4日目の夜
そのままダラダラと話していたが、意見は二分されていて特に動くこともなかった。
明が真だというのが浩人、どちらかというと明というのが幸喜、隆、史朗が真だというのが圭斗、二千翔、分からないと言ったり来たりが礼二と桔平だった。
この中に、明のグレーが6人、史朗のグレーが5人居る。
夕食の席では、二人にこの中から占い位置を決めてもらう事にした。
史朗が、言った。
「オレは幸喜と浩人を指定したい。浩人は明さんの白先だから気になるし、昨日から幸喜はオレと明さんでフラフラしている気がする。狐目があるかと思うし、どっちも気になる位置だからな。」
明が、言った。
「では、私は完全グレーの中から選ぼう。その人達もいつまでもグレーでは落ち着かないだろうしな。圭斗と、桔平だ。圭斗の事は、今朝の事で気になっているし、寡黙だったのも言い訳していたが理由が薄い。白であれ黒であれ、色を付けてやった方が本人も落ち着くだろう。桔平もあまり目立たない位置で指定先に上がっていなかったから気になっているしな。」
拓海は、頷いた。
「では、それで二人ともお願いします。」
一真が、箸を置いた。
「さ、じゃあ今夜はオレ吊りだろ?」と、立ち上がった。「早いとこ行こう。実は四階がどうなってるのか気になってるんだ。何もやる事ないわけだろ?みんなでオレ達の議論だけを見てるのかな。もしかしたらもっと良いもの食べてるんじゃないか。」
それには幸喜が、ぷ、と笑った。
「なんだよ、食い物?ここにもお菓子が置いてあるのに、みんな食べてないだけじゃないか。あ、君はポテトチップス持って行ってたっけ。」
一真は、頬を膨らませた。
「あんまり食べられないんだよ。三つ袋持って行ってたら、マルコム先生が来てこれは多過ぎだって二つ持ってかれちゃって。隠して持ってったつもりだったのに、ほんとに部屋の中まで見てるんだなって思った。緩和ケアなんだからさ、何食べてもいいじゃないかなあ。」
幸喜は、笑って言った。
「多分、上に行ったらもっと食べさせてくれるんじゃない?夜寝る前にチップス三袋は多いって。昼の議論とか無くなるから、多分暇になって昼間に食べてばっかになるよ。でもその代わり、運動させられるだろうけどね。」
一真は、扉を歩いて出て行きながら驚いた顔をした。
「え、死にかけてるのに運動?!」
拓海は、そんな二人の後ろから歩いて着いて行きながら、その背に思った。
…とても死にそうには見えないけどね。
幸喜は、頷いた。
「そりゃいくら死にかけてても今はそう見えないんだからさ。動けるうちに動いておかないとね。そうしたら筋肉がついて体に力が出て来るからさ。今どう?ここへ来た時は死にそうな顔をしてたけど、なんだかちょっと盆踊りぐらいはできそうじゃない?」
盆踊りて。
拓海は思ったが、一真は真剣に、首を傾げて自分の体の調子を探っているようだ。
「…盆踊りどころかバスケもできそう。めちゃ足がスッスと動くし体がめっちゃ軽いからさ。歌を歌うのもしんどかったのに!確かに運動してもいけそう。」
幸喜は、頷いて椅子へ座った。
「だったら、上で運動して来たらいいよ。」と、脇に立っている、マルコムを見た。「今日は一真なんですよ。」
マルコムは、頷いた。
「そうですか。だったら上にトレーニングマシンがあるんで軽い筋トレから始めましょうか。一真さんは食欲があり過ぎるんですよね。ゲームをしている二階三階には運動施設は無いんで食べ過ぎは困るんです。四階五階にはいろいろあるんで大丈夫ですよ。脇のホールへ抜ける通路も四階は解放されてますので、バスケットもしたければできますけどね。盆踊りはどうかなあ。私もした事が無いんですよ。見てみたいとは思いますけどね。伝統的な踊りでしょう?」
一真は、目を輝かせて言った。
「え、ホールってなんですか?この屋敷の他にあるんですか?」
マルコムは、頷く。
「ありますよ。前からは見えませんけどこの洋館の後ろに体育館の小さなもののようなのがあるんです。そういえば将生さんと瑠香さんが昨日、1on1やってましたね。バスケットゴールがあるんで。」
遊んでるのかよ。
拓海は、自分達がこんなに必死で勝とうとしているのに、ゲームを見ていないということか、と思った。
だが、もう離脱が決まっている一真には関係ないようだった。
