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辺境伯令嬢は王子の婚約者になりたくない  作者: 藤夜
第二章

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14 好かれる相手は選びたい

 先ほどまで人間だったはずの男は、ヌメヌメと波打つ触手のようなものが生え、もう見る影もなかった。かろうじて顔はあるけれど、てろんと湿ったゼリーのようなもので覆われている。目も魚みたいに透明な膜が張っていて気持ち悪いことこのうえない。

 

「かんべんしてよ、なんなの、この魔物!」

 

 魔剣グラムを手にして私はつぶやく。

 と、次の瞬間、魔物はぷるぷるした口から紫色のスミのようなものを吐き出した。


「キャッ!」

 

 私が飛びのいた場所にべしゃっとかかったその液体は、なんだかうっすら煙がたっている。これ、毒っぽいわね。

 魔物のたぐいは変な毒を持っているのがほとんどだ。いくら私が解毒できるといっても、得体の知れない毒には触れたくない。

 

 ひるんだところへ魔物の触手が伸びてくる。

 私は魔剣グラムを一閃させて切り捨てた。……と思いきや。

 

 ボヨン

 

 触手に刃が入らず跳ね返される。

 びっくりしたけど、私は慌てて触手に捕まらないように跳んで逃げた。

 

「ちょっと! グラム、あんた何やってるの!」

 

 怒鳴りつけると、頭の中で触りたくないだの斬ったら汚れるだのとブーブーいう声が聞こえる。

 ええいっ! ワガママ言うんじゃない!

 私がやられたら、あんたもあのべちょべちょの中にねっちょりと取り込まれるわよ。


 そう叱責するけど、どうもにも仕方がなさそうな雰囲気だ。やる気ないわね。自我がある武器って、ほんとう扱いにくい!


 あんまり言うこと聞かないなら捨ててやるからね、と念をおすと、しぶしぶ了承するような声がした。

 

 狭い地下倉庫いっぱいに触手が広がっている。毒持ちの魔物に外に出られるとまた厄介なことになりそうだから、なんとかここの中で始末をつけたい。


 そう考えながら出口を背にして対峙する私に向かって、突然後ろから声がかけられた。

 

「伏せろ!」

 

 ハッと身を屈める。

 シュッと空気を斬る音がして、魔物の顔面の真ん中に短剣が突き刺さった。でろんと大量の紫色の液体が床に滴り落ちる。


 振り返ると、クロヴィス王子が立っていた。

 逃げろって言ったのに、逃げてなかったの?


 どこから短剣をと一瞬思ったけど、きっとどこかに隠し持っていたのね。これで自分の縄を切ったんだわ。

 

「奴は毒が吐けない、今だ!」

 

 彼の指示に私はうなずき、大きく跳躍する。

 魔剣グラムが嫌がるのを叱りつけながら、触手の合間をぬって本体に剣を走らせた。

 

 今度はジュワッという音がして、下から斬り上げた剣が手前に集まってきた触手ごと魔物の身体を断ち切る。返す刃でのけぞった頭から更に下へと斬り落とすと、魔物の身体はゆらゆらと揺れて倒れた。

 

 力を失った触手がパタリパタリと床の上に伸びていく。

 意外とあっさり死んでくれたわ。助かった!

 

 剣を振って血糊ならぬ、紫色の体液を振り払う。

 魔剣グラムはそれでも気に入らずブーブー文句を言うので、その辺に落ちていた布で拭いてやった。さすがに綺麗にしてからじゃないと、自分の体内に納める気になれない。王子宮に帰ったらよーく磨いてあげないと。

 

 気がつくと、クロヴィス王子は魔物に近寄り見下ろしていた。

 

「脳を喰われていたのだな」

 

 彼は部下だった男の成れの果てをじっと見ている。その目はほんの少し悔やんでいるように見えた。

 

「喰われる?」

「見ろ、これを」

 

 彼が指差す先を見ると、従者だった男の耳から小さなタコのようなものが這い出てきていた。クロヴィス王子は上着を手に巻き、直接触らないようにして落ちていた短剣を取ると、グサリとそのタコに突き刺す。

 

「これが人間の脳に寄生して魔物に変えるのだ。前にも見たことがある」

 

 潰れて死んだタコみたいな魔物、コイツが人間を操っていたってこと?

 

「この者は私にずっと仕えていた。もともとは忠実な部下だった男だ。あのラグナルとかいう聖職者が王妃に取り入って王宮に入り込んだのが全ての始まりだ」

「そのあたりの事情をうかがいたいところですが、ここに長居はできません。王太子殿下、一旦王宮へ戻りましょう」

 

 私がそう言うと、クロヴィス王子はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「そうだな。私もどうしてお前がここにいるのか事情を知りたい」

 

 ハッ!

 私は慌てて自分の髪を握る。

 そういえば、魔剣グラムを出した今の私は黒髪に赤眼。めちゃくちゃバレてるじゃない。

 

「魔剣グラムには謎が多いと聞いていたが、主人(マスター)の姿を変えるとは初耳だったぞ、ヒルデ」

「クロヴィス……」

 

 クロヴィス王子があとじさる私の腕をつかんだ。

 

「クリムヒルト……、ヒルト……、ヒルデ。そうか、ヒルデは愛称か」

 

 ニヤリと口元に笑みを浮かべる。

  

「どおりで。ラウリッツに忍び込ませた影が、最近は騎士団のどこにもヒルデの姿がないと言っていた訳がわかった」

「うちにシューゼーレの影を送り込んでたの? 普通に攻めても返り討ちに合うから、先に軍を探ろうって魂胆ね!」


 また侵略してくるつもりかと私が怒ってそう言うと、クロヴィス王子はまさかといって首を横に振った。

 

「ヒルデが何をしているかを報告させるためだ」

「は?」

「お前に最初に会った時、馬に乗り魔剣を振るう姿に目を奪われた。戦場を駆け抜ける戦女神と対峙して、剣をはじき飛ばされ地面に踏みつけられ、私は生まれて初めて敗北を知った。あれからずっとお前のことが忘れられぬ」

 

 それで私を見張ってたって?

 私の首の後ろがぞわぞわする。私の手の中の魔剣グラムまでもが小さくふるえた。

 

「もう一度、私を踏んでくれ! 何度も辺境伯にはヒルデをくれと申し込んでいるのに、ロイエン王国の第二王子に渡すとは許せぬ」

 

 そう、私がクロヴィス王子を嫌う最大の理由がこれなのだ。

 踏みつけられた快感が忘れられないからって、戦場で会うたびに敵の私を口説いてくるなんて、頭おかしいでしょ。

 しかもこの粘着気質、さっきの触手と一緒で生理的に無理。

  

「前からイヤって言ってるでしょ、この変態っ!」

「もっと罵ってくれ。お前に蹴られるのを何度夢に見たことか」

「ひっ! 近寄らないでよ、嗜虐趣味者マゾヒスト!」

 

 やっぱりダメ。鳥肌が立っちゃう!

 逃げる私をクロヴィスが追いかける。そうして、私達は一目散に王宮へと戻っていった。

 

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