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そこには巫女服姿の──少年とも少女とも判別できないような子どもが立っていた。──美しい。それ以外に、何かを感じる余地がなかった。
整った顔立ち、綺麗な肌。完成された芸術作品のようだ。
「これで信じるかい?」
声は相変わらず嘲笑われているような不快感を纏った声だった。
「これが実際の私の姿さ。と言っても、厳密には分身のようなものだし、君達に合わせて姿をちょっと変えているけどね」
そう言って、神はアパートの方へ歩いていく。
……信じるしかない。これも幻覚だと言ってしまえばそれまでだが、実際に目の前に居て、触れられて、言葉を交わしているのだ。これを信じないと、なにも信じることができなくなる。
「「私今のは方普が通君にの会言話語でをき話てせまるすよけうどに、し翻た訳。はそどれうくしらているはん簡で単すさか。?」」
俺の考えを読んだのだろう。質問するのと同時に答えてきた。
「聞き取れませんから、同時に喋らないでください。それで、今は普通に会話できてますけど翻訳はどうしてるんですか?」
「だから、私の方が君の言語を話せるようにしたんだって。二回も言わせないでくれよ」
「さすがにさっきのは聞き取れませんでしたから。それと、なんで巫女服なんですか?それは神自身が着る服じゃないですし、おそらく女性でもない……ですよね?」
「この服のことは、一応知っているとも。単なるお遊びさ。特に深い理由なんてない。それと、私はメスじゃない。というか、性別はない。雌雄で半々とかじゃなくて、そもそも雌雄がないんだ。生殖機能もない。気になるなら確認してみるかい?今、この場で」
「遠慮させてください」
「私の裸体なんてそうそう拝めるものじゃないよ」
「そんな冗談を言う為に姿を見せにきたんですか?」
「いいや、違うとも」
「質問を変えましょう。──こんなことをするのは、わざわざ俺に姿を見せてイメージを固定させる為だけですか?」
「さあ、どうだろうね」
「これも単なるお遊びっていうことですか?」
「お遊び、か。うーん。お遊びかと言えば、まあその一部というか、一環なんだけどね。間違ってはいない。……私は、君に私の存在を信じてほしかっただけなんだがね」
「信じてほしかった?」
「そうさ。君達を暇つぶしに見ているとは言ったけど、ただ見ているだけっていうのもつまらない。だから、君とこうやってコンタクトをとっているわけなんだが、なぜ君だけなのかわかるかい?」
「……わかりません」
「君が一番私の存在を信じてくれるだろうと思ったからさ」
「存在を信じるか信じないかで決めたんですか?」
神の存在を一番信じそうなのが俺だというのはわかる。俺は神がこの世界に干渉したのを間近で見た。二度目ともなれば、信じやすいだろうと考えるのは妥当に思えるが、どうしてそんな基準で決めたのかがわからない。
「会話相手が自分の存在を信じてくれなかったら、寂しいだろう?だからだよ。それだけの理由さ」
そうか──理解した。理解できた。人間である俺にも理解できる部分はあるのか。
「案外センチメンタルなんだよ。私は」
いつもの軽薄で嘲笑うような言葉で、自嘲する。
その自嘲に、どこか親近感を覚えてしまう。
神なんて大層な存在を名乗るものだから、相当な長い年月を生きてきたのだろうと思っていたけれど、案外中身も外見と同じくらいに幼いのかもしれない。ひょっとすると、俺よりも年下なんていうこともあるかもしれない。
「幼いって……。なんとも失礼だなぁ。私が生まれたのは、この星に最初の生物が誕生したときだ。君なんかとは比べることが馬鹿らしく思うくらいには生きているよ」
最初に生命が生まれたのが、約四十億年前とされているんだったか……。なるほど。俺のたかだか十七年とは比べることも馬鹿らしい。
それだけの気が遠くなる程の年月を生きるというのは、一体どんな気分なのだろうか。そんな思考を巡らせていると、気づけば神の姿はどこにもなかった。




