プロローグ それぞれの帰り道
ためしに書いてみました。
高校生三人のふわっとした苦しさを感じていただけたら幸いです。
ぼちぼち書きます。
死について初めて考えたのは、小学5年生のころだった。5月の晴れた暖かい休日、街まで友達と名探偵系の新作映画を見に行った。アクションが激しくて気持ちがふっと現実世界に引き戻される瞬間があった。そんな私の隣でカナコは身を乗り出してずっとわくわく顔で映画を見ていた。
大きなショッピングモールに行ったので、映画館をでると珍しく大きなお店がたくさんあった。私が引き寄せられたのは地下から一階まで続く大型の書店だ。
「なっちゃん、本だいすきじゃん!見ていこう!」
カナコの言葉よりも先に私の足は動いていた。どの本も優しい光で私を呼ぶ。いや、きっと呼んですらいない、ほんのりと光るだけ。本よりもアニメやお洋服が好きなカナコは「ゆっくりしてて!」と言い残して、すたすたと書店を後にした。私は本の香りに包まれて、どれを読もうかしらと品定めしていた。本に夢中になっていた私は周りを見ていなかった。こつんと肩と肩がぶつかり「すみません!」と顔を挙げた先にはしわしわのおばあちゃんがいた。「いいのよ。」と笑って杖を突くおばあちゃん、そのあと本の表紙にぐーっと顔を近づけるおばあちゃんを見て、私、何歳まで健康に本が読めるんだろうと急に不安になった。もう一度あたりを見渡すと、数えきれないほど面白そうな本がある。私、たくさん本を読むまで長生きする、それまでは死ねない、だから中学校ではたくさん本を読む。そう決めて、合流したカナコに意気揚々と私と死と本の関係性を話してしまったのだ。うかつにも……
「ナツメー!今日も本読んだ?」
高校生になってもカナコはうるさい。
「……読んでない。」
「なんでよ、生き甲斐なんでしょう?死んじゃうよ、内職しながら読もうよ」
「次の模試の勉強しない方が死ぬよ」
じろりとカナコの顔をにらむ。
「死なない死なない!水と食料さえあれば生きていけるんだから。それにさ、私ナツメと違ってばかだからさ、大学受けないし。ナツメは成績上位で期待されてるしさ、そりゃ本読む暇もないよね」
カナコのこの勢いには溜息で返事するしかない。
「……カナコちゃんは留年の心配しないといけないんじゃ……。」
ミサキが袖をゆびさきでもじもじさせながら言う。
「そうだ。夏休みも補習があるんだった……」
カナコはさっきまでの勢いが嘘のように青ざめうつむいている。
今がチャンスだ。
「じゃ、お先ー。」
私はすたすたと教室を後にする。
「ばいばーい」の声を聞きながら。
私たちは絵にかいたような仲良し三人組。でも一緒に帰ることはしない。
それぞれの帰り道が必要だから。
それぞれの帰り道とは!!