『騎士団長は幼女に甘い(読み切りの短編連作)シリーズ』はここ♡
騎士団長は幼女に甘い〜バレンタインデー〜
シリーズですがこれだけで読めて完結する作りです
☆次の話もupしました!幼女と溺愛騎士団長の禁断(?)の顎クイ経験です♡タイトル上のシリーズリンクから読めます!
ここはウィンザー侯爵家のとっても居心地のいいリビングルーム。
金髪に青い目の美しい姉妹たちはさっきからソワソワとバレンタインの計画を話している。
「一年に一度のバレンタインデーよ、他の令嬢たちに負けるわけにはいかないわよ」
「ジェラルド騎士団長に直接チョコレートを渡さなきゃだめよ。門兵の方に預けるなんて絶対にしてはだめ」
「ええ、そうよ。頑張りましょう!」
末っ子のリリアンは四人の姉たちのまわりでぴょんぴょんと跳ねていた。
なんとか仲間に入れてもらおうと頑張っているが話の中に入れてもらえないのだ。
「ねえねえ、お姉様、なんの話をしているの?」
「六歳にはわからない話よ」
ほーらまた仲間外れだ、プンプンだ!
リリアンは諦めてお友達のマリアンヌたちとお茶会をしようと思った。
だけどリビングルームから出て行こうとした時に姉たちに呼び止められる。
「ねえ、リリアン。そういえばあなたは騎士団の陣営に入れるわよね?」
「ええ、入れるわ」
リリアンと騎士団長は友達だからもちろん入れるに決まっている。
どうしてそんなことを聞くのだろうと思っていると姉たちはびっくりするような提案をしてきた。
「お願いを聞いてくれたらあなたが欲しいものをあげるわ。私たちはジェラルド騎士団長様にチョコレートを渡したいの。だけど騎士団長様は王都の令嬢たちの憧れのまとだから直接お渡しするのが難しいの。もしもあなたが渡してくれたらなんでもあげるわ」
「なんでも?」
「ええ、なんでもよ」
リリアンには欲しいものがあった。
一番上の姉のフリフリのピンクのパラソルと二番目の姉のレースの手袋と三番目の姉の水色のビーズの巾着バックだ。
だからそれを欲しいと言うとなんと驚くことに姉たちは全部くれると約束した。
「ほんとうにくれるの?」
「ええ、ほんとうよ。そのかわり手紙も渡して欲しいの。そしてお返事ももらってきてね。それから騎士団長が汗を拭いたハンカチも手に入れてくれるとすごく嬉しいわ」
「ふうん⋯⋯」
最後の『汗を拭いたハンカチ』だけはなんだか意味がよくわからない。
だけどものすごくいい条件だということはよーくわかった。
「リリアンには難しいかしら?」
「いいえ、できるわ!」
というわけで、リリアンはジェラルド騎士団長にチョコを渡しに行くことになったのだった。
**
ピンクのパラソルをクルクル回してさあ出発だ。
スキップしながら屋敷を出る。
もちろん水色のビーズの巾着バックも持っている。姉たちから預かったチョコと手紙はこのバックの中だ。
真っ白なレースの手袋もつけている。ちょっと大きいけれどルンルンだ!
姉たちに金髪をクルクルに巻いてもらって白粉もパタパタとほっぺにつけてもらった。
どうやら姉たちはリリアンが子供じゃないとやっとわかったらしい。
ご機嫌で陣営に着くとなんだかいつもとようすが違う⋯⋯。
騎士団の陣営の門前にはたくさんの令嬢たちが集まっている、みんなチョコを渡そうとしているのだ。
だけど姉たちが言っていたように騎士団長にチョコを直接渡すことはできないらしい。
門番が「チョコはここで預かります!」と大声で叫ぶとブーイングが起きている。
「⋯⋯通してくださいますかしら?」
リリアンは丁寧に言いながら人の波をかき分けた。
みんなの腰までしか身長がないのでちょっとでも押されるとものすごく苦しい。
すると急に令嬢たちが「きゃー♡」と叫び出したではないか!
騎士団が国境警備の仕事から戻ってきたのだ。
「きゃあ〜! 騎士団長さまー!!」
耳をつんざくようなものすごい歓声が響き渡った。
騎士団の先頭には白馬に乗ったジェラルド騎士団長がいる。
黒い騎士服姿だ。背中で揺れる長くて美しい金色の髪が太陽の光を受けてキラキラと眩しく輝いている。
切れ長の目に春の空のような澄んだ青い目、あいかわらず彫像のように完璧な美貌だ。
騎士団長が目の前にやってくると令嬢たちはますます興奮した。
リリアンはぎゅーっと押しつぶされそうになった。
「お⋯⋯、押さないでくださいませ⋯⋯」
その時だ——。
「リリアン様、危ない!」
声が聞こえたと同時にたくましい腕が伸びてきた。
「あら?」
と思った時には誰かの腕の中⋯⋯。
ジェラルド騎士団長が助けてくれたのだ。
しかもこれはお姫様抱っこじゃないか!
