7日目の朝に
幸喜は、目を覚ました。
今日は、絶対に自分は死ぬはずはないと幸喜には分かっていた。
なぜなら、狼はそれどころではないからだ。
さっさと起き上がって顔を洗って、扉の前で待機しているといつもの如く、ガツンと閂が抜けた音が響き渡った。
いつも思うが、6時以降眠らせるつもりはないだろう、とこの音を聞いて思う。
絶対に目を覚ますだろう音が、静かな室内にいきなり響くからだ。
薬で眠らせられているわけではない限り、寝ていても絶対に目が覚めるだろう。
幸喜は自分を落ち着かせてから、思いきって扉を開いた。
この階には、昨日は史朗、幸喜、礼二、明、隆の5人が生き残っていたはずだ。
だが、出て来たのは4人だった。
幸喜が口を開こうとすると、三階から声がした。
「桔平だよ!」二千翔の声だ。「桔平が追放されてる!」
呪殺が出た。
史朗が狼だとすると、迷った末に二千翔を噛むのはやめたのだろう。
二千翔が、どこまでも狐に見えていたということだ。
明が誘導しているのも、怪しいと思ったのかもしれなかった。
だが…。
幸喜は、三階に向かって叫んだ。
「降りて来てくれ!こっちも追放されてるようだ!」
その声に、二千翔が急いで駆け降りて来た。
「確認して来たよ。札が置いてあった。二階は誰?」
幸喜は、言った。
「8号室の扉が開いてる。礼二だ。」
幸喜は、その部屋へと入って行った。
礼二は、ベッドの上で横になっていて、スヤスヤと寝息を立てている。
そして、ベッドサイドテーブルには、追放されました、の札が置いてあった。
「…どっちかが狐。」幸喜は、皆を振り返った。「一応どこを占ったか聞いていい?」
明が答えた。
「礼二を占って白。」
史朗が言った。
「桔平を占って白。」
幸喜は、ため息をついた。
「だろうね。」
と、二千翔を見る。
二千翔は、頷いた。
「…僕が狩人だ。」
隆と史朗が、え、という顔をした。
「…狩人?」隆が、言った。「そんなはずはない!拓海は二千翔を投票対象に挙げてたじゃないか!」
二千翔は、笑った。
「僕は狩人だよ。あの日の投票、おかしいと思わなかったの?共有はどっちも僕に入れてないでしょ。」
隆は、まだ混乱した顔をしながら言った。
「だがそれは…拓海が明さんの言いなりだったから…!」
あの日、明は千晶を推していた。
なので明を信じるもの達と二千翔本人は、千晶に入れたのだ。
「僕がミスリードしてたから、吊れるなら吊ってもって感じだったんじゃない?でも、狩人なのを知ってるから僕には入れなかったんだよ。でもあれで、僕は噛まれなくなった。僕は今いきなりCOしたんじゃなくて、初日からCOしてたよ。今この瞬間に、明さんの真は確定した。」
明は、言った。
「私のグレーはもう隆だけだ。狼は隆、礼二が狐だった。」
史朗は、首を振った。
「違う!騙されてるんだ、桔平が狐だったんだよ!礼二は襲撃されたんだ。ここにいるのは明さん以外はもう村人だ!今夜明さんを吊ったら勝つんだ!」
幸喜が、言った。
「…二千翔は、昨日どこを守ったの?」
二千翔は、答えた。
「礼二さん。礼二さん守りだよ。だから礼二さんは、襲撃では追放されない。呪殺でしかあり得ない。だから明さんが真で、史朗さんと隆さんを今日と明日で吊ったら終わりだ!村勝ち確定だ!」
明が真だった。
幸喜は、ここへ来てやっと信じる事ができた。
史朗が、愕然としている。
隆が、呆然としていたが、フッと肩の力を抜いた。
「…負けたか。」と、史朗の肩に手を置いた。「やっぱり昨日は噛み合わせて置いたら良かったな。後一日だったのに。」
今5人、縄は2本。
最終日に村人が間違えたら、勝てるはずだった。
明が、言った。
