表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雪が消した遠吠え  作者: 海が好き
第二章 戦場での戦い編
18/38

死闘4

 壁に描かれた巨大な絵は、まるで俺達の頭の中にある記憶を全て消していくような感覚を味合わせてきたような気がする・・・俺達はいったい何者なのか……人間と魔族の間に一体何が起きたのか……歴史という消えたはずの記憶……その記憶が俺達に巻き付く’’鎖’’を断ち切るように・・・俺は巨大絵を見た後にあらゆる感情が押し上げてきて吐き気がしてきたので、しばらく座って休むことにした……エレイアは俺のことを心配してくれている……何かわからない’’使命感’’を冷やすように俺のことを抱擁してくれた……。


 (大丈夫・・・私には何も見えなかったけど・・・あなたの’’目’’には何が見えたの?)


 俺は雪に埋もれた’’記憶’’を太陽のように黄色く、夜を感じられるような紫の目で’’溶かした’’気がする。

 俺はエレイアに喋りかけられたが……しばらく何も返事をせずその場に座っていた・・・そして’’姫君の教え’’の女魔族は俺に’’聖典’’を渡してきた・・・俺はその’’聖典’’を見ようとしたが…先程のように’’誰かの記憶’’が流れてくるのが嫌だったので聖典の内容を見るのをやめた・・・。


 (・・・お前が見たものは’’全て’’合っている・・・その聖典に書かれたことと・・・一度も聖典を見たことが無いはずのお前がなぜ聖典の内容を知っているのかわからない・・・だがお前の言ってた’’誰かの記憶’’の中に出てくるのは・・・誰かわからない・・・それに……お前が言っていたものの中に……この聖典には’’存在しないもの’’が含まれていた・・・私達が今まで見てきた聖典は’’全て’’を語っているわけではないことが分かった・・・)


 (・・・・・・・・・)


 俺は誰かに操られている・・・誰かに’’鎖’’で繋がれている・・・この世に存在する物は全て’’嘘’’だ…そうに違いない・・・俺達は’’嘘’’という鎖に繋がれている・・・今ようやく理解できた……俺の役目は’’鎖’’を断ち切ることだ・・・つまり’’開放’’・・・。


 (・・・少し一人にしてくれないか……疲れたんだ)


 (・・・わかった……おい…この男に部屋を用意してやれ)


 俺はしばらくベットで寝込んでいた・・・俺のことを心配してエレイアが部屋に来てくれた……だが俺は彼女と会話をせずにしばらく沈黙状態が続いた・・・。


 (・・・・・・・・・)


 (・・・・・・・・・)


 (・・・ねぇ…もし苦しいことがあったら……)


 (一人にしてくれないか・・・)


 (・・・わかった)


 そう言ってエレイアは部屋から出て行った・・・悲しそうな顔をしながら・・・後で彼女には謝らないといけない……ただ心配してくれただけなのに、俺は彼女を突き放してしまった……今じゃ立場が逆だ…彼女が’’太陽’’で俺が’’雪’’・・・そして俺は暗い夜に潜るように眠った。


 (・・・は!・・・寝すぎたな)


 (・・・あ!おきた!……凄い眠ってたよ・・・)


 エレイアは俺の部屋で俺が起きるのを待ってくれていたらしい・・・彼女には昨日のことを謝らないといけない・・・。


 (・・・エレイア……すまない……君の優しさを・・・)


 (別にいいよ・・・苦しかったらいつでも言ってね)


 しばらく休んで…俺達はホウサンズ達に追いつくようにした・・・俺は早く知りたかった・・・’’使命感’’が俺の歩く足を速くした・・・エレイアは俺の歩くスピードに必死になって追いついているが、とうとう限界がきてその場に倒れこんだ・・・だがなぜだろうか・・・今までは彼女のことを助けていたが今は違う・・・彼女のことを普通に見れなくなってしまう・・・。


 (・・・早く立ち上がれ)


 (え・・・なんで・・・今のあなたは・・・’’何者’’なの)


 (・・・すまない・・・仲間のことが心配で)


 俺は嘘をついた・・・仲間の事なんか心配しているわけではない……俺はただ知りたかったのだ…この気味が悪いほどに俺を追い込んでくる’’使命感’’が・・・俺はいったい’’何’’に追われているんだ・・・いや…一体何を追いかけているんだ・・・まるで他人の’’使命’’を・・・他人の運命を経験しているような感覚だ。


 (歩けないのなら俺が君のことを運ぶよ・・・)


 俺が彼女に触れようとしたときに彼女は俺の手を振り払った・・・まるで俺のことを’’別の何か’’でも見るような目で見てきている・・・彼女に見えている俺はいったい何なのだろう・・・。


 (やっぱりおかしいよ!・・・今のあなたは・・・まるで別人・・・あなたは誰に追われているの)


 (・・・・・・・・・)


 (ねぇ答えてよ!)


