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解散した後、ひとまず自室に戻る。
超能力のを使うにあたって確認しておきたいことは、テレパシーが使える条件だ。相手との間に障害物があっても使えるのか。それと、相手との距離がどんなに離れていても使えるのか、あるいは有効範囲があるのか。他にも試したいことが出てくるかもしれないけど、とりあえずこの二つを試そう。
解散した後、千ヶ崎は真っ先に部屋に引っ込んでしまったから、用がなければ今も壁一枚を隔てた向こう側にいるはずだ。僕が壁際に寄れば千ヶ崎との直線距離は数メートルになる。さすがにそこまで近づけば、仮に相手との距離に制限があったとしても問題ないだろう。
僕は千ヶ崎の部屋の側の壁に近づいた。
……しかし、一体どうやって超能力を使うんだ?
物は試しと、目を壁の向こうにいるであろう千ヶ崎の顔を思い浮かべて話しかけてみる。
『おーい千ヶ崎ぃー。聞こえるかー?』
呼びかけると、すぐに反応があった。
『うぇっ!?洸太!?』
姿が見えないのに、はっきりと千ヶ崎の声が聞こえる。不思議な感覚だ。
これで、障害物があっても会話ができることがわかった。
『これが僕の超能力らしい』
『お前の超能力は便利そうでいいよな……』
千ヶ崎は不貞腐れたように言った。
『千ヶ崎の超能力はなんだったの?』
さっきも尋ねたことだけど、皆がいたから話せなかっただけかもしれない。
『……嫌いなものを好きなものに変える能力だとよ』
『それってつまり、ピーマンがハンバーグになるってと?』
『多分そうだろうな。俺はよぉ、手から炎がボワーッと出たり、拳一発でコンクリートを砕いたりみたいなカッコイイ超能力が欲しかったぜ』
『確かにそういう超能力には憧れるけど、現実的に考えてそんな超能力あっても危険なだけだでしょ。ちょっと使い方を間違えただけで火事になったり大ケガしたり、大変だよ』
『それもそうかもな』
『それに、千ヶ崎の超能力だって使い道はあるよ。ピーマンさえあればハンバーグが作れるんだから、ハンバーグ屋を開けば一儲けできる』
『それ慰めになってねーからな?』
『そうだ。千ヶ崎の超能力も試してみる?』
『試してみるっつったって、ただピーマンがハンバーグに変わるだけじゃねーのか?』
『うーん……。千ヶ崎って、ハンバーグの他に好きなものってあったっけ?』
『あ!ナイスバディなねーちゃん!』
『なんか、想像したら怖い』
『なんでなんでだよ。ただのねーちゃんじゃなくて、ナイスバディなねーちゃんだぜ?』
『ピーマンが人になるって考えると、怖くない?』
『そうか?昔話でもよくあるじゃねーか。桃から生まれた桃太郎とかさ』
『あれは桃から出てきただけで、桃が人になったわけじゃない』
『確かに。でも似たようなもんじゃねーか』
『そうかもしれないけど……』
『俺の超能力の話はもういいや。考えれば考えるほどろくな超能力じゃねーって気がしてみじめになる』
『じゃあ、そうだ。一つ試してみたいんだけどいいかな?』
『いいぜ。なにすんだ?』
『テレパシーを使って、三人以上で会話できないかなって思ったんだ。電話だと一対一でしか話せないけど、それができたら電話以上に便利になると思うんだ』
『おー。いいな、それ。やってみようぜ』
『うん』
頭の中で芽依さんを思い浮かべる。
『あああああああああああああああああああああああああああ!』
千ヶ崎の声で集中が切れてしまった。
『千ヶ崎、うるさい』
『たった今俺が考えた嫌がらせだ。名付けてサイレント脳内騒音攻撃!!』
『サイレントなのに騒音なの?』
『周りのやつらからは聞こえないからサイレントだろ?』
『なるほど──じゃなくて、うるさいからやめて!』
『どうだ?かなりうざかっただろ?』
『目の前に千ヶ崎がいたらナイフかなにかで刺してたと思うよ』
『怖っ!?バイオレンスすぎだろ!』
『千ヶ崎も受けてみたらわかるよ。食らえっ!あああああああああああああああああああああああ!』
『……な、なるほど、これは確かに……いや、でもそこまではしねーよ!?せいぜいメッタ刺し程度だわ』
『そこまではしないとか言っておきながら、そっちの方がバイオレンスじゃないか』
突然、勢いよくドアが開いた。
「洸太君!」
芽依さんがムッとした表情で僕を睨みつけていた。
「あれ、千ヶ崎くんは?」
「隣の部屋だけど……」
ちょうど、外から千ヶ崎の声がした。
「あれ、芽依ちゃん?」
千ヶ崎は僕とのテレパシーが途切れたから、様子を見に来たのだろう。
「あ!千ヶ崎くん!」
