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最終日

その日、隆が吊られた。

もう勝ちはないので、明日は史朗を吊ろうと思っていたら、投票終了後にジョアンが言った。

「…村の意思は、もう変わりませんか?」

幸喜は、頷いた。

「明日は史朗さんを吊ります。」と、まだぼうっとしている史朗を見た。「精神状態が心配ですけど。」

ジョアンは、頷いた。

「それは大丈夫です。このぐらいで済んでいるのもこちらで腕輪から薬品を投与しているからですし。とはいえ良くない状態ですので、意思が変わらないなら今夜で終了とさせて頂こうかと。史朗さんで良いですね?」

何度も念押しするのに一瞬怯んだが、二千翔が頷いた。

「はい。お願いします。」

ジョアンは、頷いた。

「分かりました。では史朗さんが追放されて、この村には人狼が居なくなりました。狐はもう生存していません。村人陣営の勝利です。」

幸喜は、やっとホッと息をついた。

終わった…。

拓海はこれを見てどう思っているだろう。

隆は、分かっていたのだろうが、暗い顔をした。

すると、明が言った。

「ならば皆を集めて話をしよう。呼んで来てくれないか。」

ジョアンは、頷いた。

「はい。ジョンは戻られますか。」

明は、首を振った。

「いいや。皆に説明するのは私の方が良いだろう。全員呼んで来てくれ。颯もマルコムもローレンスも、それから上で監督してくれている要も。」

ジョアンは、頷いた。

「分かりました。」

ジョアンは、上に戻って行く。

残された隆と二千翔は、困惑した顔をした。

「え…?どうして明さんが指示するの?」

二千翔が言うのに、明は答えた。

「なぜなら私が責任者だからだ。」皆が驚いていると、明は続けた。「ちなみに私は羽田明ではない。その人物のカルテを拝借していただけで、私は健康だよ。明本人も、今は元気にしているがね。」

訳がわからない顔で幸喜を見た二千翔は、バツが悪そうな幸喜の顔に言った。

「…もしかして、幸喜も?」

幸喜は、仕方なく頷いた。

「そう。オレは章夫っていうんだ。ごめんね、ほんとはみんなの健康状態を近くで見るために侵入してたんだけど、なんか二人とも役職持っちゃって。ほんとは素村で観察してたら良いって思ってたんだけどさ。ちなみに本物の幸喜は元気に退院して生きてるよ。」

そうだったのか。

二人が愕然としていると、史朗が言った。

「…どっちにしろ、負けたから…。」

明ではないジョンとか呼ばれている男が、言った。

「それも話す。」と、椅子を隆に示した。「座って待てばいい。君は四階に行く必要はないからな。皆こちらへ降りて来る。」

隆は、戸惑いながらも頷いて、椅子へと座った。

二千翔が、言った。

「ちょっと待ってよ、じゃあ明さんが明さんでないなら、なに?ジョンってジョアンが呼んでたけど、あなたは別の国の人?見たところ東洋人だし日本語に全く鈍りがないけどさあ。」

明と呼んでいた男は答えた。

「ジョンはただの呼び名だ。多国籍の研究所で働いているので、誰もが言いやすいようにそこではジョナサンと呼ばれている。国籍は日本。君達は私をジョンと呼んでくれていい。」

だが、偽名ということだ。

気になったが、二千翔は仕方なく頷いた。

「じゃあ、それで。」

すると、そこへわらわらとこれまで追放されて行った人達が入って来て、その後ろからずっと世話をしてくれていた、マルコム、ローレンス、颯、ジョアン、そして知らない東洋人の顔立ちの、50代から60代ぐらいに見える男が入って来た。

「ジョン、終わったな。上で見てたよ。君にしては難儀していたんじゃないか?」

その男が言うと、ジョンは顔をしかめた。

「私がこれほど信じられないとは思っていなかったのだ。章夫ですら、私を懐疑的な顔で見ているのを見た時にはこれはまずいなと思ったものだよ。」

章夫が、それこそバツが悪そうな顔をした。

その男は、フフフと笑った。

「君のお父さんもそうだったんだよね。でもオレは信じたから。君も拓海が信じてくれてたでしょ?」

ジョンは、苦笑して頷いた。

「そうだな。あの状況でよく信じられるなと私の方が戸惑ったほどだ。だが、拓海の事を考えると、勝ってやらねばと思ったもの確か。あれが無ければ別に、どっちでも良いかとゲームを放棄したい気持ちになっていたよ。私を信じさせる努力をするもの面倒になって来ていてね。」

拓海が、満面の笑顔で言った。

「良かった!上で状況を見てた要さんが、君が噛まれたのは意味があったみたいだよって言ってくれて、それで二千翔が気持ちを変えてくれたのを知ったんだ。良かったと思ったよ!」

要と呼ばれたその男は、微笑んで頷いた。

「君はジョンが真だと信じて疑わなかったものね。上でも役職は非公開にされてたけど、それでも最後までジョンを信じてた。バスケもしに行かなかったし。」

それには、椅子に座った瑠香が言った。

「あの、私はね、初日に噛まれて全く議論に参加もできなかったのよ?狼には文句を言いたいわ。でも、みんなが勝ってくれたから、遊んでたけど治療してもらえることになったんだけど…。」

