたくさんの観客の目に怯えながらも一歩を踏み出した。反対側からは白組の二人目の選手の男子が歩いてきている。レナも勇気を振り絞ってフィールドの中心へと歩いていった。


「よろしく。いい試合を頼むよ」

「よろしくお願いします...」

 

 握手をしながらそう言葉をかわす。そして位置についたがそこで観客席から拍手が湧いた。


「紅組を倒せー!」

「負けるなー!」


 そんな歓声が聞こえてくる。普通ならこれで元気が出るようなものなのかもしれないが、残念ながらレナの場合は逆効果だった。


(うぅ、そんなにこっちを見ないで〜!)


 せっかく振り絞った勇気もあっという間に吹き飛ばされてしまう。レナは自分の模擬杖を握りしめ立ち尽くしてしまった。


「では位置について...よーい、はじめ!」


 立ち尽くしてしまっているレナをおいて魔法戦は始まってしまった。前の男子が早速魔力弾を打ってくる。レナは着弾寸前に我に返ると、慌てて防御魔法を展開した。


ドーン!


 魔力弾がレナの防御魔法に弾かれて爆発が起きる。フィールドは一瞬で砂煙に覆われて相手の選手は煙に隠れて見えなくなった。


「わ、ちょっとまって!」


 相手の選手は間髪を入れず二度目の魔力弾を打ってきた。それもかなりの威力。慌てているレナは思わず、全面に防御魔法を展開した。


「おい、まじかよ...」

「防御魔法の全面展開ってできるものなのか?」

「どれだけの魔力とコントロール力があればできるんだよ...」


 防御魔法は面積が大きければ大きいほど消費する魔力が増え、また同時に維持するのも難しくなる。だから全面に展開するのはそれは神業と言っていいだろう。


「まじかよ...そんなこともできんのか」


 相手選手もこれにはいささか怯んだようで、一瞬攻撃の手が緩んだ。


(あ、ラッキー。じゃあ...)


 レナはその隙に反撃してしまおうと、軽く魔力を練って魔力弾を作る。


「えいっ」


 多少後ろに体制を崩しながらも、レナは魔力弾を放った。


ズドーンッ!


 レナが魔力弾を放った瞬間、凄まじい爆音とまばゆい閃光があたりを包んだ。


「うわっ、何!?」

「何も見えねぇ!」


 もくもくと立ち上る砂煙。それが晴れたとき、皆の目に写ったのは半分以上がえぐり削られたフィールドと、その端で気絶している紅組の選手だった。頭の上に浮かべていた魔道具は当然のように割れ、相手の選手はピクリとも動かない。


「し、白組の勝ちー!」


 審判の先生もあまりの驚きにワンテンポ遅れてそう言った。


「ま、マジか...」

「白組が勝ったぞ!」

「よっしゃ、優勝だ!」


 観客席からそう歓声が湧く。


「すげぇーな、レナ!」

「レナさん、私のこと言えないじゃない」

「マ、マジか...」


 恭平たちも驚きながらも、そう歓声?を上げた。


「ふぇ?」


 レナは、当の本人は立ち尽くしていたが。みんなからの視線と歓声に気づくと、


(うぅ、やめてぇ...)


 もう見慣れたが、そうやって頭を抱えてうずくまってしまった。

 まあ、そんな感じで体育祭は幕を閉じようとしていたのだが...


ズドーン!


「何だ!?」

「また爆発!?」


 ざわつく観客席。あたりを見回すと、校門の方から煙と炎が上がっている。


「誰だ、あれ?」


 燃え盛る炎と、モクモクと上がる煙。その中から黒いコートを着た人物が、ゆっくりと歩いてきていた。


「...さあ早く、ここから逃げよう」


 その声はこれから起きる新たな事件の始まりを告げた。

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