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Judgment Mythologies  作者: 篠山 翔
佐伯洸太
10/159

「えーと。佐伯光太です。気軽に話しかけてください。よろしくお願いします」

自己紹介の文言は、悩み悩みに悩んだ結果、無難な台詞に落ち着いた。

緊張したけど噛まずに言えたことは良かったと思う。

僕達はどうやら転校生らしかった。

一学期も終わろうかというこの時期に、しかも一年生が転校してくるというのはこの世界でも珍しいだろう。

「……それで、超能力は?」

先生が少し困惑した風に尋ねてくる。

「『遠くの人と話すことができる能力』です」

「ありがとう。それじゃあ、あそこの席に」

僕は担任に指された席──黒板から見て右端の席に座る。

自意識過剰かもしれないけど席へ向かう時にも、クラス中から疑念と好奇の視線を感じた。

ホームルームが終わると、一人の女子が真っ先に僕の机の前に来た。長く整った髪に、凛とした顔立ちをした女子だった。

「すごいね。テレパシーって、とても便利な超能力だっていう話だよ」

まさか急に話しかけられるとは思わず、自己紹介の時のように、心臓が鼓動を強めた。

「そこまで便利だとは思わないけど」

「気軽に電話ができるなんて便利でしょ?そして何より、使ってもバレない」

「そう言われれば、確かに」

「そういえば、言ってなかったね。私、新井(あらい)羽央(はお)。超能力は──そうだ、好きな飲み物は?」

新井さんは、何かを思いついたように尋ねてきた。

「緑茶かな」

「オッケー。じゃ、ちょっと来て」

僕は流されるまま水道の前に立たされた。

「今からここから緑茶が出ます。さあさあ飲んでみて!」

蛇口を捻って出てきた液体を飲む。

「緑茶だ。色も。味も」

「どう?これが私の液体を飲料に変える能力」

「大丈夫なの?もし見つかったら……」

この国には、警察ではなく、超能力不正使用監視隊──通称監視隊という組織がある。警察と大体同じ役割だが、こちらは超能力の不正使用も取り締まっていて、無闇に超能力を使うと目を付けられてしまうらしい。だから街中で目立つ能力を使っている人はいないのだ。

「これくらいなら大丈夫だよ。心配しすぎ。緑茶に限らず、何か飲みたくなったら気軽に言ってね」

「新井さんの能力も便利そうだね」

「まあね、その気になれば濃硫酸とかにもできるし。一回飲んでみる?」

恐ろしい冗談だ。

「次の時間は教室移動だから、佐伯君も早くした方が良いよ」

「うん。ありがとう」

僕は、この調子でクラスになじめるのではないかと、淡い期待を抱いてしまった。

が、そう上手くはいかないもので、これ以降、僕が話しかけられることはなかった。得体のしれない不自然な時期の転校生に、皆話しかける勇気はないのだろう。自分から話しかけに行く度胸もない僕も僕だけど。昼休みは、新井さんは女子グループでと弁当を食べていて、僕は一人教室の隅で中嶋先輩の作ってくれた弁当を食べていた。環さんの温かさを保つ能力で、弁当は温かく、それが余計に心に沁みた。


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