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隻腕少女の存在証明 ~わが手に魔法あり~  作者: 折紙
序章 導かれた少女
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10歳の王女様、レティシアの日常②

 魔術陣を通して侍女を呼びつけ、食器を持って行ってもらうと先ほど本棚に戻した本を机へと浮遊させる。しおりの挟まっているページまでパラパラとめくれて行くと魔術陣が燐光を出しながら消えていった。


 魔術の勉強が始まって早い段階で覚えることになった魔術《手繰る(ルード)(ミュアンゼ)》はその使いやすさから汎用性が高い。城内から城外、なんなら魔術を知らないなんてとんちきな人がいない限りは誰もが使っている。


 魔力のない人間はいない。すなわち魔術が使えない人間はいない、ということはレティシアが産まれる何代も前から当たり前のことだ。国によって魔術陣やそれを使う文化に多少の差異はあれど、富める者も貧しきものも、善なる者も悪人も等しく魔術を使えて当たり前であった。


そのように能力を持っているということは、その能力を趣味にする人間も当然いる。筋肉を鍛える、計算が早くなる。それと同じように魔力も人の努力や行動次第で能力の増減がある。

 そしてレティシアも読書の次に思考に上がるのが魔術なくらいには魔術が趣味な人であった。


子供にしては珍しい方であろう。市井の子供にそのような人がいないとは断言できないが多くの子供たちにとって魔術を知り、魔力を高めることは勉強や体力づくりと同意義だ。勉強が趣味な人間と言えばわかりやすいだろうか。とにもかくにもレティシアもその一人であった。


 読書もレティシアにとって大事な趣味の時間の一つであった。魔術の勉強より少し先に文字の勉強が始まってしばらくした頃合いから、小さな足で図書室に入り本を借りていくのは彼女にとって日常になっていた。幼児向けの喜劇から始まり、恋物語、ちょっとした戦記物、果てにはちょっとした魔術教本まで。様々なジャンルをこよなく愛し読み続けている。2年ほど前からは書くことにも興味を示し日記なんかも付け始めていた。

 本の影響で魔術が趣味になったのか、魔術の影響で本を読むようになったのかは定かではない。


 前日の続きだったこともあり、程なくしてその本は読み終わってしまう。魔道具の文字盤を見るとまだお昼ご飯には早いことが分かる。レティシアは読み終えた本と本棚から数冊を《手繰る(ルード)(ミュアンゼ)》で浮かせると扉横の魔術陣を輝かせ自室を出ていく。


 レティシアの活動拠点である部屋は別棟に離れており、あまり多くの人と会うことはない。

 居館のほうが別棟より大きな図書室があり、文官や魔術士官らの用はそこで済んでしまう。料理を作るのも会議するのもあちらばかりで別棟にある図書室も風呂場もちょっとしたベランダも全部彼女が独り占めできる。こっちに来る人と言えば警備の騎士様が数人と食事や風呂担当の侍女、各々の先生らに、たまに父母が来ているのを見かけるくらいであった。


 部屋から歩いて少しすれば角の方にある図書室に着き、扉横の魔術陣に触れる。いつものように浮かび上がっては光って消えていくと扉が開いていく。

 残念ながら城内のほとんどの部屋の入口は左手しかないレティシアにとっては優しくない。開閉用の魔術陣が描かれるのは大抵右側だ。しかし知る限りこの図書室とレティシアの部屋だけは魔術陣は左側に描かれている為活動範囲の狭い彼女にとっては不便になっていなかった。


「こんにちは、ロッゾさん。本の返却をお願いしてもいいですか」

「…はい。お預かります」


 入口のすぐ横にカウンターがあり、そこにはいつもと同じように黒い髪で眼鏡をかけた文官、ロッゾが何を思っているのかわからない顔で本へ目線を落としていた。レティシアが声をかけてから少し間を置いてから顔をあげ、ちらとレティシアの顔を見てから返答するのが王女と文官の日常であった。記憶があっていれば初めてこの部屋に来た時から、彼がこの部屋にいなかったことは一度もない。


