31
「優君も料理上手だよね。優しさと根気の味がする。皆の為を思って頑張ってきた。そんな味」
僕は料理上手な中嶋先輩しか知らない。けれど、きっとそうだと思う。初めは全く経験がない状態からだったと芽依さんから聞いたことがある。そこから教わって、調べて、試行錯誤して、それで上達していったのだろう。
「到着」
と、コンビニの前で立ち止まった。
適当に歩いているのかと思っていたけど、ここに向かって歩いていたようだ。
車を二、三台停めることができる駐車場が備え付けられた、河川敷にあるそれなりに広いコンビニだ。
「ちょっと飲み物買ってくるから待ってて」
そう言って、環さんはコンビニの中に入っていった。
自動ドアの横で環さんを待った。
遠くに鉄橋が見える。あそこを通って通学しているんだ。今の時間だと、さすがに電車は通っていないけれど、車用の橋ではトラックのヘッドライトがまばらに見える。
月と街の灯りに照らされて、川の水面がゆらゆらと暗く光っている。
しばらくするとペットボトル二本をひらひらと掲げた環さんが出てきた。
「緑茶とミルクティー。どっちがいい?」
「じゃあ、緑茶で」
緑茶を僕に渡した後、環さんはガードパイプに腰掛け、紅茶を一口飲んだ。
僕もそれに倣う。この暑さの中、冷えた飲み物を飲むのは心地良かった。
「年齢を聞かれたお返しに、今度はこっちの番。大丈夫、スリーサイズは訊かないから」
もちろん冗談だろうけど。そもそも僕はスリーサイズなんて測ったことがないから答えられない。
「優君のこと、尊敬してる?」
質問の意図がわからない。けど、答えは決まりきっている。
「はい。尊敬してます」
「そっか」
そう呟き、環さんは頷いた。
「一つ、いいかな?人生の先輩であるお姉さんからのアドバイス」
「アドバイス……ですか?」
「うん」
環さんは紅茶を一口飲んだ。
「君さ、優君に頼りすぎてない?」
「中嶋先輩に……」
「例えば、元の世界に帰る方法も、君は何も考えてないでしょう?急に違う世界に異ったわけだし、仕方ないとは思うけど」
図星だった。今の今まで、目の前のことに手一杯で、元の世界に帰る方法を探すなんて全く考えていなかった。これまでに何かヒントがあったかもしれないのに。
「まあ、私も君達を巻き込んでおきながら全く役に立ってないんだけどさ」
環さんは自嘲するように笑った。
「あとは、料理とかもそうだね」
「頼りすぎっていうのは君だけに限った話じゃないけど、君が一番顕著だと思う」
思い当たることはいくつもあった。この世界でも、元の世界でも。
「確かに彼は、責任感が強くて真面目だけど、それでも一人の人なんだよ。助けたり手伝うばかりで、自分からはヘルプを求めない──そんな生き方、必ずいつか限界が来る。そのとき、すぐ彼に頼ってきた君は、いったいどれだけのことが一人でできるんだろうね」
……そうだ。全くその通りだ。僕は、中嶋先輩に完全に依存している。
「他人任せにしない。優君みたいに一人で抱え込むのも良くないけど、とりあえず、それを頭の片隅にでも入れておいてほしいな」
しばらくの沈黙の後、環さんが立ち上がった。
「帰ろうか。もう遅いし」
コンクリートで舗装された道をひたすら歩いていく。会話はなかった。
──じゃあ、また明日。
と言葉を残して、環さんは自室に戻った。




