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「どうしたの?怖い顔して」
不意に後ろから新井さんに話しかけられた。できるだけさりげなくメモをポケットにしまって答える。
「ちょっと考え事をしてたからかな」
新井さんが事件に関わっているかもしれないという疑念と警戒が強く、返答に若干の棘があるのが自分でもわかった。
僕の言葉にあった棘に気づいていなかったのか、それとも意に介していなかっただけなのか、新井さんは気にする様子もなく、辺りを見回すと、小声で突拍子もない質問をしてきた。
「倉地君がどうかしたの」
「どうして?」
「紙に書いてあったのがちらっと見えたから」
見られていたのか。倉地の名前をだしたのは、倉地の名前しか見れなかったからなのか、それとも──。
こうなってしまった以上、下手にはぐらかしたりすのではなく新井さんの方に鎌をかけてしまおう。
僕は倉地類が離れた席で本を読んでいるのを確認して、話し始める。
「僕は──」
そう、あくまで『僕は』だ。僕一人で、だ。万が一にでも芽依さんの方に危険がいかないように。
「最近起こってる暴力事件を止めたいと思って、犯人を捜してるんだ。犯人の顔を見たはずなのに思い出せないっていう被害者の証言から、犯人の候補が三人見つかったんだ」
「その一人が倉地君ってこと?」
「うん。新井さんはどう思う?」
「確かにありそうな話ではあるかな。私は犯人じゃないから分からないけどね」
白々しく、新井さんは答えた。だけど、失言もしていないし、動揺した様子もない。
思考を遮るように、チャイムが鳴り響き、担任教師がガラガラと扉を開けた。それを見て新井さんはそそくさと自分の席へ戻っていく。いいタイミングだったのかもしれない。僕が──僕達が新井さんを犯人、もしくはその仲間であるという確信を持っていると悟られてはいけないし、いくら僕の能力が襲われる可能性の低いであろうテレパシーであっても、危険視されると襲われるかもしれない。ひとまずは、これでよかったと思う。