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「ありゃ無理だな」
水上先生が呟いた。冷静に、無感情に。それは失望の言葉ではないのだろう。端から期待などしていないから、失望ではない。ただ選別をしている上で無理そうだと思ったのが口に出た。それだけなのだろう。
俺は、決心をした。
舞依に超能力はできるだけ使うなと言われていたが、これを見せられて使わないわけにはいかない。
俺は俺の持つ体力や足の筋力を、彼に貸し与えた。
すると突然、立っているのが辛くなってきた。足に上手く力が入らない。立っているのがやっとだ。
そうか。当たり前のことだ。貸している間は俺からその力がなくなるのだ。
しかし、彼の走る速度はみるみる上がっていく。このペースならばなんとか間に合いそうだ。
「中嶋先生、大丈夫ですか?顔色が悪いようですけど」
「いえ、大丈夫で──」
ガクンと膝が折れ、倒れそうになったところを水上先生が支えてくれる。
「本当に大丈夫ですか?少し休んだほうが……」
「いえ、大丈夫ですから」
そう言って足に力を入れて立ち上がる──なんの問題もなく、すんなりと。
しまった──出かけたその言葉を呑み込み、前を見る。
ゴールの手前一メートル。小野元 心がうつ伏せに倒れていた。
倒れかけたときに、彼のことが頭から離れたからだろうか。いつの間にか超能力が解けてしまったのだ。
小野元心からすれば、走っている途中で急に足に重りをつけられたようなものだっただろう。
彼に立ち上がる力はもう残っていなかった。這いつくばったままゴールに手を伸ばすが、届かない。
もう一度超能力を使わなければと思った瞬間、水上先生が時間切れを宣告した。
彼の絞り出すような慟哭を聞き、きつく俺は奥歯を噛み締めた。