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第1話

「私じゃないのです!お父様!どうか、どうか信じてください…!」

「黙れ!!もはや貴様など、我が娘ではない!」


 私は跪きながら、鬼のごとく青筋を目立たせ大声を出す男、お父様に向かって許しを乞う。お父様の形相に体が震えてしまって、涙を流せばそれは重力に従って何粒も顎から落ちていく。けれど、私は恐怖から体を震わせている訳ではなかった。私は、家族に捨てられるのが怖くて…つまり今の子の状況があまりにも怖くて悲しくて、私を睨みつける冷酷な瞳の持ち主にすがりついているのだ。

 私のお父様は皇国に2つあるうちの公爵家の1つ、青焔のルシエル家の当主だ。私たちの家紋は代々剣技で皇国を支えてきた公爵家で、その剣技は青く燃え盛る炎のように勇ましく、それでいて舞でも舞っているかのような繊細な美しさを兼ね備えているという。そんな人の殺気は洗練されていて、とても私が耐えられるようなものではなかった。

少し油断すれば首を刈り取られてしまいそうな、息をすることさえ許されない地獄の空間。


「ゎ、たしは…」


弁明しようと口を開く。が、唇が酷く乾燥して張り付いていて、恐ろしさからか蚊の鳴くような声しか出てくれなかった。そんな私を見てくすくすと音も立てずに笑っているメイド達がふと目に入った。いつも私を虐めてくるメイドたち。公爵令嬢とは思えないぼろぼろの服を着て惨めに跪く私を見て、ざまぁみろとでも言いたげに口角を上げている。今の状況に私の味方なんていない。


(あぁ、どうして…)


そんなこと思ってもどうしようもないのに、1度浮かんでしまえば次々に疑問が浮かんできてしまう。

どうして、どうして、どうして…


(そう。全ては私が、お母様を殺してしまったせい。)


 私のお母様は私を産んでしまったせいで、私を産んですぐ、産まれたばかりの私を抱くこともなくこの世を去ってしまった。愛妻家の象徴とすら言われたお父様はその事実を受け入れることが出来ず、成長する私を乳母に任せて放置した。あの日から公爵家は変わってしまったそうだ。

常に笑顔が溢れていた屋敷からは人の温かさが消え、お母様が綺麗に整えていた庭園の花はすべて枯れてしまった。そして、まるでお化けでも出てきそうな冷たいお屋敷に成り果ててしまった。公爵も、メイドも、執事も、何も。全部が、まるで色を失った灰色の世界に出てくる登場人物のようだ。

つまり私が原因なのだ。私が、この公爵家を氷のようにしてしまった張本人。

そんな私が今も生きている理由、それは一応公爵家唯一の令嬢だからだ。だから辛うじてお屋敷の端っこで生かされ、今ここにいる。


 上手く言葉が出なくて、部屋には静寂が落ちる。やがてお父様は心底軽蔑した視線を私に下しながら、怒りを何とか押さえ込んだような震える声で告げた。


「…今すぐ、私の目の前から消えろ」


(いけない、何か言わなければ!なんでもいい、謝罪でもなんでも!)


そう思った矢先、私は絶望した。


…あぁ。


私を見る瞳は、少なくとも家族に対するそれではなかった。お父様はもう、私を家族として、娘として、人として見ていない。

直感したら、お父様の言葉が心に深く深く突き刺さる。その時、私の中の何かがちぎれてしまったような気がした。

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