地獄の始まり2
(・・・ここ…どこだ?)
俺は尋問の最中にとんでもない爆発に巻き込まれて、その後・・・ダメだ…思い出せない。
辺りを見渡してみると俺は馬が引っ張る荷物車に載せられて・・・ホウサンズが気絶している…そして俺が尋問していた女魔族が俺のことを今すぐにでも殺すような目つきで見ている・・・。
(・・・やぁ…どうしたんだい?…そんなに怖い目をして・・・君は綺麗な顔をしてるんだから…笑った方がいいよ)
(お前のことも…そこに寝ているマヌケ面のクソ眼鏡も・・・絶対に殺す)
(・・・殺すって…今君さ…ガチガチに縛られて動けないだろ・・・その魔法凄いだろ…俺が作った魔法なんだぜ…)
(・・・喋りかけるな)
(あ…そうか…なんかごめん)
荷物車はしばらく進んでまた壁の向こう…前哨基地にたどり着いた。
俺は荷物車で気絶しているホウサンズを叩いて起こした・・・。
(おい・・・おい・・・ホウサンズ!…起きろ!)
(フガ!?・・・あれ…ここどこだ?・・・)
(よくわからんが…何とか帰ってこれたらしいぞ・・・)
前哨基地は完全に復活していて…死体や燃やされた建物も新しく立て直されていた…そして新たに指令本部のような新しい建物も建てられていた。
(・・・お前はどうする?…俺はもう寝るけどさ)
(おい…お前ら!・・・何勝手に行動してるんだ!私についてこい)
俺達を載せた荷物車を引っ張てた騎兵の女が怒鳴ってきた…よくわからないがとりあえず敵ではなさそうなので、ついていくことにした。
(・・・誰だよ…この女?)
(俺も知らないよ…それよりも俺達…あたらしく建てられた指令本部みたいな場所に連れていかれてないか?
(・・・おい…ガキども…次喋ったらお前達の首を飛ばすぞ)
(・・・おっかない女だな)
しばらく歩き、俺達は指令本部のような建物に入ることになった…そこには明らかに身分の高そうな男や巨大な斧を持った男…そして先程の女にこのメンツのボスみたいな重装備の男がいた。
(大団長…連れてきました…ガキ二人と女魔族です・・・)
(ご苦労だなクレイア・・・さて君達が兵士を救出した子かい?……それに魔族の女も捕まえてくるなんて…君たちホントに子供なのか?)
(・・・おっさん…誰だ?)
(オマ!?…この人はフィテモンセ王国の対魔王軍騎士団長の’’ネメオス・キマエラ’’様だって!)
(ハハハ!・・・いや構わないよ…君もそんなに気を使わなくても…まずは君たちに礼を言いたいと思うよ…私達の兵士を救出してくれたことに感謝する!・・・そして、まさか魔族も釣れるなんてね)
(・・・)
(この女魔族は後で拷問にでもかけなさい・・・それと君達にはこれを・・・)
このデカいおっさんが俺達に渡してきたのは勲章のようなものと希少鉱物で作られた宝石だった…どういうつもりかはまだわからないが…とりあえず受け取っておこう・・・。
(・・・おっさん…ありがとな…俺眠いからもう寝るわ)
(ところでだが…マーナガルム君・・・君ってもしかしてホルケウ家の人間だったりするかい?)
(・・・なんで俺の名前知ってんのかしらんが…それがどうした…おれがホルケウ家の人間だったら何かヤバいことでもあるのか?)
(ハハハ!いや特に…そんなに警戒しないでくれ…私の家はね…君達ホルケウ家と少しだけかかわりがあってね・・・この出会いも何かの縁だと思うと泣けてくるよ・・・マーヴェリックは元気にしてるか?私は彼のフィテモンセ剣術学校時代の同級生でね…君も彼のように圧倒的な強さを持っているのなら・・・)
(あのマヌケ野郎ってそんなに強かったのか?・・・まぁおっさんの昔話とか興味ないから…あぁ…おっさん…そこにいる女魔族の事だが・・・俺に任せてくれないか?)