絵本の中の王子様とお姫様とおんなじだ!!
——騎士団長様、すっごくかっこいいわ⋯⋯。
ものすごくハンサムな顔がすぐ近くに見えるし、ものすごくたくましい体が抱き抱えてくれている。
それになんだかすごくいい香りまでするではないか⋯⋯。
リリアンはうっとりしてこのままずーっと抱っこしてて欲しいと思った。
「⋯⋯あの、⋯⋯ありがとうございます、騎士団長様。押しつぶされるかと思いましたわ」
「ご無事でよかったです。⋯⋯今日はどんなご用ですか、リリアン様?」
「姉たちからチョコレートを預かりましたの」
「ああ、なるほど——」
リリアンはそのまま白馬に乗せてもらった。そして騎士団と一緒に門の中へ入っていく。
白馬からおろしてもらうとすぐにピョコンと膝を折って挨拶をした。
「お元気ですか、騎士団長様?」
「ええ元気にしております。リリアン様はお元気でいらっしゃいましたか?」
騎士団長はいつものように丁寧にリリアンの右手を取って唇をそっとつけて挨拶をしてくれた。
リリアンと騎士団長はリリアンが『騎士団長の伝説の壁ドン』について突撃取材をしたのをきっかけに知り合いになったのだ。
騎士団長はリリアンを子供扱いしたりしないとってもいい人なのだ。
「こちらへどうぞ、リリアン様」
挨拶が終わったら作戦司令室に案内された。
「国境の状況が緊迫しているのです。少し騒がしいかもしれません」
騎士団は王都の平和を守っている。だから王都はとても平和だ。
作戦司令室には大きなデスクがあった。デスクの上にはさらに大きな地図がドーンと広げてある。
騎士団長が団長席の横にリリアン用の椅子を持ってきてくれたのでリリアンはそこに座って足をぶらぶらさせて地図をじっと見た。
「地図が面白いですか、リリアン様?」
「ええ、とても。あ! そうですわ、これは姉たちから預かったチョコレートですわ」
「ありがとうございます」
騎士団長はにこやかに微笑んでチョコを受け取ってくれた。
これで最初のミッションは成功だ!
「そういえばうちの副団長もチョコレートを作ったのですよ。あいつはそういうのが好きで⋯⋯。リリアン様はチョコレートはお好きですか?」
「ええ、大好きですわ」
「では用意させましょう」
しばらくすると銀色の美しい髪と神秘的な紫色の瞳をしたとてもハンサムでたくましいロベルト副団長が来た。エプロンを付けている。
「リリアン様がいらしたと聞いてパフェを作ってみました。お口に合うといいのですが」
「うわーっ!」
とっても大きなパフェだった。桃がのっている、苺ものっている。
「どうぞお召しあがりください」
「はい!」
チョコレートアイスはとっても甘くて美味しい。パリパリの薄いビスケットの飾りも美味しい!
リリアンがパクパク食べている横で騎士団長と副団長は地図を見ながら真剣な顔で話をしている。
国境警備のことを話しているようだ。
美味しいパフェを半分ほど食べた時、リリアンはハッとした。
——あっ! そうだわ、お姉様に頼まれたことはまだあるんだったわ!
水色のビーズのバックからゴソゴソと手紙を出す。
渡そうとしたが騎士団長はほんとうに忙しそうだ。手紙を読む時間などなさそうだ。
——お邪魔をしたらいけませんわね。
そっと地図の端っこに手紙を置いた。
だけど手紙の返事はどうしよう⋯⋯。
うーん、と考えて、
——あ! そうだわ! 代筆したらいいんだわ!!
と思いついた。
——なんていい考えかしら、もしかしたら私って天才かもしれませんわ!
騎士団長が忙しいなら自分が代わりに返事を書いたらいいではないか。
「あの、騎士団長様?」
「なんでしょうかリリアン様?」
「お手数をおかけして申し訳ありませんけれど、便箋を頂けませんかしら?」
「もちろんいいですよ。今日は忙しくてお相手をできなくて申し訳ありません」
「いいえ、パフェをいただけただけで十分ですわ」
騎士団の紋章入りの便箋をもらうとリリアンは書き始めた。
ぼくはジェラルドきしだんちょうです。
なんて素晴らしい書き出しだろう!
絵日記を頑張っていてよかったわ、とリリアンは心から思った。
「騎士団長様、お好きな食べ物はなんですの?」
「そうですねえ⋯⋯何かな」
「苺はお好きですか? 私は大好きですのよ」
「好きですよ」
よし、次の文も決まった!
ぼくはいちごがすきです。
「騎士団長様、誰が好きですか?」
「え?」
ジェラルド騎士団長はちょっと困った顔になった。
「うーん、そうだな⋯⋯」と考えてから、「騎士団の部下たちが好きですよ」と答える。
——部下?
