6日目の夜に
その日の投票は、粛々と終わった。
浩人も村の進行は理解していて、納得してジョアンに連れられて四階へと上がって行った。
残された7人は、もう詰めの段階なので口数も少なく、二千翔に至ってはさっさと部屋へと上がって行った。
そんな様子を見て、明が言った。
「…あれは村だな。」皆が明を振り返ると、明は続けた。「人外ならばあんな振る舞いはできまい。もう詰みなんだぞ?誰より生きたいと必死だったからこそ、史朗と共に偽だと思う私を攻撃していたのだろう。それが、占われて確定されるかもしれない状況で、あんな風にできるか。もっとすり寄ろうとするものだろう。」
しかし、史朗は言った。
「私目線では黒ではないのは分かっているが、狐であるかもとは思っているぞ。もう占われて消えるので自暴自棄になっているのではないのか。」
明は、首を振った。
「いいや。狐はあんなに目立つ行動はしない。あって狼だが、それでも目立ち過ぎている。」と、隆と礼二を見た。「私はむしろ、これまでハッキリしない礼二と、数日前から私にすり寄っている隆の方がより狐目だ。史朗が知らずに狐を囲ってどうしようもなくなっているように思う。」
隆は、目を丸くした。
「すり寄る?オレはすり寄っていないぞ。その時思ったように行動している。史朗にも投票しているのに、君目線で狐だって?」
明は、苦笑した。
「いや、どうだろうな。色が見えているからこそできることもあるのだと思うが、とりあえず私は君達どちらかを占うのだから明日には色がハッキリする。桔平か二千翔か、君目線ではどちらが狐に見えているのだ、史朗?狩人がまだ生きていたとしたら、桔平はその筆頭位置だ。君の噛み位置を楽しみにしているよ。それともまた噛み合わせて呪殺がわからないようにするのかな?」
狩人で呪殺を装うことはできない。
二千翔は限りなく狩人から遠いし、噛むならここを噛むしか方法はない。
だが、噛み抜けるかどうかは、二千翔が狐かどうかにかかっていた。
何しろ、まだ明が占っていない位置なのだ。
史朗がもし狼で、その目線で二千翔を噛むのはかなりのリスクだった。
明がこんなことを言うのは、二千翔を噛むしか方法はないぞと暗に知らせているからのように見えた。
つまり、明はまだ狐が残っていると考えているのだろう。
礼二か隆が狐だとしたら、今夜明が占う事で呪殺が出て史朗は破綻する。
そこを噛むか、他で呪殺を装うしかない。
狐が処理されていて、白が出てどちらかが生き残ったら二千翔が噛めなければ縄が増える。
究極の選択のはずだ。
明狼目線となると、こう言う事で噛み位置を決めようとしているようにも見えた。
史朗が、こう言われた事で桔平ではなく二千翔を占う事を誘導してそこを噛む。
二千翔狩人を知っている明にとって、狐である可能性のある桔平は最終日に史朗に占わせて呪殺させて、噛む。
そうして村に二択を迫るのだ。
それが明の狼だった時の視点だろう。
狐が処理されているのかわからない以上、真占い師に占わせてそこをピンポイントに噛んで行くより勝ちはないからだ。
そう考えると、今の誘導といい、明が狼にも見えて来てしまう。
幸喜は、ため息をついて言った。
「…とにかく、今日は二人とも二択だ。どうあっても、先に呪殺を出してもらって真を早く確定させたいから、呪殺を狙ってお願いしますよ。」
明は、頷いた。
「二千翔が狐でさえ無ければ、問題なく呪殺が出るだろう。だが、できたら今夜出したいと思うから、頑張ってみることにするよ。」
どちらを占うのか。
幸喜は、眉を寄せて考えた。
だが考えても、明が何を見てどう思っているかなど、話してくれない事には全く分からないのだから仕方がない。
史朗は、足を扉に向けた。
「…私はもう戻る。まだ狐が残っていると信じて占う事にする。」
史朗はそう言って、戻って行った。