(・・・構わないが…もしかしてこの子に惚れたりでもしたのかい?…)
(いやそういうのじゃないんで…俺はもう行く)
(・・・やはり彼の息子だよ…生意気なところも変わらないみたいだな)
長そうなオヤジの話に巻き込まれそうだったので女魔族を連れて俺はその場を逃げるようにして出て行った…。
自分が寝ていたボロいテントは綺麗な兵舎に変わり寝床もかなり改善されていて俺の専用の部屋が用意されていた・・・この女魔族もいるからちょうどいいな。
(はぁ~やっと休みか…さすがに疲れたよ…君も休みなよ・・・あぁそうだったな…今拘束を解いてあげるよ・・・)
拘束を解いた瞬間にやはりこの女魔族は俺に向かって魔法を打つ動作をしてきたので俺は彼女の魔力コントロールを’’ジャミング’’した・・・彼女は魔法が使えず何が起こったのかわからない様子でいる。
(は!?なんで・・・何で魔法が・・・)
(凄いだろそれ……俺は昔から魔力のコントロールが人よりも圧倒的に得意だから・・・君の魔力と俺の魔力を完全に同調させて君の魔力を無理やりコントロールしたんだ・・・多分こんなことできる奴俺ぐらいだよ…まぁ運が悪かったね・・・)
すると彼女は持っていた小型ナイフで俺のことを刺し殺そうと向かってきたので彼女の体内にある魔力を無理やり暴走させて、体のコントロールを失わせた・・・けどこれは相手が至近距離にいて、単体でいた場合でのみ使える俺の切り札の魔法の一つなので正直ここで使うのは勿体ないと思った。
(だから…無駄だって言ってるだろ…むしろ俺には感謝してくれないと…もし俺があそこで君を連れて行かなかったら君・・・今頃体も心もボロボロになってたと思うよ)
(恩着せがましい奴だな・・・貴様に助けられなくともいずれ仲間が助けてくれる!)
(・・・仲間は来ない…断言しよう…なぜならこれ以上の貴重な戦力を君達魔族側は失いたくないからね・・・それに…君は魔族と人間のハーフだ…君は魔族が自分の味方だと思ってはいるが…あちら側はどう考えているだろうね…もしかして君の事…諦めてるかもしれ・・・)
(そんなはず!・・・そんなはず・・・ウ…)
そして彼女は泣きだした・・・やはり、こちらの人間の住む国のようにあちらの魔族の中でも同じ扱いを受けている可能性が高いのだろうな・・・少し可哀そうなことを言ってしまったかもしれない…俺は魔族だからと言って彼女を差別したりはしない…いやむしろ差別に関しては反対だ…彼女のように魔族と人間のハーフの人たちがどれだけつらい思いをしているのか・・・どちらに所属しようにも真の意味で認められることは無い…そういう様子を何度か王国でも見たことがあるから知っている。
(・・・あ~いや違うんだ…その…君のことを傷つけようして言ったわけではないんだ…)
(お前のように’’純粋な人間’’にはわからないだろが!・・・私達の辛さが…孤独さが…)
(・・・さっきはすまなかった…君の仲間を何人も殺してしまった…殺してしまった後に謝るのもおかしいと思うが謝らせてくれ・・・)
俺は彼女に謝った・・・彼女も本当は戦いたくてこんな場所に来たわけではないのだろう…おれも家族やホウサンズの前でカッコつけてしまったが本当はこの得体のしれない恐怖・・・なにか後悔のような感情から抜け出せずにいる…彼女の泣く姿…それが本当なのか嘘なのか…俺達人間は魔族を生物のように殺して、食って、寝る・・・そのような存在だと思い込んでいた…だが彼女の心からの悲しい声を聞いて俺達と同じものだと改めて認識した…俺達人間と魔族はお互いを理解しようとも理解はしない・・・それは歴史…死んだ仲間…考えを否定することになるからかもしれない……何か見えない鎖のようなものに首を繋がれていて壁を通してお互いを罵り、殺しあっている…壁の本当の意味…ムウロ・デ・オスキュリタが作られた意味が理解できずにいる。
しばらくして彼女は泣き止んだ…そして子供のように泣いた後に寝た・・・彼女も俺と年はあまり変わらないはずだ…硬い床で寝かせるのはかわいそうなので俺は彼女のことを抱きかかえて自分のベットで寝かせてあげることにした・・・この得体のしれない感情…これを理解するのは難しい・・・俺はホウサンズ達がいる指令本部に行ってしばらく話すことにした・・・。
(ん?マーナガルム!…お前寝たのかと思ったらまだ起きてたのか!…で、彼女はどうなんだよ?)
