プロローグ:とあるメイドの終わり
私が見ているのは、なんなのだろうか。今、私の目の前では、豪華な城(?)が、燃えている。
わたしにとって大事なものの気がするのに、何の感情も湧いてこない。心臓は脈打つのに、頭はすこぶる冷たくて……それに体が動かない。動かないのでは仕方がない。私は火が荒ぶるのをただ見ているしかない。
沢山の人が前から背中へと流れていく。城の使用人たちだろうか。全てを置いて逃げようと、目には恐怖のみが映っている。
ふと、声が聞こえる。目の前の身分の高そうな女性が、わたしに向かって「あなたしかいない」と話しかけてくる。でもこの人の声は届いてない。それでも、それを聞いて、一目散にわたしは走る。
わたしは必死に人を躱して、人の流れから逸れて、女のわたしには重そうな扉を開ける。見た目よりよほど重かった。そうして初めて、声の正体に気付く。そして火の手が届いていないことに安堵し、躊躇せずに、踏み切った。
―――ア……イ…しいソのオ…おが……かキずツき…せンヨウに……タ…シはアナ………を、コ…ロの……から……っておりますから…―――
わたしの声がやけに高い。火と煙で喉がいかれたか?そんな疑問も今はどうでもいいか。
わたしは戻って廊下の装飾に使われた棺桶を引き剝がした。再び部屋に戻り、小さな小さな命をそっと押し込んで、腕の筋肉が千切れる感覚を覚えながら、歯を砕けるほど噛みしめながら、必死に棺桶を投げた。そのまま棺桶が窓を突き破り、地へと落ちていった。