瑠香が、バスケをしていたとそういえば聞いていたので、批判されたと思ったのだろう。

だが、要は首を振った。

「別に責めてないよ。ただ、君は少しみんなに感謝しなきゃならないなって思っただけ。」

拓海が、それには頷いた。

「そうだよね。だから言ったじゃないか、せめてゲームの成り行きだけでも見といた方がいいよって。」

瑠香は、顔を赤くして言った。

「でも!噛まれたのよ、私が悪いんじゃないわ!」

宏夢が、言った。

「まあまあ。瑠香さんはお蔭でみんなとあんまり馴染めてなかったから、バスケでもやるしかなかったんだよ。初日に噛まれて、次の日は吊られた朝陽さんが来て、襲撃されたオレと呪殺された理央さんが来てさあ。オレ達がゲームの話をするのに、ついて行けなかったんだからね。お互いの役職は言えないし。だから、オレはかわいそうだなって思ってバスケに付き合ったりしてたの。だから、責めないでやって。」

確かに一緒に議論し合っていたのとは違う空気になってしまうだろう。

だが、それはあくまでも本人のせいではないのだ。狼がたまたま瑠香を初日に噛んでしまったからだった。

秋也が、言った。

「オレを噛んでおいて負けたってどういうこと?」本気で怒っているようだ。「あの日、噛むなんて言ってなかったよね?せっかく人生やり直そうと思ってたのに。」

礼二が、なだめるように言った。

「まあまあ、みんな頑張ったんだ。オレだって初日に理央さんを呪殺されて、孤独だったんだからな。史朗さんが人狼だって、二日目に白を打たれて分かったけどどっちについたら勝てるのかって、最後まで分からなかったから、もう誰にも相談できないししんどくてしんどくて。」

たった一人の狐になってから、礼二の毎日は確かに長かっただろう。

ジョアンが、言った。

「さあ、お話はまだまだ時間がありますから後で皆さんでしてください。それより、ジョンから説明があります。座って。」と、皆を椅子へと誘導した。「ジョン、全部説明されますか?」

ジョンは、頷いた。

「やろう。私に責任がある事だからな。」

と、ジョアンからタブレットを受け取る。

そうして、それを操作して画面を見ながら言った。

「…まず、君達の治療はこのまま進める。既に夜の点滴が抜けている者も多いと思うが、この数値を見る限り無事に効果が出ているようだ。この調子だと、ひと月もここに居れば全員とりあえずは家に帰れるだろう。」

何の話だろう。

全員が、目を点にしている。

「え…家に?ここで死なせてくれるんじゃないんですか。」

秋也が言うと、ジョンは苦笑した。

「無理だな。何しろ、君達は到着した日に全員、新薬のシキアオイを投与してあるのだ。こちらへ来る前に、病院から送られて来た検体とデータで君達用の薬の準備は出来ていた。君達が寝ていた三日の間に、最初の治療は終えていた。あれは癌細胞に自殺を命じて行く薬なので、失って行く細胞の再生と、死滅した細胞の処理に耐えきれなかったら死の危険もあったが、君達は乗り切った。最初に目を覚ました時点で、もう君達の回復は決められていたのだ。いくら緩和ケアといって、病の身でそこまで劇的に良くはならない。癌を消しつつあったからこそ、君達は元気だったのだ。毎日医師たちが部屋を訪問して薬品を投与していただろう?あれは様子を見つつ追加の投与をしていた。今では自覚症状はほとんどないのではないか?」

史朗が、目を見開いた。

「え…もう治ってるのか?」

ジョンは、頷いた。

「その通りだ。今はな。再発の可能性もあるので、もちろん定期的に検査は必要だが今は綺麗さっぱり癌細胞は無いはずだ。後は、失った細胞を完全に取り戻すのと、落ちた体力を回復させることを重点的に行なって、退院してもらう事になる。まず、この薬の力だけではないと言っておこう。君達が、末期という癌細胞に多く冒された状態であったにも関わらず、それを失ってから死亡する事無く、自分の細胞を取り戻す事が出来たことが勝因だ。末期での投与は一種賭けに近いことでね。年配であったりしたら、まず投与は難しい。初期から中期に発見できて初めて完全に機能する薬なのだ。末期で見つかった場合、既存の抗がん剤で一度癌細胞を減らしてから、シキアオイ投与という形にしなければならないのだが、君達は既存の抗がん剤ももはや効かない状態になっていたので、ワンチャンスに賭けてやるしかなかったのだよ。大丈夫だ適応している、と最初言っていたが、適応はしていたが使える状況ではもはや無かったのが正直なところだった。あの薬は、状況によっては諸刃の剣なのだ。」

自分達は、生き残った。

癌細胞が一気に死滅するという状況で、恐らく弱った体に負担も掛かったのだろう。

だが、自分達の体はそれを克服して目を覚ました。

癌に勝ったのだ。

「オレは…オレは死なないのか。」史朗が、ぶるぶると震えながら言った。「生きられるのか。まだ。」

ジョンは、頷いた。

「まだしばらくはな。今も言ったように、再発の危険とは隣り合わせだ。必ず定期検診を受けるようにしてくれ。その際に見つかったら、すぐにシキアオイを投与することでまた死滅させる事ができる。その際、データはもうこちらにあるので、その癌細胞に対するデータ解析だけで良いので少し費用は安くなるはずだ。真面目に働いて、再発に備えて蓄財していれば間に合う額だ。再発しなければその財は他に使えるしな。君はやり直したいのだろう。やるといい。」

史朗は、何度も頷いて涙を流した。

皆は、本当に治っているのかまだ半信半疑だったが、何より痛みも苦しさもないこの状況に、晴れ晴れとした気持ちになっていたのだった。

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