幸喜は、皆がぞろぞろと階段へと向かうのを、最後尾から見て考えながら部屋へと向かったのだった。
今夜の投票は、明と浩人以外は全員が決められた通り、浩人に投票していたので参考にはならなかった。
幸喜は、こうなって来ると二千翔しか確定村人を知らないので、話したいと思った。
だが、二千翔は今微妙な位置に居て、二人で話している所を誰かに見咎められたらせっかくの狩人目消しが無駄になるのは昨日も考えた通りだ。
どうしても、自分から訪ねて行くこともできなかった。
まだ八時半だったが、九時にはドクターが訪ねて来るので部屋に入っていないといけない。
幸喜がため息をついていると、またいきなり扉が開いて、そして二千翔が転がり込んで来て扉を閉じた。
「二千翔!」
幸喜が嬉々として言うと、二千翔は幸喜を睨んだ。
「今日ぐらいは来てくれても良かったんじゃないの?君はうろうろしてても怪しまれないけど、僕はまずいんだよ。ま、もう関係ないかもだけど。」
幸喜は、顔をしかめた。
「オレから訪ねたらおかしいかなと思って。それで、どう思う?やっぱり明さん真か?でも、今日君を占うように誘導してたみたいに見えたんだ。狼だったら、噛み先をきちんとしておきたいはずだからね。ずれたら終わりだろう。」
二千翔は、呆れたように言った。
「まだそんなこと言ってるの?僕には僕を噛ませようとしてるんだと思ったけどね。もう、占い師から見たら呪殺を装うより確実な勝利はないだろう。明日は礼二さんか隆さんで必ず呪殺か黒が出る。対抗しようと思ったら、呪殺の事実は絶対必要だろ?桔平か僕か、迷ってるんだと思うんだけど、狼目線じゃ真占い師の明さんが占った桔平は狐じゃない。とすると、史朗さんが狼なら自分の白先に狐が居るか、もう処理できてるかの二択だ。史朗さんからしたら、明さんが呪殺するタイミングで自分も襲撃したらどっちが呪殺したのか分からなくなるから、それが一番だろ?狼からも賭けなんだよ…僕を占った事にして噛むか、桔平を噛むか。桔平は確実に噛めるけど、狩人かもしれないだろ?そうしたら二死体出たら一人は狩人だと幸喜に言われて偽装が分かる。明さんが真確定する。狩人目のない僕を噛またいけど、狐かもしれないから噛めない可能性がある。きっと悩んでると思うよ。明さんは、僕を選ぶ事に賭けたんだと思う。だから執拗に狐ではないと言い続けてたんじゃないかな。」
幸喜は、困惑した。
だが…。
「…明日1死体だったら?君だけとか。」
二千翔は、顔をしかめた。
「僕が死んだ後の事まで知らないよ。君が考えて。むしろ隆さんとかなら考えた方がいいんじゃない?明さんが偽なんだって。僕は明さんが真だと思って死ぬ事にするよ。ちなみに今日は、礼二さんを守る。それでも死んだら、狼が噛み合わせて来てないから呪殺だと確定するよ。」
幸喜は、目を丸くした。
「え、明さんがどっちを占うのか知ってるのか?」
二千翔は、イライラしたような顔をしながら頷いた。
「明さんから礼二にする、って聞いたんだ。つまり礼二さんを守れってことだと思う。だから仮に桔平の方が死んでも、礼二さんが死んでたら真は明さんだ。狩人は呪殺からは守れないからね。」
だとしたら、明は偽装の手段をわざわざ自分で潰して来ている。
つまり、やはり明は真なのか。
幸喜は、頷いた。
「分かった。だったら明日はしっかり見る事にするよ。話せて良かった、それを知らなかったら大変だ。判断を間違えるところだった。」
二千翔は、頷いた。
「だろ?だから話したいと思って来たんだ。」と、扉に向かった。「じゃあ帰る。礼二さんが狐ならいいな。ま、黒でも吊り先ができるから良いけどさ。」
幸喜は、こそこそと出て行く二千翔の背を見守った。
全ては明日の噛み先にかかっている。
今度こそ、明を信じられそうな気がするのだ。




