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僕達がいた世界と同じようにこの世界の今の季節は初夏のようだ。室内はクーラーが効いていたから暑さを感じなかったが、日の当たる外に出ると、一気に暑さを感じる。まだ正午からは遠い時刻であるにも関わらず、快晴の空から日が射してくる。
唐突に環さんが尋ねた。
「そういえば、中嶋君って彼女とかはいるの?」
「いや、いないですけど」
中嶋先輩は面食らったような表情をしながら答えた。
「ふうん。そうなんだ。君、かなりモテそうだと思うんだけど」
悪戯っ子のような笑みを浮かべて、環さんは中嶋先輩の顔を覗き込んだ。
「モテますよ。中嶋先輩は。でも、皆舞依先輩を彼女だと思っているから手をだせないんだと思います」
僕は額に滲んできた汗を腕で拭いながら言った。
僕から見ても実際にあの二人はお似合いだと思う。まだ付き合っていないことが不思議なくらいに。
「そうなのか?初めて聞いたよ」
嫌味で言っているようにも見えない。周りであれだけ噂されているにも関わらず、本人は全く気付いていなかったのか。
「あー、そういう感じね。悪いことをしたなぁ」
と、環さんは苦笑いを浮かべる。
「どうしたんですか?」
「私と中嶋君、同じ部屋に居たでしょ。つまり、この世界では私達が同棲しているってことじゃない。そんなの他の人に申し訳ない」
そんな会話を聞いていると、反対側の道路に、フラフラと歩く人影が見えた。それは、僕と同い年ぐらいのリュックを背負った女の子だったのだが、足取りはおぼつかなく、肩で息をするように歩いている。今すぐに倒れてしまっても全くおかしくない。
「中嶋先輩──」
僕が呼びかけた時には、既に中嶋先輩は後ろの点滅している青信号に向かって走り出していた。
すぐに後を追ったが、僕と環さんは信号に捕まってしまい渡れなかった。
すぐに目の前を車が行き交うようになる。中嶋先輩の方に目をやった。中嶋先輩は既に女の子の下へ辿り着いていて、倒れこんできた少女を支えていた。
「とりあえず、俺はこの子を家に連れて帰るから、図書館を探すのは頼むよ」
僕達が駆け寄るなり、中嶋先輩はそう言った。
「わかりました。その子は大丈夫そうですか?」
「うん。きっと、寝て休んだらすぐ直るよ」
中嶋先輩が地図を手渡してきた。
「気をつけてね」
「はい。中嶋先輩も気を付けて」
少女をおぶって、中嶋先輩達は来た道を戻って行った。
「一人で大丈夫なのかな」
環さんが呟いた。
「中嶋先輩の判断ですから。きっと大丈夫ですよ」
「……行きましょうか」
環さんは図書館の方へ歩き始めた。
「一つ、訊いてもいい?」
歩きながら、環さんが尋ねてきた。
「なんですか?」
「君達は元の世界では学生のようだけれど、同じ一軒家に住んでたよね。寮には見えなかったし、君達はどういう関係なの?」
僕達の関係──。
千ヶ崎は親友だ。橘さんは親友とまではいかないが、友達だ。
が、質問はその二人のことではないのだろう。
「……」
何も答えることができなかった。避けていたのではなく、単純に僕達の関係を形容する機会がなかった。
「同じ部活の仲間です」
そう答えた。僕にとってこれが一番的確でしっくりくる表現だった。
「部活?」
「お悩み相談部みたいな部活です」
あくまで、表向きには。
「それで、一緒に住んでたのはなんで?
「それは……」
答えづらい質問だ。説明しようとすれば長くなってしまうし、まだ『あのこと』について、僕自身
まだ整理ができていない。
「中嶋先輩に訊いてください。僕から言っていいのか……」
「中嶋君だったらいいの?」
「……はい。中嶋先輩の判断なら」
いつの間にか、図書館らしき建物がもう見えるようになっていた




