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勇者の正義

作者: 二藍

僕の春をキミに捧げるよ。

何てしゃらくさい言葉をかける程、僕はキミの事が大好きなんだ。



死んだ勇者には、好いた女が居たそうだ。


噂によると美しい銀髪を肩まで伸ばして、トマトジュースのような、透き通る赤い瞳を持っているとか。

だけどその女と、付き合っているとか結婚したとか、そんな噂は聞いたことがない。勿論そんな事実はないだろう。

分かること、それは勇者が彼女のために剣を振るっていたことくらいだ。何故って? それは彼がインタビューでこう答えたからだ。

「彼女と平和に過ごすために、私は剣を振るいます」と。その美しい黒髪を風に遊ばせながら、綺麗な顔で微笑みながら彼は何でもないように、淡々とそう言ってのけたのだ。

記者が彼女のため? と小さく疑問の声を漏らすと面白そうに、低い声で唸るように彼は喋り続けた。

「彼女がこちら側についている限り、私は悪を滅ぼします。彼女が悪につかない限りね。

私は彼女のためなら、喜んでこの世界を焼きつくしますよ」

そのとき彼は、神を前にした信者のような顔をしていた。

自分の正義は民のためではない、ただ一人の女のため。それを語る彼は美しい、だが何処か狂気的で歪んでいる。それも絵に成るものだから、勇者とは恐ろしいモノだった。

神は彼にいくつのモノを贈ったのだろう?



その記者のメモノートはクシャリと折れ、文字は踊り、所々滲んでいた。

冷や汗が止まらなかったのだろう。自分の命が、勇者の愛する人に捕まれていると言う事実に。勇者のその、狂気に。



勇者は度重なる戦いの末、魔王との戦いに勝利を収めた。彼が18の春頃だった。

仲間を作らない彼の孤高なる戦いは、誰も知らない。どの様にして魔王に勝ったのかも、分からない。

歴代最強の勇者の本当の姿は、誰も知らない。

だがその素晴らしいであろう戦いを観たいと望む者は、少なくはなかった。その剣を振るところを、一度でいいからみてみたいと願うものなのだ。

勇者様が戦っているとこを見る、それが一番の幸福と考える人もいるくらいには。


魔王が滅んだ。

その報告を聞いた時、街は祭りに包まれた。いつもはお堅い爺さんも、酒を飲んでは遊びにでている。若い男はここぞとばかりにナンパを仕掛けるし、子供だって無邪気に楽しそうに遊んでいた。


誰もが喜ぶ魔王の消滅。

誰もが待ち望んでいる勇者の帰還。

だが勇者は待てど暮らせど、帰ってはこなかった。

代わりに届いたのは、ボロボロになった正義を纏った彼の外套。そして正義を象徴する、ガタガタになった勇者の剣だけ。

街が静まり返った事は、言うまでもないだろう。だが次第に、泣き崩れる者や叫ぶ者、そしてただ現実を受け止められない者が続々と立て続けに出てくる。

その日の内に、勇者の碑石は建てられた。


丘の上に立てられた彼の碑石、誰も眠ってはないその石にカラフルな沢山の花が、添えられた。

《勇敢な勇者 ここに眠る》と綺麗に彫られた白い碑石。

そこには、銀髪の女は来なかった。



街全体が平和ボケをしてきた頃だった。

空がどんよりと分厚い雲に覆われて、太陽が地上に届かない日。なにか悪いことが起こりそうな夏の日だった。


雷を空に轟かせ、強い光と共に人影が空に浮かんだ。黒く長い外套に、大きな剣。


再び悪の王が姿を表したのだ。


例年よりも早い新たな魔王の誕生に、世間はざわめきを隠せなかった。

本来魔王とは、今の魔王を倒したその地位を引き継ぐもの。それをたち切るのが勇者の仕事として何百年も続いていた。

そしてまた自然的に魔王が現れるのは約100年後と、文献には記載が残されている。

だが今回はずいぶんと早い。いや、早すぎる。まるで誰かが後を引き継いだ様だった。だがそれはあり得ない。何故か? それは勇者が魔王を討伐したからだ。全員同じことを考えていた。誰かの悪戯だと誰もが思った。


だがそんな考えも、呆気なく夜空にとけた。

光が収まり、姿を表した魔王。

その魔王の姿を見た者は涙をながし、嘘だと叫んだ。その現実を突き放すように。

魔王の姿は、美しい黒髪を風に遊ばせる美青年だった。悪に似つかわしい、爽やかな青年がそこには居たのだ。

それは紛れもない、我らが勇者の姿だった。陶器のような白い肌は更に青白くなっている。だが確かに勇者の剣を捨て、正義の象徴となる外套を脱いだ彼の姿。誰もが憧れて、神のように慕った青年。

皆はそれを夢かと思った。いいや、嘘であってくれと願ったのだ。

だが彼は何ともないように、こう言ったのだ。


「彼女のために、私はアナタ方を滅ぼします」


と。淡々と微笑みながらそう言ってのけたのだ。その声は現実を突きつけて来るかのように、感情が入っていなかった。只の報告、それだけだったのだ。

だが至極楽しそうに、大きな口をパカリと開けて悪魔のようにクツクツと笑い出すモノだから、皆は困惑した。その黒い大きな外套をクルリと覆して、カツリと空に足音をたてる。

恐怖そのものとして彼は、此処に戻ってきたのだ。


だが悪に染まったその姿でも、絵に成るものだから勇者とは恐ろしいモノだった。その姿に焦がれる者は少なくはないだろう。

なんとも残酷なものだ。


嗚呼、彼の正義とはなんだったのだろう。

読んで頂きありがとうございます。

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