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枯れ専で何が悪い  作者: 嘉ノ海祈


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27.ハイーダシュタイン商会

 ガタガタと揺れる馬車の中、私はエドゥアール様と向かい合って椅子に座っていた。小さい密室でエドゥアール様と二人っきりというこの状況。緊張しないはずがなかった。正直、馬車の揺れが気にならないくらいには心臓がドキドキと音を立てている。緊張を誤魔化すために窓の外に流れる王都の景色を眺めているが、全く景色が目に入ってこない。


「今回君に紹介する相手だが…」


 おもむろにエドゥアール様が口を開く。私が窓からエドゥアール様に視線を移すと、エドゥアール様は言葉を続けた。


「ハイーダシュタイン商会のオバーシュ・ハイーダ殿だ」

「え、ハイーダシュタイン商会ですか!?しかも、その会長?!」

「ああ」

 

 ハイーダシュタイン商会。この国の宝石商会で右に出る者はいない、超有名な宝石商会だ。多くの貴族の間でこの商会の商品は一目置かれており、社交界に出る女性たちの間では、もはやこの商会の宝石を身に着けることが一つのステータスとなりつつある。


「どうやら、宝石の売り上げを伸ばすために女性向けの商品だけでなく、男性向けの商品も売りだしたいと考えているらしい。ただこれまでハイーダシュタイン商会は女性向けの宝石商品しか取り扱っておらず、男性向けの商品を作り出す技術がない。そこで男性向けの商品を取り扱っている君の商会の力を借りたいということのようだ」

「なるほど。確かに宝石は女性が身に着けるものという決まりはありませんしね。男性が身に着けられる宝石商品、面白いかもしれません」


 紳士服に合う加工をすれば、ジャケットにつけるブローチとして使えそうだし、ベルトとかに着ければワンポイントとして楽しめそうよね。ああ、妄想が膨らむわ…。


「君の商会にも悪くない話だと思ってな。普段なら断っているところだが、今回は紹介を引き受けることにしたのだ」


 確かにエドゥアール様って基本的に人との関わりを嫌う人だから、紹介を引き受けるのって珍しい気がする。なんだかんだ私の商会のことを気にかけてくれるし、私に対して全く興味を持っていないというわけではないんだよね。きっと…。


「どのような新作ができるのか楽しみにしている」


 あ、違いました。興味があるのは私じゃなくて、服でした。とほほほ…。


「ご期待に沿えるよう頑張ります」


 まぁ、エドゥアール様にそんなこと言われたら、張り切って商品作っちゃうんだけどね!


※※※


「これは、これは。ようこそお越しくださいました」


 馬車を降りるとそこには豪華な服を身にまとった中年男性が立っていた。人受けの良さそうな朗らかな笑みを浮かべ、こちらへと近づいてくる。


「待たせたな。彼女がジェントルグシュマーク商会会長だ」

「おお!聞き及んではおりましたが、想像以上にお若く驚きました。初めまして。オバーシュ・ハイーダと申します。ずっと貴方にはお会いしてみたいと思っておりましたので、こうしてお会いできて光栄です」

「本日はお招きいただきありがとうございます。ハイーダ会長。エリィ・グシュマークです。よろしくお願いいたします」


 挨拶が終わると私たちは彼の商会の建物の中へと案内された。世界中から取り寄せたのであろう家具が飾れた豪華な部屋で、これまた他国から取り寄せたのであろう紅茶をいただきながら商談を進める。色々な宝石を見ながら、こんな商品が作れるんじゃないかと話し合うのはとても楽しかった。ある程度、うちの商会と共同で商品を作る話がまとまったところで、私はふと思い出した隣国の風習について語った。


「そういえば隣国で、将来を誓い合った男女がお揃いの指輪を身に着ける習慣があるのだとか」

「お揃いの指輪をですか?」

「ええ、婚約指輪とか言うそうで、男性が女性に結婚を申し込むときに用意するそうですよ」

「ほう。それは面白いですね」


 アディと初対面のイケオジに対してまずどこを見るかという話をしたとき、彼女は真っ先に指と答えた。理由を聞けば、指輪の有無で既婚者かどうか分かるからだと言っていた。不毛な恋はしない。それが私たちの中での鉄則なのである。この国では既婚者かどうかは調べるしか方法がないため、婚約指輪という形で既婚かどうかが分かる隣国は便利だなと思ったものだ。それにお互いに愛を誓い合った証としてお揃いの指輪をつけるなんて、ロマンチックでとても素敵だ。


「この国では男性が指輪をつけるという習慣がないので、浸透するまでには時間がかかるかもしれませんが、男性から指輪を贈られること自体は普通にあることですし、それに憧れる女性は多いと思うんです。なので、流行さえ作れば御商会の指輪の売り上げもあがるのではないでしょうか」


 私の提案にハイーダ会長は賛同するように頷いた。


「なるほど。それはいいかもしれませんね。もう少し宝石を小さくカットして自然な感じにすれば、男性がつけても違和感のない指輪を作れるでしょう。一度慣習を作ってしまえば、長年に渡って安定的な利益が得られますし、やってみる価値はありそうですね」


 と、ここまで話したところで隣で静かにお茶を飲んでいたエドゥアール様がおもむろに口を開いた。


「それなら、レオナルド殿下に指輪を献上するのがよろしいかと」

「レオナルド殿下にですか?」


 ハイーダ会長が不思議そうにエドゥアール様を見つめる。エドゥアール様はカップを机に置くと更に説明を続けた。


「3日後に行われる社交界でレオナルド殿下の婚約が正式に発表される予定です。その時、レオナルド殿下にその婚約指輪を相手に贈るように進言するのです」

「なるほど。流行とは常に上層から下層へと広がるもの。レオナルド殿下が婚約者へ婚約指輪を贈ることで、それが貴族の間で憧れへと変わり、流行となり浸透するというわけですか」

「さよう」


 …流石エドゥアール様だわ。あのレオナルド殿下を利用しようとするとか、普通の人間は畏れ多くて思いつかないわよね。


「幸い、新しいもの好きの血は親子共に健在だからな。話を聞けば飛びついてくると思うぞ」


 うわ、あり得そう。なんか想像がつく。あの綺麗な瞳をキラッキラッさせて、嬉々としてその役目を引き受けそうな気がする。


「分かりました。素晴らしいご提案をありがとうございました。急ぎサンプルを作り、殿下にご提案に参ろうと思います」

「そうですね。それがいいと思います。頑張ってください、ハイーダ会長」

「ええ。必ずや成功させてみせます!」


 グッと拳を握りしめながらそう意気込むハイーダ会長。そんな彼を微笑ましく思いながら、私はエドゥアール様とハイーダシュタイン商会を後にした。


 ―いいな、婚約指輪。私もいつか貰えたらいいな。

 

 そんなことを考えながら、帰りの馬車に乗り込む私であった。

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