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『倉地君と同じ学校で、しかも同じクラスだったんだね。知らなかったよ。彼は信頼できる人だから、俺達が違う世界から来たことを話したんだ。通り魔事件についても、協力してくれているよ』
電車に乗っているとき、そのメールが中嶋先輩から届いた。
中嶋先輩が信頼できるというのなら、そうなのだろう。僕達が違う世界から来たことを他の人には話さないようにしようと僕達の間で決めたが、それでも倉地に話したということは、何か事情があったのだろう。
そのことについての詳細を中嶋先輩から聞こうと思い、自室に行く前に中嶋先輩の部屋を訪ねたが、鍵が掛かっていた。
仕方なく自室に戻り、制服から部屋着に着替えて腰を落ち着けたところで、携帯を開く。
あれ以降倉地からメールは届いていなかった。
僕は倉地に『僕は中嶋先輩と一緒にこの世界に来た』と送った。
すぐに返信が来た。ずっと僕の返信を待っていたのだろうか。だとれば悪いことをした。
『わかった。合っているならそれでいい。本題に入る。佐伯は例の暴力事件の犯人を捜しているのか?』
『捜してる。けど、どうして知っているの?』
『今朝の佐伯と新井のやり取りを聞いてそう思った。それと、転入してきた時期が中嶋さんがこの世界に来た時期と近かったからだ。一つ質問がある。犯人を見つけてどうするつもりだ?』
あの時は本を読んでいるように見えたが、聞き耳を立てていたのか。それでも終始小声で話していたし、いくら何でも聞こえるだろうか……。いや、今はいい。
犯人を見つけてどうするか。犯人を見つけたら、あとは中嶋先輩がなんとかしてしまうだろうと思っていたから、見つけた先のことは考えていなかった。だけど、暴力事件を止めたいと思うのは僕も中嶋先輩と同じなのだ。
『監視隊に引き渡すなりして、止める』
『ならいい。俺と目的は一致している。だから、犯人を教えようと思う。主犯は新井、共犯者がアランフェス、安藤、筑波の四人だ』
やはり芽依さんの言った通り新井さんが犯人だったのか。アランフェスというのは、おそらく背の高い外国人の男子だろう。一年の廊下で度々見かけるし、姿が目立つので印象に残っている。新井さんがアランフェスと話しているのは見たことがないから、陰で協力しているということか。あとの二人は全く知らない。僕と芽依さんが作ったリストにも名前はなかった。
『新井は自分の能力を、水を別の液体に変化させる能力だと公言している。周囲の人間もそう認識しているが、本当は違う。奴の本当の能力は『嘘を本当だと認識させる能力』だ。例えば、奴が自分の能力は『水を別の液体に変化させる能力』だと嘘を吐けば、それを聞いた人間はそれを本当のことだと錯覚する。水をジュースに変えたと言えば、それを聞いた人間は、ただの水を色も味も匂いもジュースだと感じてしまう。実際、そうやって自分の能力を偽ってきたんだろう。ここまでのことを起こしても監視隊に捕まらずにいるのだから、おそらく公的な書類も騙したのだろう。被害者全員が犯人の顔を覚えていないと証言したのも、奴が被害者に、お前は犯人の顔が見えないというようなことを言ったからだろう』
なんという悪質な能力だろうか。この話が真実なら堂々と犯罪をしたとしても、嘘を吐けば容易く言い逃れることができる上、他人に罪を着せたりも難しいことではないように思う。
転入初日の僕に真っ先に話しかけてきたのも、自身の能力について嘘を吐くためだったのだろう。
一つ、疑問が浮かび上がった。
『倉地はどうして荒井さん達が犯人だっていうことと、新井さんの本当の能力について知っているの?』
生徒のみならず国までもを欺くことができるというのなら、なぜ彼は新井さんの嘘を嘘と見破れるのか。
『俺の超能力は、自分の脳も操作できる。だから、奴の超能力によって脳にバグのようなものができたら気づけるし、それを操作して治すことができる。奴は自分の能力に胡坐をかいて派手に好き勝手やっているから、奴の能力を無効化できれば、奴が暴力事件の犯人だということは簡単に分かった。まあ、奴の方も、俺に超能力が効かないと薄々気がついているようだし、かなり警戒されているが』
あのとき人目を避けたのも、新井さん達に僕と接触するところを見られたくなかったからか。一応、話に筋は通っている。中嶋先輩のお墨付きもあることだし、倉地のことは信用できる。だけど……。
『でも、どうやったら止められるの?』
例え現行犯で捕まえたとしても、嘘を吐かれると終わりだ。
『犯行の映像を撮るしかない。奴の能力は映像越しなら効果がない。実験済みだ』
なるほど。新井さん達に気づかれずに現場を抑え、それを撮影する。それならできそうだ。だけど、それは新井さん達が行う暴力を一回止めることなく、ただ見てろということだ。諸手を挙げて賛成することはできない。
『明日、四組の佐藤玄信が被害に遭う。佐藤は委員会の集まりが終わってから帰るだろうから、時間は六時頃。場所は学校から北の方の住宅街にある廃ビルだ。佐藤はそこに連れ込まれるはずだ』
『どうしてそんなことまで分かるの?』
『盗み聞きだ。脳を操作して聴力を上げた』
『それができるなら、他の被害も止められたはずだよ。どうして見逃していたの?』
文字を打つ手が、自然と力んだ。
『さっきも言ったように、俺は奴らに警戒されている。それに俺の能力は喧嘩に使えないから、もし撮っていることに気づかれたら、打つ手がない。監視隊に行っても、ただの高校生が証拠もないでたらめを語っているだけと思われて、相手にされないだろう。だから、俺の代わりに動いてくれる人を待っていた』
倉地の言うことはもっともだと思う。だけど、分からない。あまりにも冷静すぎる。倉地は新井さん達を止めたいと思っているんじゃないのか?僕や中嶋先輩と同じ思いで動いているんじゃないのか?これまで防げるかもしれなかった被害をみすみす見逃してきたことに、何も感じないのか?どうしてこんなに淡々と話を進められるんだ?
『それと、申し訳ないが俺は別のことで忙しいから明日は行けそうにない。代わりに、信頼できる人がいるから、助っ人に行ってもらう。他に何か聞きたいことがあれば答える』
なんなんだこいつは?暴力事件を止めることよりも大事なことがあるというのだろうか?中嶋先輩はなんでこんな人間を信用していいなんて言ったんだろう?
苛立ちを抑えながら、僕は中嶋先輩にメールで事の経緯を説明した。