「え、なに?」
「千ヶ崎くんがびっくりさせるからお皿割っちゃったんだよ!」
「え、え?皿?どゆこと?」
「洸太くんも共犯でしょ!」
「め、芽依さん落ち着いて!僕達にも事情を説明してよ」
僕の部屋に二人を入れ、芽依さんに事情を聞く。芽依さんの話では、皿を洗っていたところ、急に千ヶ崎の『ああああああああああああ!』という声が聞こえ、それに驚いて手にしていた皿を落として割ってしまったという。千ヶ崎はその場におらず、一緒にいた中嶋先輩も舞依先輩も、千ヶ崎の声は聞いていないという。そして、中嶋先輩から僕の超能力だったのではないかという話を聞き、僕の部屋まで来たらしい。
芽依さんを驚かせたのは千ヶ崎の悪ふざけの声だったけれど、僕が普通に話しかけていたとしても芽依さんは驚いてしまっただろう。結果的に僕が試みた実験は成功していたけれども、急にテレパシーで話しかけられる芽依さんの身になっていなかった。前向きに捉えるならば、失敗から教訓を学ぶことができたといえるが、こればかりは完全に僕の落ち度だ。
「まあ、今度からは気をつけてね」
僕が双方の話を統合して話すと、芽依さんはそう言って締めくくった。
「それで、千ヶ崎くんの超能力ってどういう能力なの?」
「いやだ。言いたくない」
「僕には言ったじゃないか」
「いいよ、洸太くん。話すのがいやだったら、無理して聞こうとは思わないし」
「そっか。じゃあ、芽依さんの能力は?」
「『過去にその場所で起こったことを見ることができる能力』だよ」
「えっと、それはつまり……?」
「多分だけど、例えばこの部屋でさっきまで洸太くんがなにしてたかわかるみたいなことだと思う」
「じゃあ、さっきまで僕がなにしてたか当ててみてよ」
「うん、わかった」
芽依さんは少し硬直した後、二、三度瞬きをした。
「超能力って、どうやって使うの?」
「あくまで僕の場合だけど、目を閉じて千ヶ崎や芽依さんの顔を思い浮かべたらできた」
「わかった。やってみる」
芽依さんは目を閉じた。10秒ほど経って、芽依さんが目を開ける。
「えっと、ここに洸太君が戻ってきた後、私が来るまでずっと目を閉じてそこの壁の前に立ってた」
「当たってる」
「じゃあ、俺がなにしてたか見える?」
芽依さんは目を閉じるが、今度は5秒ほどで目を開け、首を振った。
「だめだった。この部屋のことしかわからないみたい」
「それなら、千ヶ崎の部屋に移動してみよう」
「そうだな……あ、いや、俺の部屋はやめとこうぜ」
「どうして?」
千ヶ崎は芽依さんに聞こえないよう、僕に耳打ちしてきた。
「エロ本が机の上に出しっぱなしなんだよ」
「ねえ、なに話してるの?」
芽依さんが首を突っ込んできた。黙って硬直する僕と千ヶ崎を見て、芽依さんは不思議そうに首を傾げる。幸い、千ヶ崎が言ったことは聞こえていないようだ。
「い、いや、なんでもないよ」
『なんでそんなものが出てるのさ』
テレパシーで千ヶ崎に問う。近くに人がいても内緒話ができるのは便利だ。
『探してみたら何冊か見つけたから、戻ったら読もうと思って出してたんだよ』
『千ヶ崎……』
『隠し場所は教えねーからな!』
『教えてもらわなくていいよ!』
「と、とにかく、別の場所にしようよ。そうだ。明華学園の場所まだ知らないから、調べなきゃ。図書館ならこの辺りの地図とかもあるだろうし」
「お前のカード探してたときにパンフレット見つけたんだけど、そこに簡単な地図が載ってたぜ」
『なんで助け舟を出したのに沈めるようなことするんだ!』
『あ!そっか、やべ!』
「そうそう、洸太くんも明華学園だったんだよね。私もなんだよ。私は二年生みたいなんだけど」
「僕は一年生らしいよ」
「じゃあ、今は私の方が洸太くんよりお姉さんなんだね。なんか不思議な感じ」
「それを言ったら俺はもっと不思議だわ。気づいたら一回り歳が離れてんだもん」
「あはは。そうだね」
「ところで千ヶ崎、そのパンフレットはどこにあったの?」
「そこの本棚だぜ」
千ヶ崎が指を指した方を探すと、すぐにパンフレットを見つけた。A4サイズで数ページある。
裏を見ると、学園の位置を示した簡単な地図が載っていた。ここから電車で三駅だ。
「そんなに遠くはなさそうだね」
横から芽依さんが覗き込んでくる。
とりあえず、千ヶ崎の部屋に行くことから話題が逸れた。
その間に対策を考えようと考えていたのだが、杞憂だった。しばらくすると芽依さんの頭から(ひょっとすると千ヶ崎自身も)千ヶ崎の部屋に行くという話は抜け落ちてしまったようで、ただただ三人で雑談をしていると夕飯の時間になり、僕は胸を撫で下ろした。




