表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Judgment Mythologies  作者: 篠山 翔
佐伯洸太
12/159

11

アパートに帰ってくると、芽依さんと別れ、自分の部屋に戻った。

靴を脱いで上がると、今日の疲労が一気に押し寄せてきた。そのままゆっくりと、出しっぱなしの布団に寝転がる。

慣れないことばかりで、だいぶ心労が溜まっていたのだろうか。まだ夕方だというのにも関わらず、すぐにでも深い眠りについてしまえそうだ。

寝ていたり、うとうとしていたりすると、体感よりも速く時間が過ぎ去ってしまうものだ。

どのくらいの時間だったろうか。睡眠と覚醒の間を彷徨っているとドアの開く音が聞こえた。

そういえば、鍵はしていなかったはずだ。

アパートには僕達しか住んでいないし、僕にはアパート全体を僕達で分け合って暮らしているという意識がある。元の世界でも千ヶ崎と橘さん以外は同じ家で暮らしていたことも、家を共有して使うという感覚がある要因だろう。誰かが訪ねてくるかもしれないと、部屋に居るときは、鍵を掛けないようにしている。

目を開けて、ゆっくりと体を起こす。

「よう。元気してるか?」

千ヶ崎だ。見た目が──主に身長が全く変わってしまっているが、顔には元の面影があるし、仕草も口調も全く変わっていない。

「それなりに」

千ヶ崎は靴を雑に脱ぎ、無遠慮に上がり込んでくる。

「改めて見ると、お前の部屋すっからかんだな。テレビもねえし」

「こっちに来た時から僕の部屋はこうだったよ。僕がどうこうしたわけじゃないから、文句を言われても困る」

「それもそうか。でも、お前の部屋も元々こんな感じだったろ」

「言われてみれば、確かに」

この部屋の質素な内装は僕好みというか、僕がこの部屋で暮らしていたらこんな風になっていたのだろうと思わせる。

「さっきちょっと見たけど、この世界もテレビは面白かったぞ。俺の知らない番組ばっかやってて新鮮だった」

「本ならあるけど」

「いいよ。どうせ本って言っても、漫画とかじゃなくて小説とかしかないんだろ?」

「それも本だよ」

「俺はそーいうのは本だと認めてない!」

「本じゃないならなんなのさ」

千ヶ崎は腕組みをして考え込む仕草をした。

「……とにかく、俺の中では本じゃないんだよ!」

「少しはそういう本も読んだ方が良いと思うけど」

「余計なお世話だ!本以外に何かないのかよ」

「そうだ、ウォークマンならある。僕達の居た世界とはちょっと違ってるけど。機能は大体一緒だった」

「それなら俺の部屋にもあったぜ。他にはねーの?」

「本」

「だからいやだよ。まあいいや、そんなことよりさ、そっちはどうだったよ。久々の高校は。確か一か月ぶりくらいか」

「特に変わったことはないかな。授業も国語とか数学とかで変わらないし、桜幕高校から違う高校に転入したみたいな感じがした。この世界の人も超能力があること以外は普通だし。千ヶ崎の方はどうだった?」

千ヶ崎はこの世界ではどこかの会社の社員──いわゆるサラリーマンらしい。

「なんか、高校生って良いもんなんだなーって感じた」

「サラリーマンってそんなに大変だったの?」

「大変だね。学生なら授業と授業の間に休み時間があったけど、それがないんだ。昼休みだけしかないんだぜ?それに、授業なら寝てたりボケーっとしてたりサボったりできたけど、んなことしてるとこっぴどく怒られるんだぜ?」

「当たり前だよ……」

生活がかかっているのだ。上司の人も大変だろう。

「つーか、なんで異世界にまで来て普通に仕事しなきゃなんねーんだよ。せっかく超能力があるんだから、もっとこう、クレイジーであってほしかったぜ。カッコいい超能力でゲームみたいに敵を倒していったりとかさ、そういうことがしたかったのに」

「馬鹿な事言うなよ。こうして皆無事に暮らせてるだけでも幸運なんだから。もしそんな世界に異ってたら、こんなに平和的に暮らせないし、元の世界に異るどころじゃないだろ。最悪誰かが死ぬかもしれない」

「確かに……。悪かったよ……」

それで会話は途切れた。僕は本を読んで、千ヶ崎は所在なさげに部屋をきょろきょろと見ていた。

「あ!」

と、千ヶ崎は何かを思い出したかのように指を鳴らした。数秒前と打って変わって表情は明るい。

「どうしたの?」

「めちゃくちゃかわいい同僚の子がいたんだよ!マキちゃんっていうんだけどさ、話してみたら性格もいいし、こっちに気があるような素振りがなくもないっていうか、思い切って今度二人きりで遊ぶのもいいかなって思い始めたわけさ!」

「あー、またね……」

「またとか言うなよ!こっちはマジなんだよ!」

千ヶ崎は悪い奴じゃないのだけど、女癖が悪いというか、ものすごく惚れっぽい。そのくせすぐに冷める。本人は毎回この調子で大真面目だと言ってはいるけど、今回も例に漏れず、いつに間にか熱が冷めてしまっていることだろう。付き合うまでに至ったことも何度かあるけど、毎回恋の熱が冷めることでいつの間にか別れてしまっている。千ヶ崎とは中学からの付き合いになるけど、僕が知っているだけでも、もうこのサイクルは二桁に届くんじゃないか?またかとも言いたくなる。こんな状況でも恋愛ができるのは、もはや才能だ。

本当に、悪い奴ではないんだけど……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