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とりとめのない会話をしながら、僕達は最寄り駅に着いた。定期券を使いホームに入る。電車の行き先が間違いないことを何回も確認した上で乗りこむ。今のところ、何のトラブルもない。
席には座れなかったけど、思ったよりは混んでない。
「心配しすぎだよ」
「そうなんだけど、どうしてもちゃんと確認できてたのかって不安になるんだよ」
電車は住宅街を抜けて、隣町との間の川に架かる大きな鉄橋を通っていく。右には、すぐ近くを車が並走している。
左には川が流れている。広く、大きく、淀みのない綺麗な川だ。
たまに、ここは僕達が生まれ育った世界とは違う世界だということを忘れそうになる。この景色も、街中の風景も、元の世界を探せば全く同じものが見つかるんじゃないかという程に、酷似している。
橋を渡って三駅。そこで下車した。
後は歩くだけ。道も複雑じゃない。
順調に歩みを進めていると、同じ制服もだんだんと増えていく。
僕はカバンの外ポケットに手を当てた。携帯電話の固い感触がある。先日中嶋先輩達の番号を登録するより前に、この携帯に登録されている番号が一つあった。誰の番号かは分からない。けど、中嶋先輩達以外で、僕の携帯に登録されている番号となると、おそらく僕の父親だ。
直感的にも、そんな気がしてならない。
嫌な想像をしてしまう。
この世界にも、僕の父親が居るのではないか──今、僕が居た世界では檻の中に居るあの父親が。
だとすれば、この世界の僕の父親も檻の中なのだろうか──この世界でも、僕はあいつの息子ということになっているのだろうか。
確かなのは、僕はこの番号に掛けることはないし、この番号から掛かってきても無視するだけだということだ。あいつと話すことは、もう何もない。
「どうしたの?怖い顔してるけど」
芽依さんが顔を覗き込んできた。
「いや、なんでもないよ。ちょっと緊張してるだけ」
「洸太くんなら大丈夫だよ」
「だといいんだけど……」
この世界での芽依さんの学年は、僕の一つ上だ。そう、つまり僕は芽依さんという心強い味方を気軽に頼らず、一人でクラスの人と関係を築いていかなければならない。誰とでもすぐに友達になれるような芽依さんなら一人でも問題ないかもしれないけど、生憎僕はフレンドリーな性格をしていない。実際、僕が友達と呼べるような人は、部の皆と千ヶ崎と橘さんぐらいなのだ。高校に入ってからとかではない。僕がこれまで生きてきた16年間で、だ。僕がついこの前まであまり人と関わらないようにしていたというのもあるけど。
しかしそれでも、なぜだか千ヶ崎とは出会った当初から不思議と馬が合った。知り合ったのが中学に上がってからだというのは覚えているけど、何をきっかけにして話すようになったのかも、どんなふうに仲良くなっていったのかも忘れてしまった。気づいたら親友と呼べるほど仲良くなっていた。まさか高校まで同じになるとは思わなかったけれども。
人に好かれる性格をしていて、交友関係も広いあいつが、僕と親友になったのだろうか。人の相性というのは分からないものだ。
千ヶ崎と比べると圧倒的に対人経験が不足している僕は、果たしてうまくやれるだろうか。
校門をくぐると、僕達は校門の側で待機していた中年の男性に声をかけられた。
「君達、佐伯洸太君と下風芽依さんで合ってるかな?」
「はい」
「二人一緒でちょうどよかった。転入手続きがあるから、来てくれるかな?」