(・・・いや…俺のことを殺そうとしてきたからな…あれは無理そうだな…彼女のことはまた明日にしようと思ってる)
(・・・なんだお前?さっきはあんなに彼女のことを追いこんでたのに今になって後悔でもしだしたのかよ・・・まぁ、あれは正直おれも見てられなかったよ)
(・・・なぁお前さ…兵士の救出に行く時に魔族と本当の意味で理解できるとか言ってたよな…その言葉の意味を教えてくれないか・・・)
(なんだよ急に!?…お前らしくないな・・・まぁあの言葉の意味ってのは…まぁその…説明するのは少し難しいな・・・その本当の意味で俺達人間と魔族が理解するんだったらお互いを’’心の底から愛し合う’’しかないな……だけど、この’’愛し合う’’ってのは人によっていろんな解釈があるからな……てか難しい話は辞めてくれ…俺は哲学的な話は嫌いなんだ・・・)
(・・・’’愛し合うって’’……たしかに人間愛し合ってお互いを理解するけど……それは前提の話で、この問題のとこまでは解決するわけではないだろ)
(だから…俺に難しい話をすることは…話を余計に難しくするだけだぞ・・・)
(やっぱお前に聞いたのは間違いだったな・・・)
(なんだと!せっかく人が優しく答えてあげたのに!)
(だからお前のそれはそもそも問題の・・・まぁいいや…なんかすまん…俺も難しい話して悪かった)
そして俺はその’’答え’’というべきもの…答えなのかわからないものを頭に抱えたまま温かい飲み物を持って、自分の部屋に戻って寝ようとした・・・しかし彼女は起きていたが…魔力コントロールを奪ったので何日かは動くことはできないだろう。
(お前・・・ビビらすなよ…そうだ…今温かい飲み物あるけどいるか?)
(お前の口が付いた飲み物なんか飲みたくない・・・)
(え・・・)
別にまだ一度も口をつけていないのに…まぁホントのことは言わない・・・俺は母親と父親譲りの顔のおかげで異性からはかなりモテるので、彼女の発言は少しダメージが大きかった…てか普通に傷つく。
(・・・あー…いや…その…これまだ一回も飲んでないから)
(嘘だな・・・今のお前はイヤらしい顔つき……オスの顔をしている)
(なんでわかんだよ・・・やっぱ女ってこういう男の嘘とかわかる感じなのか?)
(いや…お前の場合は気持ち悪い顔をしていたからすぐにわかる)
(気持ち悪い顔って・・・てかお前普通に喋ってくれるようになったな……そういえば俺の名前とか自己紹介してなかったな…俺の名前はホルケウ・マーナガルム…君の名前は?)
(・・・別にどうと呼んでもかまわない…お前が私の名前を呼ぶと寒気がする)
(・・・じゃあ雪みたいに白いから…スノウって呼ぶわ…にしても、さっきから棘のある発言ばかりだな……俺さ…’’人間の世界’’・・・まぁ人間の中では顔はいい方なんだけどな……そういえばさ…ずっと君達魔族に聞きたかったんだが何で君達はそんなにきれいな顔してるんだ?)
(そんなの私に聞かれても知らん…貴様ら人間共がブサイクなだけだろ…それにお前達は小さい…普通魔族の男なら二メートルは超えるのは当たり前だ…女なら百九十はある・・・)
(デカすぎだろ・・・いやむしろ俺は長身の子の方が好みなんだが…まぁ…これから毎日寝る前に君達魔族を理解するために質問を一つしていこうと思う・・・俺は拷問とか尋問とかホントは趣味じゃないからね…あ、ちなみに二つ目の質問は……聞くのは申し訳ないがなぜそんなに人間の男を恐れる?)
(じゃあ…あの時のは演技なのか・・・私は昔…人間の男に暴行されたことがあるから・・・その時のことがいまだに頭から・・・ウ…ウ…)
(あーごめん…ちがうんだ…君のことを傷つけようとしたんじゃなくて…君について教えてほしくて)
やはりこの質問はまずかったな・・・これからは’’魔族’’に焦点を当てたものと’’彼女’’に焦点を当てた質問をしていこう・・・そうすれば何かわかるかもしれない。
(今日はもう疲れただろ…寝る前にそこに置いてある温かい飲み物を飲むといいよ…ちなみに本当に一口も飲んでないからね・・・まぁ、飲むかどうかは君の自由だよ・・・それじゃあ…)
そして次の日にコップを見るとやはり残されていた・・・俺は顔を洗った後に保存していた食料をホウサンズと談笑しながら食べた…正直美味しくはなかったが…何か食べれるだけでもマシだ。
そして俺達は兵長に収集されてこれからの防衛作戦や壁の向こう側の攻略について説明を受けた…これからは今以上にしんどくなるだろう…だが俺はこの程度でへばるような奴じゃないことを自分でもよく理解している・・・絶対に生きて帰ってやる!そう強く決意した・・・。
(・・・おいガキども!…お前達は俺の部隊で動いてもらう)
朝から命令口調で偉そうに言いやがって・・・まぁどうでもいいや…ほんとは誰かと部隊を組んで動くのはイヤだがこれも仕方がないことだ…俺の部隊にはデカい斧をもった’’ブロデア’’という隊長と弓使いの’’クレモンゼ’’に魔法使いの’’コルデア’’に俺とホウサンズの五人の部隊がいる・・・そして俺達は先遣部隊になる…まぁつまりほぼ使い捨ての駒だな…早速壁の向こうにある森の中の調査をしなければならない…俺達は壁の向こうの巨大な森の中の調査に向かった。
(お前…何歳だよ?)
