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手元のクリップボードに目を落とす。
小野元 心──それが今グラウンドで走っている生徒の名だ。
超能力の有用性も知力も、どちらも評価は「低」だ。
運動能力の試験の結果も芳しくない。このままだと運動能力も「低」になってしまう。
隣の水上先生が持つストップウォッチを横目で覗く。
三十秒──運動能力の評価を「並」にするには、残り三十秒で二百メートルを走らなければならない。
不可能ではない。だが、彼の体力には限界が見えていた。初夏の気温もあって、丸みを帯びた顔には汗が滝のように流れ、真っ白だった体操服は汗が染み込んで色が変わっている。顎が上がり、腕の振りも弱い。速度ももはや歩きとほとんど変わらない。それでも前に進もうとするが、足がついてこず、上半身だけが先走る。
その様子を通常の体育の授業を受けている生徒達が遠くから横目で見ていた。好奇と侮蔑と安堵の混じったその視線に気づく余裕もなく、彼はただ走っている。