「勝ちを焦ったな、史朗。どうしても呪殺を出して私を追い詰めようと思ったのだろう。私の言葉に憤ったのが君の敗因だ。このまま最後まで私の占い先を噛み合わせて行けば、狩人が護衛先を間違えたら勝ちもあったのに。狩人が生き残っていたのは幸運だった。私は二千翔だろうと初日から気取っていたので、占い先にしなかったし吊ろうとは言わなかったのだ。ヒントを出していただろう。二千翔は村だ、と。呪殺を出そうとしたのがまずかったのだ。君は昨日、護衛が入っていない事に賭けて礼二を噛むよりなかった。二千翔なら狩人なのが共有に分かっているから破綻、桔平なら今のように二千翔が礼二を守っていたら破綻。桔平を守っていたら分からなかったがね。そこが分かれ道だった。」
結局、明は自分の勝ち筋を多く残していたのだ。
二千翔を噛んでも桔平を噛んでも大丈夫なように二千翔に礼二を守らせ、史朗のことを煽って何としても叩きのめしてやりたいと思わせ、呪殺を出そうとする噛みをさせた。
とはいえ、礼二を噛んでも二千翔が守っていた時点で詰みなのだが。
隆は、言った。
「だが、幸喜は狩人のことを聞いたら、察してくれって言っていたじゃないか。オレは…もう死んでいると思っていた。」
幸喜は、肩をすくめた。
「あなたの事は信じていたけど、狩人の事に言及した時におかしいと思ったんだ。だからああ言った。史朗さんと切ってたんだね。」
隆は、ため息をついた。
「そう。最悪史朗が吊られても、最終日明さんとの二択で史朗を吊ろうとしていたオレは強いと思ったんだ。ほんとに…もっと早く明さんを噛んでおくべきだった。史朗が吊られてオレだけになるのが怖くてなかなか噛めなくて、やっと切ろうと思った時には遅かった。狐が怖かったし、初日に占い師噛みしたのもまずかった。残しておいて狩人探し噛みを入れて、宏夢を噛めばそれでいけたのに。全てが後悔しかない。」
明が言った。
「宏夢が相方か。ということは、理央さんが狐?」
隆は、頷く。
「そうだよ。礼二もなんだってあんな相方を占い師にさせたんだろうな。何も分かってなかったじゃないか。」
二千翔が、苦笑した。
「だから、多分だけどあんな感じだから無理だと思って占い師に出したんじゃない?グレーだったらすぐに占われるか、吊られて終わりだし。初日に囲わせなかったのがその証拠だ。頼りないから最初から切るつもりだったんじゃないかな。」
幸喜は、この際だから聞いておこうと言った。
「じゃあ、やっぱり秋也は狂信者だったんだな。どうして噛んだ?やっぱり明さんを追い詰めようと?」
隆は、頷いた。
「そうだ。拓海があんまりにも明さん真でロックしてるから、それを変えさせようと思って。一真も吊れるし縄が減るだろうと。でも、あいつは変わらなかった。だからもう、噛んだんだ。村にヘイトを買いつつあったし、狩人も守ってないだろうと思って。」
二千翔は、渋い顔をした。
「あれで、一気に僕は明さん真だろうって思ったんだ。明さんには拓海を噛むメリットがあの時点ではなかったから。」
隆は、苦笑した。
「そうか。何もかも間違えたんだな。」と、まだ呆然としている史朗に言った。「ほら、もう負けだ。残念だが、もともとなかった命じゃないか。体はこんなに楽になったし、このまま死ぬまで楽しく暮らせる。数ヶ月だがな。気を落とすな。」
それでも、史朗にはショックが大きかったようで、隆を見上げて涙を流し始めた。
「…やり直せると思ったのに。」史朗は、嗚咽を漏らした。「オレは…嫁にも娘にも疎まれたままで死ぬんだと思って…生きられたら、今度こそ真面目に働いて、金を遺してやろうと…。」
隆は、ポンとその肩を叩いた。
「分かってる。君は頑張ったよ。」
そうして、二人は部屋へと戻って行った。
医師達が礼二の部屋へと向かうのを、幸喜、二千翔、明は黙って見送っていた。




