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辺境伯令嬢は王子の婚約者になりたくない  作者: 藤夜
第二章

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16 一番好きなところとは

「求婚?」

 

 ジークフリート王子の目が、一体どういうことだと私を見た。

 くそう! クロヴィス、ややこしいこと言うんじゃないわよ。

 

 私が黙っていると、クロヴィスがフフンと鼻で笑って代わりに説明する。

 

「辺境伯家の三兄妹は、ラウリッツ騎士団に『国境の守護神』の異名を与えるほど、幾度となく我が軍の侵攻をはねのけてきた。そこに新たに現れたのが『赤眼の悪魔』、魔剣グラムの主人であるヒルデ卿だ」


 ラウリッツ(うち)を褒めてくれてるのはいいけど、なんだかそれ、求婚とどう関係あるのよ。自慢げに言ってるけど、あんた負け続けてるってことよ?

 つっこみたくなるのを我慢して私は黙っていた。

 すると、クロヴィスはうっとりとした表情で話を続ける。

 

「彼女は強い。それこそ化け物並みに。最初に私が負けた時、攻めた我等を一人残らず生かして国境の外へ放り出したのだ。神獣を従え、圧倒的な力の差を見せつけてな。『出ていけ』、そう言われて二度とラウリッツへは近付けなくなった兵士もいる」

「それがどうして……」

 

 そうよ。普通はそういう反応よね。

 王子はとってもまともだわ。私もうんうんと頷く。

 

「彼女の価値を考えれば当然だろう。辺境伯にはヒルデ卿をもらえるならば、永久にラウリッツへは侵攻させないと申し入れているのだ。当然、私が王になればの話だが、それも彼女がいれば容易い」

 

 クロヴィス、『踏みつけて欲しい』って言わなかったわね……。

 私の利用価値だけ言って性癖を隠したわよ、こいつ。

 化け物並みって、ギルのせいだとわかっているけど許さないんだから。

 

「なるほど……」

 

 腕組みして聞いていた王太子が頷く。

 え? まさか、友好外交のためにヒルデをやるなんて言わないでしょうね。

 私がシュゼーレに行ったら、ジークフリート王子はどうするの?

 私が焦ってキョロキョロしていると、王子がわざとゆったりとした口調でクロヴィスに答えた。

 

「クロヴィス殿下のお気持ちはわかりますが、ヒルデ卿は我が国にとっても重要な地位にある者。手放すことは出来ません。殿下がシュゼーレの王となられることには協力させていただきますが。兄上、そうでしょう?」

「ああ、父王が直に目をかけている騎士だ」

 

 王子の確認に、ヴィクトール王太子も頷く。

 やれやれ、人身御供にされることは免れたわ。

 ふと見ると、ローザリンデ王女もほっとしたように胸を押さえて息をついていた。

 

「兄上、シュゼーレ王国の反応はわかりますか?」

「黒霧からの報告はまだだ。例の文書もあれだけで以降はない。あちらも人質が消えたことに気づいただろうから、偽とバレたとわかっているはずだ。逃げ帰ったか、それともこちらをうかがっているのか……。ヴェロニカ、君はさらわれた時、何か聞かなかったか?」

 

 問われたヴェロニカ妃は初めて口を開いた。

 

「金髪の男が話すのを……。遠かったのであまり聞き取れなかったのですが、グイル公爵領まで連れて行くとか」

 

 グイル公爵。シュゼーレ国王の王妃の父か。

 本当に王妃とラグナルは繋がっているようね。

 

「連れて行かれる前に救出できて良かった」

「殿下……」

 

 心底から安堵するような王太子の台詞に、ヴェロニカ妃もうるうると夫を見つめている。

 うーん、この夫婦、本当に白い結婚なのかしら? 非常に仲は良さそうなんだけど。

 

「クロヴィス殿、貴殿のシュゼーレ王国への帰還を我が国が護衛しよう。ラグナルは私を狙い、弟のジーク王子を傷つけた張本人だ。許すわけにはいかない」

 

 王太子がそう告げると、クロヴィスも頷く。

 

「私の祖国での地位がどうなっているのか、帰国が楽しみだ。信頼する側近は何人もいるが、まともな状態でいるのかはわからないからな」

 

 確かにあのタコの魔物みたいなのがいたら、どうなっているのか不安だわ。

 

「まずは明日だ。今宵は騎士団の護衛をつけるので安心して欲しい。……クロヴィス殿下を案内せよ!」

 

 王太子の呼びかけに扉が開き、二人の騎士がクロヴィスに礼をする。

 彼が部屋を出て行くのに合わせて、王太子は妃にも優しく声を掛けた。

 

「君ももう休むといい。ローザリンデ、ヴェロニカを頼む」

「はい」

「お姉様、こちらへ。今夜はわたくしの宮でお休みください」

 

 ローザリンデ王女に誘われて、ヴェロニカ妃も奥の部屋へと消えてゆく。

 それを見送ったあと、王太子は残った私達に向き直った。

 

「クリムヒルト嬢、さすがラウリッツというべきか。従者と共に妃を救出してくれたこと、礼を言う」


 そう言って彼が深々と頭を下げるものだから私は大慌てだ。王太子が頭を下げるなんてダメでしょ!

 

「臣下として当然の事をしたまでです! どうかお顔をあげてください」

「いや、妃は私にとって何者にも代え難い女性なのだ」

 

 じゃあなんで手を出してないの? とは聞けないけど、この様子を見る限り、王太子は妃にベタ惚れのように見える。やっぱり彼は不能なのか?

 気の毒に思っているのがわかったのか、私がいらない事を口ばしる前に王子が肩を叩いた。

 

「兄上、彼女は私にとって最高の婚約者です」

 

 照れ臭いことを王子が言うけど、これまで散々邪魔されてきた彼としては、これ以上兄に口出しされたくないんだろう。まあ、ここでちょっと弟離れしてもらっていれば、後々王子も助かるに違いない。

 私もそう思ってにこにこしていると、王太子も微笑みながら頷いた。

 

「仲が良さそうで何よりだな。クリムヒルト嬢、ジークのどこが一番気に入っているのだ?」

 

 え? 一番は子竜の可愛さなんだけど、それはやっぱりダメよね。

 あんまり男性の良さをどうこう考えた事ないんだけどな。

 顔も良いけどやっぱり一番なのはアソコかしら。

 

「身体はとっても理想だと思います」

「!?」


 部屋にいる三人が、ぎょっと一斉に目を剥いた。

 私、なんか変な事言った? 身体は大事よ。

 ひよひよ弱々ではすぐに病気になっちゃうじゃない。

 

「ジーク、お前の婚約者は変わっているな……」

「身体——」

 

 真っ赤になった王子が口をぱくぱくさせている。そんないやらしい意味で言ったんじゃないのに。

 

「単に殿下の筋肉が好みなだけですよ。見ているだけで惚れ惚れします」

 

 ちゃんと説明すると、壁際でずっと黙っていたギルまでが口をはさんできた。

 

「クリムヒルト様……、誤解を生むのでその口はちょっと閉じといてください」

「なんでよ、ギル。男性だって胸の大きい女性をじろじろ見るくせに。女性だって男性の美しい筋肉を鑑賞したっていいじゃない。王子の身体はこれまで見てきた中で一番完璧よ」

 

 私が力説していると、王子はまだ赤い頬をしたまま、無言でそっと私の口を手でふさいだ。


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