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霧が晴れるように白い光が薄くなって、消えていく。
目が見えるようになると、正面の女性と目が合った。
女性は自分の首元を見ると、頭を抱えて座り込んでしまった。
「どうしようどうしよう。本当にごめんね。絶対に元の世界に帰らせてあげるから……!」
そう言って、辺りを物色し始めた。
元の世界に帰らせる?どういう意味だ?この人が何かを知っているみたいだけど。
とりあえず、状況を整理しよう。俺は家にいた。そして、地震が起きて、真っ白な光に包まれて、数秒後、視界が晴れたらここにいた。家での出来事が夢だとは思えないし……別の場所にワープしたのか?
タイムスリップとかなのかもしれない。いや、元の世界にって言ってたし、ここはパラレルワールドとかかもしれない。
……以前までなら、そんな超常的なことが起こったなんて思わなかっただろう。しかし、俺は以前『この星の神』を自称する存在を目撃した。靄のようなそれは、あのとき確かに俺の目の前で超常的な現象を起こし、俺と会話をした。
今起こったこれも超常的なことなら、もしかすると『この星の神』とも何か関係があるかもしれない。
それにしても部屋中を右往左往しているこの女性、環ちゃんに似ている気がする。まるで環ちゃんが大人になったみたいに。環ちゃんはまだ小さい子供だったはずだけど、超常的なことが起きているのだとしたら、外見が変わるくらいはあり得るんじゃないか?
「……環ちゃん?」
「あ、ごめん。混乱してるよね。悪いけど、とりあえずペンダント探してくれるかな?裏にダイヤルがついてるやつ。この状況の説明とかもしてほしいだろうけど、今はそのペンダントがないとどうしようもない感じなんだ」
この口ぶりから察するに、環ちゃん(まだ明確には肯定されてないけど、同一人物で合っているだろう)は何か知っているみたいだ。おおよそ、そのペンダントというのがこの状況を引き起こした原因なのだろう。そういえば、さっきの幼い環ちゃんはペンダントを首に掛けていた。おおよそ、それをなくしてしまったのだろう。
「わかった。手伝うよ」
といっても、ワンルームのこの部屋で、探すような所なんてあまりない。
ソファーにテレビのリモコンがあったから、とりあえず点けてみた。番組の右上に時計と日付が表示されている。八時三十八分。日付は5月7日の日曜日だ。日付は合っているし、地震が起きたのが八時三十五分頃だったから、時計もおかしくない。
──ただ、朝のニュース番組に映っているのは、知らない局、知らない番組、そして出演者は誰一人として見覚えがない人達だった。
背中にゾクリと寒気が走った。すぐにテレビを消して、逃避するようにペンダントがないか探し始める。
嫌な感じがする。……皆はどうなったんだ?俺一人が巻き込まれたとは限らないし、ペンダントよりも先に、皆を探して合流することが先なんじゃないか?
『なんだか、また厄介なことに巻き込まれてるみたいだね』
突然、頭の中に中性的な声が流れ込んできた。軽薄で、全てを嘲笑っているような声。
あの時の神だと直感した。
『あなたの仕業ですか?』
頭の中で質問すると、答えが返ってきた。
『違うよ。わざわざそんなことしないさ。僕は関係ない。少なくとも直接的にはね』
『間接的にならあると?』
『あるかもしれない。いや、あるだろうね。なにせ、俺がこの世界をここまで作り上げたといっても過言じゃないからね。視野を広くすれば、間接的に関わったと言える。でも、君が巻き込まれたのは偶然さ。私が意図したものではないよ』
信用していいのだろうか。
……仮になにか目的があったとして、わざわざ俺にコンタクトをとってくるか?どの程度の力を持ているか分からないが、その気になれば大抵のことはできるだろうに。
『なんの用ですか?』
『用っていう程の用はない。ただの暇つぶしさ』
『暇だというなら、答えてください。俺は──俺達は何に巻き込まれたんですか?』
『それは彼女から聞いた方がいいだろうね。君の友人達もそろそろ来る頃だし』
やっぱり、皆も同じく巻き込まれたのか。
『そろそろ来るって、皆の居場所が──』
ピンポーン。
インターホンの音が響いた。
急いで向かって、ドアを開けると、皆がいた。
舞依はなぜか幼少の頃の姿になっているし、千ヶ崎君は背が見違えるほど高くなっているけれど、間違いない。
「皆!よかった。無事みたいで」
皆揃っている。先に合流していたんだろう。とりあえずはこれで一安心だ。吉川君がいないのは、彼があのとき寮にいなかったからだろう。