 (・・・君には関係ないだろ……歩けないのなら置いていく)


 (・・・・・・じゃあ先に行ってて)


 (・・・・・・わかった……)


 俺は彼女を置いて逃げるようにその場を去った・・・しばらく歩いているとホウサンズ達が向かうと言っていたファデイロの森に到着した・・・不思議な感覚だ・・・彼女を置いてきたはずなのに……今の俺は’’使命感’’から解放されたように・・・’’何か’’から逃げ切ったかのように・・・。

 ファデイロの森に入ると異質な魔力を感じられた・・・まるで誰かを待っているかのような……しばらく進むと巨大な砦が森の中に現れた・・・この砦からだ・・・ホウサンズ達もこの砦に入ったのだろう。

 砦に乗り込むと大量の魔族が広場で俺のことをまちかまえていた・・・しかし俺のことを攻撃しようとする意志を感じられなかった・・・それどころか、俺のことを歓迎している様だった……俺は砦の最深部に入ると、そこで待ち構えていたのは覇気を…魔力を全く感じられない、鎧を着た人間の兵士が立っていた。


 (・・・待っていたぞ・・・ホルケウ・マーナガルム・・・’’夜明け’’を呼ぶ者よ)


 (・・・お前は俺の何を知っている・・・俺が何者なのか知っているのか?)


 (あぁ知っている・・・私は君を待っていた・・・私は君にこれを渡したかった・・・)


 鎧を着た兵士が俺に渡してきたのは’’ボロボロの剣’’・・・砦の外からも感じられた’’あの魔力’’・・・今は非常に微弱だが・・・まるで俺のことを読んでいる様だった・・・そして兵士は俺がボロボロの剣を受け取った瞬間に、まるで自分の’’使命’’を果たしたかのように倒れていった・・・何が起きたのかわからず、俺は砦の外に出た・・・すると上空を高速で飛行するホウサンズが見えた・・・俺は空を飛んでいる鳥をおいかける狼のようにホウサンズのことを追いかけた・・・そしてホウサンズは地上に降りた……。


 (おいホウサンズ!・・・やっと見つけたぞ…どこ行ってたんだ?・・・皆は見つかったか・・・)


 (・・・・・・・・・)


 (ホウサンズ・・・ホウサンズ・・・どうしたお前・・・なんか変だぞ)


 (・・・そうか……こいつの名前は’’ホウサンズ’’か・・・)


 先ほどまでホウサンズの姿をしていた’’何か’’が少しずつ変化していく・・・やがてホウサンズは魔族になった・・・今まではホウサンズだったはずなのに・・・まるで’’違和感’’を感じられなかった…そして魔族は俺に向かって無詠唱の魔法を打ってきた・・・俺はそれを避けたが何が起きたのかいまだに理解できずにいる・・・そして俺の背後にドラゴンが飛んできた…そのドラゴンには魔族が乗っており、ドラゴンに自身の魔力を与えて操っている様だった・・・そしてドラゴンは俺に向かって炎を吐く動作をしたが直前でドラゴンの翼に弓矢が刺さった・・・弓矢に毒が塗ってあったのか、ドラゴンは暴れてその場を飛び立った・・・そして俺に魔法を打ってきた魔族もホウサンズの姿に戻り、ドラゴンの後を追うように飛んで行った・・・すると聞き覚えのある声が聞こえた。


 (おい!・・・マーナガルム!・・・お前やっと追いついたのかよ……ところでエレイアはどこに行ったんだ・・・)


 (・・・置いてきた)


 (はぁ!?・・・お前……まぁとりあえずついてこい・・・)


 (ところでお前の隣にいるケンタウロスは誰だ・・・)


 (あぁ紹介してなかったな・・・こいつは俺のことを魔族から助けてくれた…オスロットだ)


 (・・・・・・・・・よろしく頼む)


 (わかった・・・俺の仲間を助けてくれてありがとな)


 そして俺とホウサンズはケンタウロスのオスロットについていくことにした・・・しばらく歩くと行方不明だったはずのブロデアとコルデア、それにクレモンゼがいた・・・。


 (お前ら・・・無事だったのか!)


