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Judgment Mythologies  作者: 篠山 翔
プロローグ
1/159

身体の感覚がなくなっていき、白く眩い光が私を包み込む。

「あれ……?」

視界が晴れてくると、青々と生い茂る草と広い川が目に入った。真上には鉄橋が私を日から隠すように架かっている。

このパターンは初めてだ。何年も程生きていると、新鮮な感覚っていうものはなくなってくると聞くけど、旅を続けていると新鮮な体験ばかりで、退屈しない。それはいいことなんだけど……。

「いやはや、これは困った」

首に下げているペンダントを握って一人呟く。

このペンダントには世界を『異る』力がある。今、私が居るこの世界とは違う世界に行くこの力。それを使って私は様々な世界を旅してきた。

そして、ペンダントの力を使うと、その世界での自宅で目覚めるはずなんだけど……。

「ここが自宅ってことなのかな……」

脇を見ると大きめの段ボールが何枚か置いてあるし、確定的だ。完全にホームレスだ。

周りの風景を見るに、ビルなどのしっかりした建造物がかなり多く建っているから、結構発展していると思うんだけど。

まあ、いくら発展している都市でもホームレスくらいはいるか。

行く宛もないけど、とりあえずと一歩踏み出したそのとき、強烈な違和感を覚えた。全くと言って良い程進んでいない。そもそも一歩しか進んでいないから全然進んでいないのは当たり前なんだけど、それにしても一歩が小さい。それに、なんだか視線も低い。自分の両の手のひらを見つめてみると、やはり小さい。心当たりはある。ペンダントには、世界を異るときに、好きな年齢に変更できるオプション機能が付いている。一時期は年齢をころころ変えて旅をしていたことがあったけど、興味本位で一度乳児になって散々な思いをして以来、二十歳そこらのお姉さんとして旅をしてきた。多分、何かの拍子に設定が変わってしまったんだと思う。

ペンダントの裏側についている年齢のダイヤルを確認してみると、『7』の数字。案の定設定が変わっていた。

赤ちゃんだったり、一人で歩くこともできないようなおばあちゃんにならなかったことは幸いだけど、7歳のホームレスになってしまった時点で十分しんどい。というか7歳でホームレスて。これだけ福利厚生や治安がしっかりしていそうな国でそんなことがあるのか。

グダグダ言っても仕方ないし、まずは食べ物を探さないと。今の気候は暖かいから寝床は最悪あの段ボールで良いとして、当面は食料が問題だ。

大丈夫、サバイバルなら何度も経験している。いざとなれば誰かに食料を分けてもらえばいいわけだし。7歳の女の子というだけで心優しくしてくれる人は多いはず。危ないことに巻き込まれないように注意しなくちゃだけど。この身体は非力だし、大人に襲われたら逃げることも難しい。

辺りを見ると、中高生くらいの女の子二人を見つけた。買い物帰りだろうか、手にはビニール袋を持っている。もしかすると、中には食べ物があるかもしれない。

食料と、あとできれば泊まれる場所を求めて、女の子に話しかける。

「すみません。なにか食べ物を貰えませんか?」

「誰よあんた」

話しかけて早々に目つきの悪い方に凄まれた。この反応は失敗しそう。

「どうしたの?」

と、もう一人が尋ねてきた。こっちは優しそうな子だし、この子を押せばなんとかなるかもしれない。

「はい。家がなくって、お金もないからお腹も空いてきてしまったんです」

「なら福祉事務所だったり、然るべき場所にいくことね」

「ちょっとお姉ちゃん、それじゃかわいそうだよ!お昼は食べさせてあげよう?」

どうやらこの二人は姉妹らしい。それにしてもなんてよくできた妹さんだろうか。

「ごめんね、今、渡せる食べ物はないんだ。でも、私たちのお家にならたくさんあるから、連れて行くね。私は下風しもかぜ 芽依めいって言うの。芽依って呼んでね。で、こっちが私のお姉ちゃんの下風(しもかぜ) 舞依(まい)。君は?」

(たまき)です」

「よろしくね。環ちゃん」

そう言って、芽依ちゃんは私の手を取って歩き出した。

しばらく歩くと、彼女らの家──二階建ての一軒家に着いた。この世界の文明のレベルを鑑みると、平凡な大きさといったところ。

芽依ちゃんが私と繋いでいる手と反対の手で正面の扉の鍵を開け、中に入る。

玄関から短い廊下を進むとリビングに出た。内装はすっきりしていて、こまめに掃除もされているように見える。

ふと肉の焼けたいい香りが漂ってきた。キッチンの方を見ると、長身の青年が顔を覗かせていた。

二人の兄だろうか。整った顔立ちをしている好青年といったような印象を受けた。

「おかえり。そっちの子は?」

「環と言います。わけあってホームレスになってしまいまして、食べ物と泊まるところを探してるんです」

「環ちゃんか。よろしく。いろいろ事情はあると思うけど、とりあえず昼食でもどうだい?」

「ありがとうございます」

それを聞いた芽依ちゃんはこっちだよと私を席に案内してくれた。

適当に近くの椅子に座ると、玄関からチャイムが鳴った。

芽依ちゃんが玄関の方へ向かって行き、しばらくすると二人引き連れて戻ってきた。一人は芽依ちゃんと同じくらいの歳の女の子。もう一人は小学生くらいの男の子だった。私を気軽に連れてきたことといい、この二人といい、元々この家は客人が多いのかもしれない。

「おじゃましまーす」

小さい方の男の子が言ったその時、それは起こった。

一瞬、座っているのに立ち眩みでもしたのかと思ったが、違う。地震だ。揺れは強く、立つのがやっと。揺れが違う。地震なら何回も経験したことはあるけれど、ここまで大きい地震は初めてだ。身の危険を感じ、咄嗟に机の下に隠れた。

「皆、机の下に隠れて!俺は洸太君を起こしてくる!」

青年はそう言って、よろめきながら階段をなんとか登って行こうとしている。

寝ている誰かを起こしに行こうとしているのだろうけど、明らかに危険だ。でも、揺れが強く、身動きが取れない。

せめてこんなに幼い身体じゃなければ……!

瞬間、視界が真っ白になる。そして、驚きで頭も真っ白になる。

なぜ、今、それが起きたのか──。


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