つまりロベルト副団長のことだろう。
リリアンはそう思ってこう書いた。
ぼくはロベルトふくだんちょうがだいすきです。
そして最後にこう書いた。
いい子になれるようにがんばります。
リリアンが『いい子になれるようにがんばる』と絵日記の最後に書くとみんながすごく褒めてくれるのだ。
さあ手紙の返事が出来上がった。
リリアンは声を出さずに読んでみた。
ぼくはきしだんちょうです。
ぼくはいちごがすきです。
ぼくはロベルトふくだんちょうがだいすきです。
いい子になれるようにがんばります。
最高の出来上がりだ!
丁寧に便箋を折っているとジェラルド騎士団長が「お手紙ごっこですか?」と言いながら蝋印を持ってきて手紙を閉じてくれた。
リリアンはその手紙を大事に水色のビーズバックの中に入れた。
——次はなんだったかしら?
そうだ騎士団長の汗を拭いたハンカチを手に入れるのだ。
リリアンはじーっと騎士団長の横顔を見つめる。
騎士団長の肌はどこもかしこもピカピカで汗なんて一滴も見えない。
これは困った、汗がないと拭けないじゃないか⋯⋯。
——どうしたらいいのかしら?
姉たちの願いを完璧に叶えないとパラソルとバックと手袋を取り上げられてしまう。
リリアンは考えながら両手をギュッと握りしめた。
すると自分の手が汗をかいていることに気がついた。
——これだ!
リリアンはサッとバックからハンカチを取り出すと自分の手をゴシゴシ拭いた。
——汗は汗ですわ、同じですわ。
さあこれで頼まれたことはすべて終わった。
今日はなんて完璧なのだろう。
「どうなさいましたリリアン様? とても嬉しそうですね」
「ええ、とっても嬉しいですわ。だって今日は完璧なんですもの。騎士団長様にも『10年後』と言われませんでしたわ」
「そうですね。わたくしも『10年後』と言わずにすんでとても嬉しいです」
騎士団長が微笑んだのでリリアンもにっこりと笑った。
リリアンが何か聞くたびに騎士団長が焦った様子で『それは10年後に』と言うことがふたりの間で何度もあったのだ。
だけど今日は違う。
「ごちそうさまでした、騎士団長様」
丁寧にお礼を言ってリリアンは陣営を後にした。
***
「リリアーン!!」
屋敷に戻ると姉たちはリリアンをギューっと抱きしめてくれた。
リビングには香り高い紅茶も用意されていた。
「お帰りなさい、リリアン」
「ただいまですわ」
姉たちが紅茶を注いでくれたりいろいろお世話をしてくれる。
なんだかとっても気分がいい。ニコニコだ。
「リリアン、チョコレートを渡してくれた?」
「ええ、ちゃんとお渡ししました」
「さすがよ、リリアン!」
さすがと言われてすごく嬉しい、えっへんだ!
「手紙のお返事はもらったかしら?」
「えっとそれは、⋯⋯もらいましたわ」
「あ、これね!」
姉たちが手紙を広げる。
「騎士団長様ったらとってもお茶目さん! バブみが大きいわ〜!」
姉たちが喜ぶ。
騎士団の紋章入りの便箋と蝋印のおかげか、六歳児の文字でも姉たちに疑う気配はない。
バブみってなんだろう⋯⋯。
リリアンは首をかしげた。
「汗が染みたハンカチは手に入れたかしら?」
「あの、それは⋯⋯」
「あ! これね! 湿っているわ、団長様の汗ね! 尊いわ!!」
驚いたことに姉たちはハンカチを額縁に入れて壁に飾った。
——うわー、どうしよう⋯⋯。
リリアンの想像をはるかに超えた喜びようだ。
ここまできたらほんとうのことはもう言えない。
いまさら言ったらどんなことになるか考えただけで恐ろしい⋯⋯。
だけど嘘をついていることに胸がチクッと痛んだ。
「あのねお姉様⋯⋯」
「手紙とハンカチを毎晩拝んでから寝るわ」
「あのねお姉様⋯⋯」
「私は朝昼晩と三回は拝むわ!」
「あのねお姉様⋯⋯」
「この手紙のお返事見てよ、「副団長を好き」ってはっきり書いてあるわ! やっぱり公式が最大手ってほんとなのね! 創作意欲が湧きあがるわ! 今夜は徹夜で書くわよ!!」
最大手⋯⋯?
また意味がわからない⋯⋯。
「あのねお姉様⋯⋯」
「ん? なあにリリアン?」
四人の姉がパッと振り返ってリリアンを見た。
「えっと⋯⋯」
「どうしたの?」
「えっと⋯⋯」
そしてとうとうリリアンは、まさか自分が言うとは思わなかったあの言葉を言ってしまった。
「10年後にお話ししますわ⋯⋯」
〜終〜
⭐︎次話もup中【顎クイ経験キュンキュン編】
※バブみ⋯⋯母性を感じること
※公式が最大手⋯⋯ファンの妄想を大元が超えていること
お読み頂きありがとうございました^ ^
このシリーズを面白いなと思って頂けたらこの下の☆☆☆☆☆の評価とブクマで応援してもらえると次の話を書くエネルギーになってすごく嬉しいです!
引き続き次話『顎クイ経験編』もよかったらお読みください^ ^