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辺境伯令嬢は王子の婚約者になりたくない  作者: 藤夜
第二章

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19 同盟を組みました

 目の前で縮んでいく王子をどうすることもできずに見守る。

 そして、くしゃりと落ちた服の中から、白くて小さな頭がひょこりと顔を出した。可愛い子竜。でも、見たいのは今じゃない。

 

「ああ……」


 子竜はため息を吐く私を見上げて、そして自分の身体を確認するようにうつむいた。

 ごめんなさい、王子。

 これは私の失態だわ。魔法の調整をミスして持続時間が思ったよりも短かった。

 

 クロヴィスは驚愕の表情で完全に固まっている。

 人間が竜になるなんて、普通は見たことないわよね。

 

「あの時の——、カエル!」

『カエルじゃない! 竜だ』

 

 こぶしを振り上げて抗議する王子に、クロヴィスはびくっと飛び上がった。

 んん? なんだか急に怖がってる?

 

「どうして、ジークフリート殿が竜に? これは魔法の一種か?」

 

 恐る恐る尋ねる彼に、子竜になった王子は服を抱えて首を横に振った。

 

『魔法ではなく呪いです』

「呪い……?」

 

 ギルが無言で王子から服を受け取る。

 王子はありがとうと言って預けると、クロヴィスに向き直った。もう見られたからには事情を説明するしかない。

 王子もそう思ったのだろう。まだ驚いている様子のクロヴィスに向けて話し始めた。

 

『以前、ラグナルがロイエン王国にいたことは説明した通りです。その折に、彼は自分の持つ杖・レーヴァテインの守護獣フレイスベルクに、兄のヴィクトールを襲わせました。私はフレイスベルクと戦った時に竜化の呪いを受けて、いまだに解けていないのです』

「そ、それは気の毒な話だな……」

 

 なんだろう、クロヴィスの声の勢いが小さくなってる。

 腰が引けて見えるのは気のせいだろうか。

 

『この呪いはラグナルに解かせるしか方法がない。唯一、強力な治癒魔法を操ることが出来るクリムヒルトが、一時的とはいえこの呪いを解除することができる。それが貴方に彼女を譲る事ができない理由の一つです』

 

 淡々と説明するけど、クロヴィス、絶対黙ってなさいよ。そう思いながら彼を睨みつける。けれど、その話を聞いた彼はなんだか嬉しそうな顔をした。

 

「それではラグナルを捕らえて呪いを解けば、ヒルデの役目は終わるということだな!」

 

 心置きなくシュゼーレへ! って、喜んでいるが違う!

 

「行きません!」

『行かさない!』

 

 ——ハモった。

 

『それは理由の一つであって、全部ではありません。それ以外にもクリムヒルトを渡せない理由があるのです』

 

 そう言いながら、王子は両手をあげて私に抱っこをせがむ。その仕草は幼児のようにたどたどしくて可愛らしい。

 いつも竜の時には男扱いしてないって文句を言うのに、一体どうしたのかしら。

 甘えてくれるなんて、チビ竜にめろめろになっちゃう♡

 

「王子、どうしたんですか。可愛い〜♡」

 

 腕の中に抱き上げると、クロヴィスがウッと呻いた。

 私が王子に優しいのが気に入らないのかしら。そう思いながら彼の顔を見ると、明らかに青ざめている。

 

 そうか!

 クロヴィスは爬虫類系が苦手だった。王子ナイス!

 嬉しくなった私は、そのぷにぷにした身体を更にぎゅっと抱え込んだ。

 

『ご覧のように、クリムヒルトも私のことを愛しています。なので、クロヴィス殿下の申し出は丁重に断るでしょう』

「おのれ姑息な! ヒルデが小さいもの好きと知って……」

 

 誇らしげに言う王子に、近付けないクロヴィスが地団駄を踏む。

 それを見ながら王子はふんぞりかえった。

 

『可愛さにおいては俺は負けぬ』

「王子、自分で言ってて悲しくなりませんか?」

 

 冷静なギルのツッコミに王子はフンと鼻を鳴らす。

 

『手段を選んでいては、クリムヒルトの愛は得られないと悟ったんだ』

「いや、それはペットへの愛……」

 

 ギルが小さく呟くけど、王子の耳には聞こえてないみたいだ。

 

「ジークフリート殿の言いたいことはわかった」

 

 ふーっと大きく息を吐き、クロヴィスが前を向く。

 

「とりあえずはラグナルを捕らえることに全力を尽くそう。それが我々の利益となる事がわかった」

 

 まあ、その点では異論はない。

 

「ヒルデとは三年以上の付き合いがある。私としてもそう簡単に引くつもりはない」

「どうしてそんなに私にこだわるんですか?」

 

 三年も振られ続けてまだ諦めないって、どれだけよ。

 私の呆れた台詞に、クロヴィスはムスッとした顔をして、ちょっと言いにくそうに言い訳した。

 

「ヒルデ以外に私の妃は務まらないのだ。このままでは私が王位を継いでも後継に困る」

「はあ?」

「ヒルデに踏まれて以来、私より強く暴力的な女にしか反応しなくなった」

「反応……」

 

 どこが? とは聞かない。わかるから!

 私は言葉を失った。

 うちの王太子より、こっち方が性癖以外の相手に不能だったか……。

 

『踏まれるのが好き』

 それは確かに誰にも言えるまい。

 果たしてシュゼーレの貴族令嬢に、王太子を踏んづけるよう教育できるのか。

 

「それは……結構切実な問題で……」

 

 王子もどう言っていいのかわからないみたいだ。

 ギルはもう明後日のほうを向いてしまっている。

 

 秘密の暴露大会みたいになったけど、これはもうどうしようもないな。

 

「きっと、私みたいな令嬢もたくさんいると思いますよ」

 

 慰めるつもりでそう言うと、三人ともが一斉にこっちを向いてふるふると首を横に振った。

 

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