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辺境伯令嬢は王子の婚約者になりたくない  作者: 藤夜
第二章

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9 王子の弱点

生誕祭の初日は無事に終わり、それからの数日間は平和な日々が続いた。昼間はたいてい王妃様方やローザリンデ王女達と、各国の使者の奥様方を招いて一緒にお茶会だ。

 夜会のある日はジークフリート王子に魔法をかけて一緒に出席し、ご令嬢達の燃えるような視線を背中で受け止める。まあ、彼女たちが直接話しかけてくることはなかったので実害はない。

 

 毎日こんな感じで、身体はちっとも疲れないけど精神的には気疲れする。


 それで王子の婚約者というお仕事から解放された夜くらい散歩をしようとしたのだけれど、他国の人間がうろうろしているこの時期は危ないからって止められてしまった。

 私につけられた王宮の侍女達は、どうも過保護でいけない。何かしようとすると、すぐに飛んでくるのよね。誰かに会うといけないので、練兵場で運動するという野望は諦めたけれど、少しくらいは息抜きしたいのに。

 

 それにクロヴィス王子がいるせいで、なんとなくどこに行くのも奴に出会わないかと警戒してしまうのよね。

 特にギルは私がヒルデの姿の時にいつも一緒にいるところを見られているので、彼が王都にいる期間はなるべく別行動をとるようにしている。


 いたらいたで小言がうるさいのだけれど、いないならいないで話し相手もおらずつまらない。愚痴る相手がいないというのも良くはないわね。自分の部屋にこもっているのも飽きてしまった。

 

「よし、出掛けよう」

 

 誰にも見られなければいいのだ。

 そう思い立ち、バルコニーのドアを開く。隣の部屋のバルコニーまでけっこうあるけど、まあ飛び移れない距離ではないわ。ひょいひょいといくつか飛び越えて、開いていた窓から中へ入る。

 ここまでくれば廊下へ出ても見つからないだろう。


 そうやって人目を盗んで私が向かった先は王子の部屋だ。

 ノックをして扉の外から私であることを伝えると、かちゃりと鍵が開いて中から小さな白い頭がのぞいた。


 いつもならすぐに入れと言うのけれど、王子は私が一人で立っている事を確かめると、ムウッとほっぺたをふくらませてすぐには部屋の中へ入れてくれない。

 

『ギル殿もいないのに一人で来たのか?』

「ダメですか?」

『危ないだろ』

「王子宮の中なら外部の人間は入ってきませんし」

  

 きちんと誰にも見られずに来たのだけれど。それに、別にギルがいなくても自分の身は自分で守れるわよ?

 私がそう言うと、王子はそうじゃないと言って首を振った。


『だから……、絶対お前、俺の事を男だと思っていないだろう』

「何がです?」

『護衛も付けず男の部屋に来たらよくないと、誰にも教えてもらわなかったのか?』

 

 腰に両手を当ててお説教を始める子竜に、私は初めきょとんとして、それからなるほどと納得した。

 私をきちんとした淑女(レディ)として見てくれているわけね。今までそんなご丁寧な扱いを受けた経験がないので目を丸くしちゃったわよ。


 なんとなく嬉しくなって、私はぷりぷりと文句を言っている子竜を抱き上げた。

 

『わわわ、何をする!』

「部屋に二人でいるのがいけないのなら、外を散歩しましょう」

『誰かに見られたらどうするんだっ』

「ぬいぐるみのフリでもしといてください」

 

 抱っこしていればちょっと大きな人形に見えるだろう。それにそもそもこのチビっこが王子だとは、まさか誰も思うまい。

 王子はしばらく足をバタバタさせていたけれど、身動きできないくらいにぎゅむっと抱えられて、諦めたのか大人しくなった。

 

『やっぱりお前は規格外だよ』

「褒め言葉だと思っておきます」

 

 私はにっこり笑って王子を外へ連れ出した。

 

「ほら、殿下、見てください。今夜は三日月ですよ」

『……ああ、綺麗だ』

 

