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「なあ、ちょっと熱くね?」
「確かに。エアコンの温度もう少し下げる?」
「いや、アイス食べようぜ」
「アイスなんてないけど」
「マジか。じゃあ買いに行くしかないかぁ」
「外の方が暑いよ?」
「そうだよなー。……まあいいや。買いに行こうぜ。日も沈んでるし、そこまで暑くないだろ」
「だといいんだけど……」
「洸太も来いよ?」
「わかってるよ」
千ヶ崎が外に出ると「うわっ」と小さく押し殺した悲鳴が外から聞こえた。
外に顔を出して声のした方を覗くと、ジャージ姿の橘さんが佇んでいた。
「なんだ、千ヶ崎かぁ。びっくりした」
心底安堵した表情で橘さんは呟いた。出くわしたのが舞依さんや芽依さん、環さんじゃないことに安堵したのだろう。
「つーか、部屋に籠ってるはずなんじゃねーの?」
そう。橘さんの超能力は『女性を惹きつける』能力。しかもその超能力を本人は制御できない。もし女性と鉢合わせてしまったら、その人は橘さんをなにがなんでも──たとえ暴力的な方法を用いようとも橘さんを手に入れたくなってしまうらしい。とりあえず部屋にいれば周囲に影響はないようなので、橘さんは部屋で過ごすことになっているが……。
「べ、別にちょっとくらいならいいでしょ!」
「でも、もしまた超能力で大変なことになったら……」
「まあ、ちょっと出歩くくらいなら別にいいんじゃね?もう遅いから人も少ないだろうし、俺と洸太もいるから大丈夫だろ」
千ヶ崎は初日に橘さんの超能力にあてられた下風姉妹の恐ろしさを体感しているわけだし、その千ヶ崎が大丈夫だと言っているのだから大丈夫なのだろう。




