ゲーム
共有者か…!
拓海は、思ってまたカードを大切に手の平の中に収めた。
ジョアンは、言った。
「部下がカードを回収に行きます。」
別の、白衣を着た男がカードを取りに来た。
拓海も、回りに見えないようにそっと男にカードを差し出した。
ジョアンは、手にタブレットを持って、言った。
「…では、役職の確認をします。ここで、腕輪の機能を使います。皆さん、カバーを開いてください。」
拓海は、言われるままに腕輪のカバーを開いた。
ジョアンは、言った。
「役職の確認を始めます。まず、人狼のかた、人狼のかた、テンキーの9を押して、0を三回押してください。村人の方は、0を三回押してください。では、どうぞ。」
全員が操作して、バレないようにするのか。
拓海は、言われた通り0を三回押した。
ジョアンは、何やらタブレットで確認しながら、操作して言った。
「ありがとうございます。液晶画面に表れている番号が、仲間になります。人狼は4人です。」
四人も居るのか。
拓海は、気が遠くなりそうだった。
ジョアンは、続けた。
「では、狂信者の方、狂信者の方、9を押して0を三回押してください。村人の方は、0を三回押してください。狂信者は一人です。では、どうぞ。」
拓海は、またせっせと0を三回押した。
そうやって、占い師二人、霊能者二人、狩人一人、妖狐が二人と確認されて行って、最後に共有者の番がやって来た。
「では最後の役職になります。共有者の方、共有者の方、9を押して0を三回押してください。」
拓海は、言われた通りに操作した。
すると、パッと液晶画面に4、17と現れた。
4…4番の人が同じ共有者。
拓海が思っていると、ジョアンは言った。
「確認できました。表示されているのが同じ共有者の方です。」と、タブレットから顔を上げた。「では、今夜からゲームが開始されます。本日はこのまま過ごして頂いて、夜行動から始まります。占い師には初日、お告げ先で白が知らされます。狼の方は襲撃先を選んでもらいます。狩人は守り先を選んでもらいます。全て腕輪から、相手の番号を入力して0を三回押してください。占い師の結果は腕輪の液晶画面に表示されます。それでは、基本的なルールをご説明致します。」
初日襲撃があるのか…。
拓海は、緊張した。
本当の意味で、命懸けのゲームになるのだ。
これに勝たなければ、生き残る道はない。
だが、諦めていた自分達にとって、これは千載一遇のチャンスだった。
ジョアンは、冊子を手に言った。
「これがルールブックです。皆さんにお配り致します。」
他の白衣の医師達が、皆に同じものを配ってくれる。
拓海はそれを受け取った。
それには、名簿から始まり、タイムスケジュールなど事細かに書いてあった。
ジョアンは、言った。
「1ページ目。参加されない方がいらっしゃいましたら消して頂くところでしたが、皆さんご参加されるのでそのまま使います。そして、次のページ。ここでは、時間に忠実に進めて頂きます。まず、夜は9時にはお部屋に入ってください。そこで全員の健康チェックをして、必要ならば投薬をして夜時間に入ります。村役職行使は、夜10時から。お部屋の鍵は施錠されて出入りできなくなります。11時までに入力してくださるようにお願い致します。時間を過ぎたら入力できなくなります。」
皆は、怖いほど真剣にルールブックを見ている。
ジョアンは続けた。
「そして、狼陣営の役職行使は夜11時からになります。狼は11時になると部屋の鍵が開かれ外に出る事ができます。話し合って、朝4時までに腕輪に入力してください。襲撃しなかった場合は、棄権とみなされて全員追放となり、ゲームは村勝利となります。そして、朝6時に解錠されます。お部屋から出て自由に過ごされて結構です。そして、夜7時になりましたら、投票してください。どこに居ても投票可能ですが、集まって会議をして投票された方が良いかと思います。投票しないと棄権とみなされて追放となります。」