 さくさくと土を踏みしめて王子宮の庭を歩く。

 夜の庭は土の香りも濃密な気がする。温室とは違って花は少ないけれど、綺麗に刈り込まれ手入れされた草木を見ながら歩道を歩くのは気持ちがいい。

 だいたい自領でも野原を駆け回っていた私は、屋内より森の中の方が落ち着くのだ。王都に来てからずっと自由に動けなかったから、すんごい開放感があるわ。


 王子はどうだろうと、ふと下を見る。夜に外を散歩するなんて、呪いを受けてからはなかったんじゃないかしら。

 思った通り、彼も私の腕の中できょろきょろと周りの景色を見て、結構楽しんでいるみたいだ。


 薔薇のアーチをくぐったところで、どこからか香水のようないい香りがしてくる。

 

「なんの花の香りでしょう。ローザリンデ王女様の温室でも嗅いだ気がします」

『ヘリオトロープだ』

「ヘリオトロープ?」

『ああ、母上が好きで植えさせたんだ』

「いい香りですね」


 ドレスの淑女達が身に纏う香水と違って、生の花の香りはみずみずしい。その香りの主となる花が見たくなって、私は匂いを辿るようにして生垣の奥へと進む。


 すると少し離れたところに、誰もいないはずの王子宮の庭を歩く二人連れの男達の姿が見えた。

 その片方は私も見覚えがある人物だ。シュゼーレの狼王子、それともう一人は彼の護衛かしら。でも、招待客用の離宮にいるはずのクロヴィス王子がなぜここに?

 

 彼等の方も私達にすぐに気付いたようだった。近付いてくると、周囲をきょろきょろと見回す。

 

「貴女はクリムヒルト殿? 王子妃が一人でどうしてこんなところに?」

 

 それはこっちのセリフだわ。

 

「少し一人で歩きたくて、護衛騎士は少し離れて控えさせておりますの。ここは第二王子の庭園ですので部外者は入って来ませんし」

 

 そう、部外者はいないはずなのに、どうしてアンタがここにいるのよ。もしやジークフリート王子のことを探りに来たとか? 黒霧はちゃんと仕事しているのかしら。こんなところへ侵入を許すなんて職務怠慢でしょ。

 すると、クロヴィス王子はここは第二王子の宮殿だったのか、と窓から明かりのもれる建物を見上げて言った

 

「すまない。途中まで案内役の者といたのだが、はぐれてさまよっているうちにここにきてしまった。我々の宮殿に戻るにはどちらへ行けばよいのだろうか」

 

 本当に他意はなさそうな表情に、私はほっと肩の力を抜く。迷い込んだだけなら、と離宮の場所を思い出していると、クロヴィス王子は私の胸のあたりをじっと見つめて尋ねてきた。

 

「ところでクリムヒルト殿、その持っている巨大なカエルのようなものは何だ」

「カエル?」

 

 カエル呼ばわりされて、腕の中の王子がぷるぷると小さくふるえている。ヤバい、動いてるのを見られたら言い訳するのが面倒じゃないの。憤慨する彼をぎゅっと抱きしめて私はうそぶく。

 

「これは竜のぬいぐるみですわ。私のお気に入りなのです。王太子殿下は竜はお好きではないのです?」

「私は爬虫類系は苦手でして……」

「まあ、こんなに可愛いのに」

 

 へえ、クロヴィス王子が爬虫類が嫌いだとは知らなかったわ。

 ふと思いついた私は、抱えた子竜のこめかみにちゅっとキスをして見せる。すると彼はあからさまに『うへぇ……』と、ドン引いた顔をした。

 これはマジっぽいな。今度こいつが近寄ってきたらトカゲをプレゼントしてやろう。

 

「道に迷われたのでしたら、離宮はあちらですわ」

「あ、ああ、感謝する」

 

 去ってゆく彼等を見送って、私はじっと黙って我慢していたジークフリート王子をねぎらおうと、ほくほく顔で持ち上げた。

 

「よし。うまくごまかせましたね、殿下」

 

 と、見ると、目の前にはプシューッと湯気がたつほどに真っ赤になった子竜が目を回してぐったりしている。

 

「で、殿下? 大丈夫ですか!」

 

 慌てて揺さぶってみたものの、起きてくれない王子を抱えて、私は急いで部屋へと駆け戻った。

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