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0日目の夜

少し、疲れた気がした。

急に普通に動いて、浮かれて皆と楽しく話していたので、その反動が部屋へ帰ってから来た気がする。

横になっていると、ジョアンではない他の白衣の男が入って来て、言った。

「拓海さん?医師のマルコムです。今夜は私が担当させて頂きます。」と、ベッドに横になる拓海に寄って来た。「バイタルは監視しています。少し疲れましたね。」

拓海は、頷いた。

「はい。動き過ぎたのかもしれません。」

マルコムは、頷いた。

「そうですね。まだ回復したばかりですので、筋力も衰えたままですし、いろいろ復活していない状態なんですよ。その状態で、無理して動いたのでエネルギーが足りてないんです。」と、押して来たカートから、点滴のパックを持ち上げた。「補充しておきましょう。それから、追加の投薬を。息切れがするのではないですか?」

拓海は、また頷いた。

「はい。健康になったと元気に話していたら、すぐに息が上がります。」

マルコムは言った。

「そのはずです。肺にダメージがありますからね。ですが、それも毎日投薬していると落ち着いて来ます。良くなることはあっても今以上に悪くなることはありませんから。安心していてください。」

左腕に、チクリと針の感覚がした。

こうして毎日ケアしてもらえるのなら、苦しむ事も無いと思うと安心だ。

何より、ここの医師たちは曖昧な事は一切言わずに、良くなると言い切るのだ。

これほど信頼できるものはなかった。

マルコムは、何やらカートのトレーを引っ張り出して、次々に小瓶を出しては注射器で吸い出して量を計り、点滴のパックに下から突き刺しては注入して行った。

何を投与しているのか皆目分からないが、これだけ楽になっているのだから、疑う事もなかった。

「…これで良し。このまま、二時間で点滴は終わりますので、役職行使や就寝もこのまま行なってください。入浴はできないので、明日の朝でお願いします。明け方点滴が終わった頃に勝手に抜去しておきますから、ゆっくり休んでくださいね。」

拓海は、頷いた。

「ありがとうございます。」

そういえば、10時になったら通話ができる。

共有者の、幸喜と話しておかなければならないのだ。

マルコムは、見た目は外国人なのに「お大事に」と日本の医師のようなことを言って、出て行った。

隣りの部屋へと移動したのだろうと思った。

しかし、廊下の音は扉を閉じたら全く聴こえて来なかった。

そのまま、楽になってくる体にうつらうつらしていると、扉の方からガツン、と大きな音がしてハッと目を開けた。

…なんだろう。

拓海が体を起こすと、机の上の金時計が10時を指しているのが見えた。

…そうか、鍵がかかったんだ。

結構がっつりとした閂が嵌まった音だった。

拓海は、早速幸喜と通話しようと、腕輪のカバーを開いてルールブックを開こうとしていると、いきなり腕輪が、けたたましく鳴った。

ピーピーという電子音だったが、びっくりして思わずひっくり返りそうになった。

液晶画面には、4という番号が出ている。

4から連絡が来ているということなのだろう。

…ええっと、応答、応答は…!

急いでルールブックを開くと、その指示通りに拓海はエンターキーを押した。

『もしもし?拓海さん、聴こえる?』

間違いなく、幸喜の声だ。

拓海は、見えないのを承知で頷いた。

「聴こえるよ。ごめん、操作を確認しようとルールブックを開いたところだったんだ。応答が遅くなってしまって。」

幸喜の声は答えた。

『うん、大丈夫。オレは先に確認してあったから、時間になるのを待ってたんだ。ねえ、明日はどうする?多分、一人は潜伏でどっちかが出て進行しないといけないけど。体調どう?』

拓海は、首を振った。

「もう大丈夫だ。ちょっと疲れてたけど、マルコム先生が来て見てくれたら楽になった。オレ、人狼ゲームは苦手なんだけど、グレーに残って怪しまれない自信もなくて。幸喜さんはどう?」

幸喜は、答えた。

『オレはそこそこできると思う。オレの事は、幸喜でいいよ。年下なんだし。』

そうだった、幸喜は24歳。

「…幸喜は、どこが悪いんだ?」

幸喜は、答えた。

『オレは胃がね。そこから腹膜に行って肝臓にも転移してて。医者の不養生って まさにこれだよね。』

医者?

拓海は、驚いて言った。

「え、幸喜は医者なのか?」

幸喜は、照れたように言った。

『まだなりたてだよー。免許持ってるだけなの。明さんって知ってる?羽田明さん。33歳の。』

拓海は、頷いた。

「知ってる。ちょっと話したよ。」

幸喜は続けた。

『あの人もだよ。もっと凄い医者だけど。気が付いたら遅かったの。だから新薬で一か八か治療しようかって思ったんだけど、ここの施設を死ぬまで手伝うので良いかなって、ある意味一番身近な医者になるだろ?だから来たら、こんな話になってるの。でも、同じ陣営の人を助けられるならそれもいいなって話してたんだー。』

そうだったのか。

つまりは、幸喜と明はやろうと思えば治療できたのかも知れない。

だが、皆に寄り添うためにここへ来たのだ。

「でも…君はまだ若いのに。死のうと思ってたのか?」

幸喜は、言った。

『うーん、違うよ。できたらやろうとは思ってたけど、ほら、検査して合わなかったら結局助からないじゃない?だから、逃げたっていうのかな。最後の希望もなくなったら、残りの時間生きるのがつらい気がして。でも、勝手に調べられてたでしょ?結局合うんだなって感じ。だからオレは、多分みんなのために頑張って、勝った後は治療するよ。負けたら…責任があるから。運命を共にするしかないかなって覚悟はしてる。』

運命を共にって。

拓海は、真剣な顔になって、言った。

「ダメだって。負けたら君は自腹で治療しろ。まだ若い上に医者なのに。努力してここまで来たんだろ?諦めちゃダメだ。絶対勝とうとは思ってるけど、オレ達のことに君達は責任はないんだから。負けたら、治療するんだぞ?オレは死ぬけど、できるんならやれ。」

幸喜は驚いたようだったが、笑って答えた。

『なんだよ、縁起でもない。大丈夫、勝てるよ。オレ、潜伏して君を補佐するよ。皆の動きを観察する。だから、拓海さんが出て。襲撃は怖いけど、狩人が居るし。襲撃されたら寝て待ってて。オレが勝ってあげるから。』

拓海は、場違いに明るい幸喜の声に、つられて笑った。

「なんだよ、勝ってあげるって。分かった、じゃあオレが出る。やってみるよ、進行を。明日は占い師が結果を持って出て来るし、それからだな。」

幸喜は、答えた。

『うん。じゃあ頑張ろうね!でも、あんまりオレを見ちゃダメだよ。バレるからね。』

拓海は、そこは神妙に頷いた。

「もちろん。今日だって見ないようにしてたのに。」

『ああ、あれ逆に不自然だったよ?』拓海がマジか、と思っていると、幸喜はまた笑った。『普通でいいって。明日はもっと話そうね。じゃあ、また明日。』

拓海は、腕輪に頷いた。

「またな。」

とはいえ、今夜も襲撃がある。

まさか自分が襲撃される事はないだろうと思いながら、またエンターキーを押して通話を終えた。

…幸喜が襲撃されたらどうしよう。

拓海は不安になったが、そうなったら幸喜が寝ている間に勝って、ほら勝ったぞと笑って言おう。

でも、自分が襲撃されたら…。

寝ている間に何が起こるのか、自分の運命を他人任せにする事になるのが、拓海は嫌だった。

どうか襲撃してくれるな、と、拓海は祈っていた。

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