「よし!じゃあ早いとこ投票しよう!オレも自分投票する。」と、カバーを開いてさっさと入力した。「ほら、みんな投票して。」
皆は、毒気を抜かれたような顔をしながら、仕方なく一真の番号の、2を入れて0を3回押した。
「はい。」マルコムは、タブレットを見て、言った。「一応投票結果をモニターに送っておきますね。」
パッと投票結果がモニターに映し出された。
そこには、一真でさえ2に入れていて、2の羅列が一直線に並んでいた。
「さ、じゃあ行こう!」解放された一真は、嬉々としてマルコムを急かした。「オレも将生と1on1やりたい!」
マルコムは、困ったように笑った。
「もう夜ですから、それは明日に。上にも部屋を準備してありますが、狭いですよ。二階三階とは造りが違うので。」
一真は、肩をすくめた。
「今の部屋は広過ぎると思ってたから。」と、皆を振り返った。「頑張って!」
そうして、何の悲壮感もなく、一真は去って行った。
残された拓海は、一真が羨ましいと思ったが、しかしそれが未来永劫続く平和だとは思っていない。
それをずっと続けるためには、ここでゲームに勝たなければならないのだ。
村人達の将来を背負って、拓海は頑張って明日も皆を精査しようと思っていた。
その日、拓海は自分から幸喜に通話を入れた。
幸喜は、すぐに出てくれて、言った。
『そろそろオレ達の位置が透けて来るよね。明さんも、もし狼なら放置できなくなってると思うんだ。これまではグレーも多かったしきっと噛まなくても大丈夫だったんだろうけど、そろそろ二千翔も煩いし、噛んでおきたくなるんじゃないかな。オレの事は、多分噛まない。狐とか思ってるかもしれないから、明日黒を打って来たら史朗さんが偽だってハッキリ分かるから嬉しいんだけどね。』
拓海は、頷いた。
「だよな。もう明さん目線じゃグレーは圭斗、礼二、隆さん、桔平だけだろ?幸喜と二千翔は違うの知ってるし。この中に、一真真だったら1狼1狐だよ。白圧迫でも充分行けそうだ。」
幸喜は、ため息をついた。
『だとしても、史朗さん真も追いながらだからキツイな。史朗さんのグレーは浩人、圭斗、桔平だけだ。オレに黒なら分かりやすいけど、他に黒だったら迷うよな。白だったら、完全グレーは桔平だけだから桔平を吊るって手もあるけど…縄が足りなくなる。護衛成功が出ないと。』
それは、難しい気がした。
二千翔は、何しろ史朗を真置きしているので、それ絡みの所しか守らない気がするのだ。
少なくとも、昨日吊り先にまで挙げた拓海と幸喜は守らなさそうだった。
「…まあ、オレを噛んで来るかもしれないけどね。」拓海は、苦笑しながら言った。「何しろ進行が全く合わないから、二千翔が守ってくれないと思うし。史朗さんが狼だったら、絶対オレが噛みたいはずだよ。」
幸喜は、しかし言った。
『噛まれる事は無いんじゃないかな。今は守る場所が無いから、露出している共有ぐらいしか守る所が無いだろう?オレの事は噛まないと思うよ、だって理央さんが狐だったら狐位置かもしれないし、そうなったら護衛成功になって縄が増えるの知ってるからね。狐らしい所は噛まないと思うし。狼は二千翔が狩人なんて、昨日のこともあって絶対思ってないから、鉄板で君を守ってると思ってるはずだ。今も言ったように護衛成功は今、絶対嫌なはずなんだ。逃げ切りたいからね。』
拓海は、頷いたが確証はなかった。
「…まあ、どちらかが噛まれたら、それで占い師の真贋を付けて行こうよ。オレが噛まれたら明さん真、幸喜が噛まれたら史朗さん真じゃない?明さんだったら絶対オレを噛まないと思う。だって、あんな明さんに不利な時でも明さんを擁護したのはオレだけだもの。だから、幸喜もオレが噛まれたらそれを考えてね。」
幸喜のため息が聴こえて来る。
幸喜は、言った。
『…分かったよ。まだ迷ってるけど、君が噛まれたら君の遺志を継ぐよ。だって噛むのは意味があると思うから。その代わり、君もオレが噛まれたら考えるんだよ?オレはまだ迷ってるから、史朗さん真と見ろとは言わないけどね。』
拓海は、頷いた。
「うん、分かってる。明さんが幸喜を噛むとは思えないよ。そもそも、真だと信じてるから。」
幸喜は呆れたように言った。
『分かった分かった。じゃあ、おやすみ。』
「おやすみ。また明日な。」
拓海は、答えて、通話を切った。
そして、そのままベッドでぐっすりと眠ったのだった。