茶髪で少し老けた顔のコルデアに喋りかけられた・・・。
(十二歳だよ・・・お前は聞かなくてもオッサンってわかるから聞かん)
(生意気なガキだな・・・お前魔法使えるんだろ?…どんな魔法を使うんだ?)
(・・・俺は近接戦闘と魔法を両立させるために基本的には無詠唱で使える魔法を使う…)
(お前…その年で無詠唱で打つ魔法とか使えんのか!凄いな…)
しばらくどうしようもない会話を続けているとブロデアが立ち止まった…立ち止まった理由は俺にもわかる・・・さっきから誰かに見られているとは思ったが…おそらく囲まれているな…人数は十人以上…もしくはそれ以上いる…まだ隠れている奴らもいる可能性を考えたらかなり多いだろう……ブロデアは俺達に命令した・・・。
(お前ら…フォーメーションを崩すなよ…今回は敵の人数がかなり多い四方八方から攻撃されるから魔法を使える奴は防御の魔法を使って身を守れ・・・)
すると右斜めから高速で魔法を放たれた・・・早速無詠唱の魔法か…それにしてもあのスピードはかなり速いな・・・ここにいる奴らは戦闘になれた奴らばかりなので反応できたが・・・すると上から巨大な岩石が降ってきた・・・コルデアは即座に防御魔法を張り俺達を守った・・・。
(荒ぶる大地の主よ・・・我らに大地の守りを与えたまえ・・・)
(ブルグ・ソングラデ《大地の守り》)
地面から雪をかぶった土が盛り上がり強固な屋根を作った…土の屋根は俺達を守った・・・反撃の時間だ…そうしてクレモンゼは地面に勢いよく弓矢をこすり付け・・・摩擦熱で着火した爆弾矢で敵の隠れている木を爆破させた…一体目の魔族を殺して…その爆発した木の煙の中から高速で剣を持った魔族がブロデアに斬りかかったが、ブロデアはその剣を弾き返して相手を上から高速で振り下ろされる斧で叩き潰した…俺は魔族の死体で自分の人形を作りその人形にトラップ魔法を仕掛けた・・・そして向かってきた数体の魔族に特攻させて爆発でまとめて殺した・・・まだまだ魔族はいるが…逃げたのだろうか…探知に引っ掛からない・・・そう思っていた瞬間に、下から巨大な雪でできたスノーゴーレムが現れた…俺達は吹き飛ばされた…そしてスノーゴーレムは、俺達に追撃の右の大ぶりのパンチを入れようとしてきたが、俺は瞬時にブロデアが殺した魔族の剣に魔力を宿してスノーゴーレムの右腕を斬り落とした…しかしスノーゴーレムは再び右腕をはやして攻撃しようとしてきたがその攻撃をホウサンズの出した羽が受け止める…ホウサンズは反動で飛ばされたが何とか立て直して高く飛びクレモンゼを持ち上げて上空から煙幕矢を打ち俺達を避難させた・・・俺はその瞬間にスノーゴーレムの周りにトラップ魔法を大量に仕掛けておいた…そしてスノーゴーレムは煙幕が消えると、挑発的に目の前に立つ俺の方に向かってきたが、俺の前に仕掛けてある大量のトラップ魔法にかかり、連鎖爆発で体が砕け散った…スノーゴーレムが消えた後に周りの魔族も逃げたのか…俺の魔力の探知範囲から消えた・・・。
(終わったな・・・)
何とか魔族の猛攻をしのぐことに成功したがこのレベルが大量にいると思うと…これから先はどうなるかわからない・・・俺達は気を引き締めてさらにその先に進むことにした。