そんな態度を気にもせず本を返却し終えると早速室内を見て回る。事前に2冊は決めている。あともう2冊借りたいのでその2冊は後回しにしてぐるぐると見て回った。


「(以前に見た戦記をもう一度見るのもいいかなぁ。いや、そういえば気になってた本の続きが入ってきているかも…)」


 たった1冊。されど1冊。選んだ1冊でどれだけ充足感を得られるかは死活問題だ。妥協で本を選びたくないレティシアはただ1冊を選ぶためだけに何度も思考を巡らす。それに呼応するように体はふらふら動き、図書室の中を行ったり来たりしていた。いざそれと決めようとするとその横の本が気になってしまうのでゴールのない迷路にいるような気分だ。


そんな時間を30分程度過ごし、最終的にいつか見た「オールローゼン建国物語①」「銀の君と灰色の者」を取り出し、次いで元より決めていた「魔獣の生態-南西編」「十王国歴97年最新魔道具図鑑概略」を取り出してカウンターまで持っていく。


「これらをお願いします」

「…はい。大丈夫、です。…えー、いつも言っているし大丈夫だ…ですか?」

「はい。傷つけるな、汚すな、返却期限は守れ、ですね」


 いつからか文官の物言いは多少荒くなったように思う。なった、というよりはきっとこのぶっきらぼうな言い方がロッゾの本来の話し方なのだろう。そんなことを脳裏に考えながら図書室を後にした。


 自室に向かいながらどれから読もうかなと思案しながら歩いていると、視界の奥の方に豪奢な赤い服を着た人物が見えた。両隣に文官を控えさせるその人物はどんどんとレティシアの元へ近づいてくる。遠目からでも、レティシアはそれが誰か察せられた。


「お父様…」


 会えたことによる嬉しさと、会いたくなかったような複雑な気持ちが脳裏を支配する。気が付いた時には既に自分の目の前におり、横に避ける時間は残されていなかった。父、メティアスはその体を屈めると手を頭に伸ばし撫でてくる。


「おおレティ、元気に過ごしておったか?」

「はい、お父様」

「今は、図書室に帰りか!相変わらず勉学に励んでいるのだな。私がそのくらいの時はやんちゃしていてどれだけ怒られたか…」

「メティアス様、そろそろお時間でございます」

「! そうか…レティ、また様子を見に来るよ。元気にしていておくれ。期待しておるぞ」

「…はい。お父様もお体を壊さないように気を付けてください」


 レティシアはそう言うと小さく笑みを作り、父へと顔を向ける。それに応えるようにメティアスも精いっぱいの笑みを返すと文官と共に別棟を去っていった。それを見届け終えると途端に笑みは崩れていき、渋い物を食べたような顔に変わっていく。


レティシア自身としては、別に父が嫌いなわけではない。父の話を聞くのは好きだし、忙しなく動いていれど気品を感じる仕草には格好の良さも感じていれば、憧れもある。


 ただ、一つ。父であってもその1点だけは、その1点だけのせいで。


「(あぁ…また、いつもと同じ目だ…)」


 いつも目を合わせれば視線はどこかを向きたがっている。表情もまるで無理して作っているようだ。それで万人を騙せてもレティシアだけは騙せない。


 憐みの目。


 侍女だろうが文官だろうが騎士だろうが。血縁でもない多くの人が向けるその視線はレティシアにとっては許容できる範疇だ。

 だというのに、自身の親というだけで、父や母であるというだけで。どうしてその目を向けられるだけでこんなに苦しいくなるのだろうか。


「…戻ろう」


 忘れよう、忘れようと。レティシアは無理やり思考回路を元に戻す。感情の起伏のせいか、乱れて落ち着かない《手繰る(ルード)(ミュアンゼ)》を制御し直すと重い足取りで自分の部屋へと戻っていった。




読了感謝です。


何かと表現の練習をしていますのでアドバイス(見辛い、わかりにくい等)がありましたら助かります。誤字脱字もあると助かります。


好意のコメントがあると多分モチベが上がります。


***


メティアス・オールローゼ

年齢:37歳

出身国:オールローゼ王国

魔術系統:???

概略:大陸南西部にあるオールローゼ王国の国王。金色の髪は常に整っており、口髭と顎髭を少したくわえている。ストレスからくる皺と髭の影響もあり多少老け顔に見える。うっすらとした黄色の瞳をしている。


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