ジョアンは、次のページをめくった。
皆がそれに倣う。
「…次のページからは、ゲームのルールと役職のご説明です。各役職のことは後で確認して頂くとして、基本的なルールを申します。こちらは20人、役職多めの村です。内訳は人狼4、狂信者1、占い師2、霊能者2、狩人1、共有者2、妖狐2、村人6になります。狩人の連続護衛有り、占い師の初日お告げ有り、その際妖狐には当たらない仕様になっております。人狼の初日襲撃あり、つまり役職欠けが出る可能性があります。共有者同士、妖狐同士は、腕輪の通話機能で夜10時から11時までの村役職行使の時間に通話が可能です。腕輪の機能については、巻末の項目を参照してください。」
話せるのか。
拓海は、良かった、と思った。
共有者同士の話し合いは、一人が潜伏したとして対面ではリスクを伴う。
腕輪で話せるのは、ありがたかった。
ジョアンは続けた。
「その他詳しいルールはこのルールブックを参照してください。ちなみに追放となりましたら、苦痛を取り除くために皆さん一時的に昏睡状態になります。その後、我々が四階の病室にお連れしてお世話致します。腕輪から24時間監視しておりますので、バイタルが乱れたらすぐに対応しますのでご安心ください。ゲーム終了後、勝利陣営の方々は追放されて昏睡状態の方も含めてすぐに治療を開始致します。敗者の方々は、緩和ケアを続けさせて頂きます。どちらもかなりの金額になりますが、全てこちらで負担させて頂きます。」
村陣営が勝利したら、一人三千万だとしても相当な負担になる。
負担する側としたら、妖狐に勝利してほしいのではないかと思ってしまうぐらいだ。
皆が真剣に説明を聞いている中、ジョアンはルールブックを閉じた。
「では、お食事のご準備が出来ております。皆さんはこちらに到着してから三日、何も口にされていないので、まずは療養食をご準備させてもらいましたので、隣りのダイニングキッチンへご移動ください。」
え、三日?!
拓海が目を見開くと、同じように思ったのか、他の若い男性が言った。
「え、さっき着いて寝ていたんだと思ってたのに。」
皆がウンウンと頷く中、ジョアンは苦笑した。
「いえ、到着してすぐに皆さんの処置をさせて頂いておりました。眠った状態でやりましたので、分かっていないだけです。点滴で数日間治療と栄養投与をしておりましたので、体は大丈夫ですが、いきなり固形のものを食べると胃がびっくりしますので。今日は夜も療養食だと思ってください。明日から少しずつ固いものも食べて頂きますので。」
一瞬でこうなったわけではなかったのだ。
拓海は、妙に納得していた。
そういえば、無性に空腹な気がしてくる。
胸の痛みで食欲も全くなかったが、今は何でも食べられる感じだ。
一人が、立ち上がった。
「早く行こう。もう腹が減って仕方がない。久しぶりに食欲があるのに、どろどろの食べ物ってのが残念だが。」
ジョアンが、微笑んだ。
「明後日からは普通の食べ物が出ますから。ああ、言い忘れていましたが、毎日朝は7時、昼は12時、夜は6時にダイニングにそれぞれの体格と容態に合わせた食事が出ますので、ダイニングのご自分の番号のプレートから食べるようにお願いします。明後日からはキッチンにお菓子も準備しておきますので、ご自由に食べて頂いて結構です。誰が何をどれぐらい食べているのかは、カメラでチェックしておりますので報告しなくても大丈夫です。」
カメラがあるのか。
病人ばかりなのだから、それはそうだろうと拓海は思った。
しかし、一人が言った。
「え、もしかしたら私室にも?」
ジョアンは、頷く。
「あります。ですが倒れたりした時にすぐに対応するためですので、この際忘れて普通に過ごしてください。ちなみにバスルームにはありません。倒れた時には腕輪で検知されますので、ご安心を。」
とりあえず風呂場にない事だけが救いだった。
皆は微妙な空気になりながら、ダイニングキッチンへと向かったのだった。