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Judgment Mythologies  作者: 篠山 翔
佐伯洸太
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1

僕は朝に弱い。毎朝、半ば無意識に体を起こして顔を洗い、朝食の席につく。ここまでいつも意識がはっきりしてないし、ぼーっと、何を考えることもなく決まった行動を繰り返している。そんな状態のときは、はたして起きていると言ってよいのだろうか。そんなことを時々考える。

朝にベッドの上で、意識があるんだかないんだかわからないような状態で、あと少しで体を起こそうと思っているときは、ひょっとしたら完全に寝ている時よりも案外心地良かったりするのだ。

その点に関して朝に強い下風姉妹とは、一生かかってもわかり合えない気がする。

話が大分逸れてしまったが、とにかく、僕は朝に弱い。

今日も学校はなく、誰に起こしてもらうこともなかったから、昼あたりまで眠っていた……はずだ。

なんだかベッドや枕に違和感があるような気がしてぼやけた頭でうっすらと目を開けると、部屋の内装がガラッと変わっていた──いや、内装とかの問題じゃない。僕の部屋には畳なんて敷かれていないし、そもそも僕は今布団で眠っていた。ベッドではなく。僕が眠っていた部屋が、全く別の部屋になっている。眠気が一瞬にして吹き飛び、意識が完全に覚醒した。

間取りを見る限り、一人暮らし向けのアパートといった感じだ。畳が六畳と、ど真ん中に小さなちゃぶ台が置いてある。居間から窓を覗いてみるけど、外にはやはり知らない景色が広がっている。が、景色に違和感はないし、道を歩いている人は日本人だ。つまり、ここは日本国内のどこかということだ。寝ていると急に知らない場所にいたことにはまだ混乱と恐怖があるけど、ここが辺鄙な場所でもないし、帰れる望みがあると分かって、少し落ち着いた。

実は、僕には夢遊病があって、他人の家に上がり込んでるのではないか?それが一番現実的な感じがする。となると、僕は不法侵入しているのか?

いや、ない。もし夢遊病だったら、布団なんてわざわざ出して眠ったなんてしないはずだ。

「誰かいませんかー!」

いるかもわからない誰かに呼びかけてみるけど、声が返ってくるどころか、物音一つ聞こえない。

とりあえず部屋を見回すと、充電器に刺さっている携帯電話があった。

けれども、明らかに僕が使っている携帯と機種が違う。他の皆が使っている携帯でもなさそうだ。

とにかくまずは中嶋先輩あたりと連絡を取りたい。

でも他人の携帯を使うのは流石にまずい。かと言って、固定電話は見当たらないし、財布も持っていないから公衆電話も使えない。

もしかすると財布を持っているんじゃないかと思い、念のために確認しようとして、気づく。

僕が着ていたはずのパジャマではない。ますます僕の身に何があったのか、或いは僕が何かをしてしまったのか、分からなくなってくる。

中嶋先輩と連絡を取るため、目の前にある他人の携帯を使っていいものかどうか逡巡していると、インターホンが鳴った。

まずい。

直感的にそう思った。部屋の主が帰ってきたのかもしれない。

いや、だったらインターホンは鳴らさない。

だとしたら宅急便だろうか?申し訳ないが居留守を使わせてもらおう。出るのは絶対にだめだ。

下手したら──いや、例えしなくても警察に通報されてしまう。あの来訪者が誰だかわからないけど、口八丁を使って上手く立ち回れる自信はない。

それは本当にまずい。そうやっていろいろ考えてる間にも、インターホンは絶えずなり続けている。

というか、勢い良く連打されている。

怒りの感情が伝わってくる気がする。

このままでは一生インターホンを鳴らされ続けられるのではないかと思った僕は、意を決してドアを開けることにした。

ドアチェーンが付いていたので、一応しておくことにしたが、ドアには不親切にも覗き穴がついていない。

覚悟を決めるんだ。

鬼が出るか蛇が出るか。いまだにチャイムが鳴り続ける中、僕は恐る恐るドアを開けた。

まず目に入ったのは芽依さんと橘さんだ。どうしてここにいるのか。その疑問を持つ間もなく、他のもう二人を見て、驚愕した。それはもう本当に目が飛び出るんじゃないかと思ったくらいに。

「よう、洸太。ずいぶんおせーけど、寝てたのか?」

千ヶ崎がいつもの調子で尋ねてくる……けど。

「千ヶ(ちがさき)……?」

「おう、そうだぜ」

と千ヶ崎は快活に笑う。

「お前、その身長はどうしたんだよ」

千ヶ崎は、高校生の、しかも男子であるにも関わらず、小学生と間違われる程に身長が低かったはずだ。そのはずなのだ。しかし目の前にいる千ヶ崎は180cmはある。中嶋先輩と張り合えるレベルだ。

「なんか気づいたらでっかくなってた」

「気づいたらって……。」

それと……。

「舞依さんですか?」

「ええ、そうよ」

千ヶ崎とは反対に、高校三年であるはずの舞依さんは小学生のように幼く──。

「芽依さんに見せてもらったアルバムのまんまだ……」

「芽依、何勝手に見せてんのよ」

外見はともかく、中身は僕のよく知る舞依先輩で間違いない。

中身は年上だと分かっていても、先輩と呼ぶのはどうしても違和感がある。

「そういえば、洸太くんも年齢が変わってないね」

芽依さんに言われて、気づく。

「年齢……。ああ、そうか。身長が変わったんじゃなくて、年齢が変わったから身長も変わってるっていうことなのか」

確かに、千ヶ崎の口元にはうっすらと髭が見えている。千ヶ崎は髭なんて微塵も生えていなかったはずなのに。そういえば、腋毛もまだ生えていないとか言っていた気がする。いや、そんなこと今はどうでもいい。

「芽依さんと橘さんも年齢は変わってないみたいだけど」

「いや、うちはちょっと変わってる……と思う。なんていうか、ちょっと体が大きい気がする。上手く言えないけど」

「いいから早く次に行きましょう。次の部屋に優と、環とかいう子がいるはずよ」

「次の部屋?」

「洸太も気づいたらこのアパートにいたんだろ?俺らもなんだ。だから、最後の一部屋に中嶋先輩がいるはずなんだ」

「吉川先輩は?」

詳しくは聞いていないけど、吉川先輩はどこかに行くとかでしばらく家を空けているはずだ。もしも巻き込まれていたら、僕たちと同じようにこのアパートにいるかもしれない。

「知らないわよ」

そう言って、舞依先輩は僕がいた部屋の隣の部屋に移動していく。

僕は裸足のまま靴を履いて、舞依先輩を追いかけた。パジャマを着替えるのを忘れたけど、それは後でもいいだろう。

舞依先輩は、玄関の前で立ち止まり、ボタンに手を届かせるためにつま先立ちになって、インターホンを鳴らす。

少し間をおいて二回目を押そうとしたとき、開錠音が鳴り、扉が開いた。

「皆!よかった。無事みたいで」

中嶋先輩が僕らの顔を見て、心底安堵したように言った。

そして、中嶋先輩の後ろから、知らない女性が顔を覗かせていた。


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