 (マーナガルムか……あれ……エレイアはどこに?)


 (・・・・・・・・・)


 (おい…マジかよ…もしかして殺されたのか?)


 (いや・・・おいてきた)


 (はぁ!?・・・ちょっと詳しく説明しろ・・・意味が分からんぞ)


 俺は全てを仲間に話した・・・感じたこと…記憶の事…使命感の事も・・・話したのはいいが皆は俺の話が理解できているような感じではなかった・・・。


 (まぁ・・・よくわからんが……その’’姫君の教え’’とかいうヤバい奴の見せてきた絵を見てからおかしくなっちまったんだろ・・・にしてもヤバいだろ・・・エレイアがいなくなるのは)


 (すまない・・・意味が分からんと思うが・・・彼女から逃げてしまった・・・ところでお前らはいったい何があったんだ・・・)


 (俺達は、そのよくわからん女魔族達に襲われていたところを、このケンタウロスに助けてもらったんだよ・・・なんかよくわからんが…こいつら魔族のくせに魔王軍に敵対しているらしいぞ)


 (何でお前達は魔王軍と敵対しているんだ?)


 (俺達ケンタウロス達は魔剣を守る役目がある・・・だから魔王軍と敵対している)


 (・・・魔剣ってこれの事か?)


 俺が魔剣を見せるとケンタウロスは驚いた表情を見せた・・・そして俺に近づいてきた。


 (何でお前が!?・・・魔剣を持つことができる奴は限られているはず・・・普通は魔剣に魔力を吸い取られて死ぬ・・・もしかしてお前が・・・お前が’’夜明けを呼ぶ者’’なのか・・・嫌そうに違いない…お前名前を教えろ!)


 (ホルケウ・マーナガルム・・・)


 (やはりそうか!・・・とうとうこの時が来たのか……予言通りだ!……俺達ケンタウロスはホルケウ・マーナガルムに絶対的な忠誠を今誓う!)


 (え!?・・・は…どういうことだ……マジで意味がわからん・・・)


 (俺達ケンタウロスは魔王軍と決戦の時までずっと待っていた・・・君達ホルケウ家の人間をずっと待っていたんだ!・・・ようやく’’偽りの歴史’’は終わりを迎える・・・’’夜明け’’が来るんだ!)


 (このボロボロの剣について何か知ってんのか・・・教えてくれないか)


 (そのボロボロの剣・・・今は力を失っているが…その剣はかつて’’勇者が使っていた剣’’・・・全ての魔の力を断ち切る最強の剣・・・なぁ!・・・君達ホルケウ家の中に剣を扱う子供はいるか?)


 (あぁ・・・俺の弟にいるが・・・それがどうしたんだ)


 (君の弟がそうなのか・・・君の弟が’’次の勇者’’なのか・・・)


 (は!?・・・俺の弟が’’次の勇者’’だと!)


 (なぁ…マーナガルム……君の弟がそうなのか……)


 (そんなの知らないって・・・情報が多すぎて混乱してるんだ・・・とりあえずエレイアのことは後回しにしよう・・・いったん野戦築城に皆で帰ろう・・・)


 そして俺達は野戦築城に帰ることになった・・・その間にいろいろと話をした……どうやら俺のことを襲って来た魔族は魔王軍十二氏族のなかの二人・・・普通の変異魔法ではなく・・・変異したことに違和感を・・・存在そのものに対して違和感を感じさせなかった強力な魔法を使う魔族……そしてドラゴンを完璧にコントロールしていた魔族・・・どちらも敵となるとこれからの戦いはより一層厳しくなるはずだろう・・・だが新たな仲間もできた・・・よくわからんが俺達ホルケウ家のことを’’夜明けを呼ぶ者’’と呼んでくるケンタウロス達だ・・・ケンタウロスは強力な弓使い・・・ドラゴンにも対抗できるはず。

 しばらく歩くと野戦築城に帰ってきた・・・野戦築城にはエレイアが先に帰ってきていた・・・。


 (エレイア・・・先に帰っていたのか・・・すまない…君のことを置いてきてしまって)


 (・・・・・・なんで私のことを置いていったの・・・)


 言えない・・・彼女を’’恐れている’’なんて……だが彼女に本当のことを言わなければ・・・分かり合うことはできないはずだ・・・俺は全てを・・・エレイアのことをどう思っているのか話した。


 (・・・俺は……君のことを恐れていた・・・君を見ていると’’使命感’’を思い出して・・・誰かの’’記憶’’と’’使命感’’を受け継いだ感じがするんだ・・・それがいやで・・・君のことを突き放してしまった)


 (・・・そう……私も……私も理解できたかも……理解できた気がする……)


 (心配をかけてすまない・・・今日は君を理解するために・・・この’’使命感’’を’’記憶’’を知るために…君を…抱こうと思っている・・・だから…全て教えてくれ・・・)


 (・・・うん……もう隠し事はなしだからね・・・)


 そしてエレイアが俺が座っているベットに・・・俺の隣に座ってきた・・・俺は彼女の膝に自分の手を当てた・・・不思議だ・・・今の俺はまるで全てを理解しているように・・・彼女に触れていく・・・そして彼女は俺のことを押し倒して…長いキスをした・・・そして彼女は俺の手を、自分の小さい胸に当ててきた・・・そして俺は彼女の体を引き寄せて・・・優しく抱いた……自分とは違う柔らかく、温かくて乱暴にしたら壊れてしまいそうな・・・彼女の体を抱いた・・・俺は憶えていないがかなり乱暴にしてしまったかもしれない・・・まるで彼女を壊していくように……激しく体を打ち付けた・・・首のあたりが痛むと思ってよく見ると彼女の歯形がしっかりとついていた……そして気づいた時には俺は寝ていて……起きると彼女が俺のことを優しい目で見ていた……俺と目が合った彼女は恥ずかしくて反対を向いたが、彼女の体を俺が無理やり引き寄せて顔が見えるようにこちらを向かせた・・・彼女は恥ずかしそうにこちらを見ている・・・俺は彼女の顔を見て赤ん坊の時以来、久しぶりに泣いた・・・家族を愛する感情とは違う・・・また別の大切なものを見つけた気がして・・・俺は泣いている顔を見せたくなかったので彼女の胸に顔を隠した・・・彼女は女神のように俺のことを優しく包んでくれた・・・彼女は自分が年上だからか……俺の頭を撫でて、心を落ち着かせてくれた。

 俺はこの世界を理解したつもりでいた・・・ただの十二歳のガキのくせに……わかったつもりでいたんだ・・・けど彼女が俺に教えてくれた・・・俺に’’真実の愛’’ということを……’’真の意味で理解しあう’’ということを・・・戦う事しか能の無かった俺に・・・守るべき理由を与えてくれた大切な存在。

 

 (怖かったよね・・・私もあなたと一緒だったよ・・・何もわからず戦場に投げ出されて……誰か私のことを守ってほしいって……けど、今はあなたがいる……ほんとは私の方がお姉さんだから……けど会った時よりもどんどん大人になっていくあなたを見て……私は……あなたという存在に甘えていただけ……十二歳で家族とか…仲間とか…使命感とか…いろんなことをその体で背負ってるとこが……私は凄いと思うよ・・・だから……あなたが背負っているものの重さに耐えきれなさそうだったら・・・私もあなたのことを支えたい・・・)


 (・・・・・・さっきまでは君のことを’’怖がっていた’’・・・俺は言い訳をして’’使命感’’から逃げていた・・・君をその’’使命感’’に当てはめて・・・けど君は気づかせてくれた・・・俺がただ逃げているだけだということに・・・俺はホルケウ家の長男・・・ホルケウ・マーナガルムだということに……俺は誰でもない唯一の存在だということに……俺は…背負って来たものから逃げない・・・君がいるから・・・)


 (そっか・・・よかった!・・・私も今あなたへの理解が確信になった・・・)


 彼女と交わって・・・完全に距離が無くなった・・・今は完全に心に……’’真の意味で理解’’できた気がする・・・俺のこれからの’’使命感’’は・・・ホルケウ・マーナガルムとしての’’使命感’’とは……彼女を守ることだということに決まったんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