吊り先
昼の議論に、明は来なかった。
そもそもが食事も、部屋ですると言ってダイニングには来なかったのだ。
昼からの話も、二千翔と史朗がまるで結託しているかのように場を流すので、雰囲気は明偽が固くなりつつあった。
史朗は明が居ないと饒舌で、よく話した。
拓海には、それさえも怪しく見えて来ていた。
だが、二千翔は狩人なのだ。
このままでは、場が明吊りになりそうにさえ思えて来た頃、幸喜がポツンと言った。
「…二千翔はグレーだよね。」幸喜は、調子良く話す二千翔を遮って言った。「こうなって来ると、二千翔と史朗さんが狼陣営だったらまずいと思うのはオレの無駄な考え?」
それには、意外にも隆が頷いた。
「…だよな。最初は思っていたんだよ、その通りだなって。でも、繰り返し同じことを聞いているうちに、まずいなと思って来た。何しろ色が見えてない二千翔を、史朗さんがやたら信頼してるようなのもおかしな話だ。占ってもないのに、同じ意見だからってことか?狼同士でもない限り、グレーの村人をそこまで信頼できるのはおかしいし、断言して明さん真の可能性を考えない二千翔もおかしい。オレ達村人には、何の色も見えてないんだ。それとも二千翔には、明さんの色が見えているのか?」
二千翔は、黙った。
例え狩人でも共有者でも、色は見えないはずなのだ。
幸喜は、頷いた。
「おかしいよね。今ので余計に怪しくなった。というのも、明さんが居たら話さないのに、明さんが居なかったらめちゃくちゃ話す史朗さんもおかしい。明さんが居たら下手なことを言ったら突っ込まれるから話せなかったように思えて来て。あの人は言葉に堪能だからね。広辞苑丸暗記してるぐらい。だからおかしなところはすぐに気取るんだよ。何しろマルチリンガルだからさ。」
広辞苑丸暗記って。
拓海は心の中で突っ込んだ。
少し大袈裟に言っているとしても、あの人ならほぼ覚えていそうだとは思った。
「そんなの、今まで明さんが先に話すから口を出せなかっただけじゃないか。真占い師でも対抗に押されて発言の機会が無い人だって居るよ!むしろ、やっと話せるんだから意見を聞けて良かったと思わないの?」
それには、優斗が言った。
「そこなんだよねえ。」優斗は、顔をしかめて言った。「最初は、二千翔は白いなって思ってたんだけど、明さん側の話を一切信じないような言い方するんだよね。それがおかしいなって段々思い始めてて。今隆さんも言ったように、色が見えてるのかって思うぐらいだ。普通、村人だったら反論されたらそれがどうか、ちょっと考えるよ。でも、それがない。頭から明さんが偽って感じ。そこまで聞く耳持たないのってどうしてなんだろ?オレ、グレー吊るんなら二千翔だなあって思った。吊って色を一真に見てもらったらラインが見えるんじゃない?どっち陣営なのか、二千翔の色で。」
史朗が、顔をしかめた。
「オレから見たら二千翔は白いが、グレーが狭まるので別に吊ってもいいがな。」二千翔が驚いた顔をすると、史朗は続けた。「そうだろう。オレ目線は色が見えてないんだ。黒もある位置だから、別に吊ってもいい。もしかしたら、真占い師のオレに擦り寄ってる狼かもしれないだろう。明さんが真目を取れなかった時のために、最初から対抗して見せてたとしたら?二千翔がオレの意見に合わせて来てるだけで、オレ目線二千翔はグレーでしかないんだ。だから別に投票できるぞ?」
皆が、顔を見合わせる。
どうやら、それが白いと思っているようだった。
だが、拓海は言った。
「…これだけ自分を助けてくれる意見を出してくれる二千翔に投票できるんなら、明さんに怪しまれているだけの千晶さんの事はもっと吊れるよな?」皆が、拓海を見た。拓海は続けた。「だったら二千翔と千晶さんの二択にしたらどうだろう。一真は明日でも吊れるからね。史朗さん目線じゃ、あれだけ明さんと戦ってくれてる二千翔は絶対千晶さんより白いはずなんだよ。追い詰めようとしてる姿勢が凄いからね。それに、まだ一真が真霊能の可能性も史朗さん目線であるはずだ。真占い師の目線では、占っていない位置を吊ってそこの色を出されても色が見えないはずだから。昨日千晶さんを吊っていたら霊能が両方生きてて結果を落としたとして、黒確定する可能性もあった。明さんが自分を白く見せようとして仲間を売ってる可能性もあるんじゃない?その理論だと。二千翔があなた目線、黒もあるって言うならね。」
史朗は、拓海を睨んだ。
「それとこれとは話が違うだろう!秋也は噛まれているんだぞ?生きていたらなんて、たらればの話じゃないんだ!」
「同じだよ。」幸喜が、言った。「二千翔も千晶さんも同じ。グレーで明さんと敵対しているように見える。そもそも千晶さんを吊っていたら秋也は噛まれてないかもしれないからね。拓海が言うことは間違ってない。そうだな、しっかり考えないといけない。ごめん、あの人があんまりにも盤面見通しているように見えるし、誘導されているような気がしていたけど、今場を誘導しようとしているのは明らかに史朗さんと二千翔だ。そっちの陣営の思う通りにもできない。明さんには、味方が居ない。拓海が言うように。とりあえず、今日は一真は置いておこう。明日でもまだ間に合うはずだ。グレーを詰めよう。仮に史朗さんが真だとしても、グレー詰めは利があるはずだ。みんなで怪しい位置を話そう。それとも、今話題に出た千晶さんと二千翔にするか?」
二千翔が、体を硬くする。
狩人なのだから、何を言っても幸喜も拓海も文句も言わないと思ったのだろうか。
拓海は、二千翔も史朗も、やり過ぎたのだと思った。
反論する明が居ないので独壇場で、調子に乗って話していたのだろうが、それによって村人に一方的な印象を与えてしまった。
そう考えると、明が議論に参加しないのは、これを見越しての事なのではないかと拓海は思えて来て躊躇った。
明には、恐らくどう動くのか見えていたのではないだろうか。
分かっていて、こうして放置してやりたい放題させたのではないだろうか。
そう思うと、もしや自分すら明に騙されているのではないか、という考えが過ぎって背筋が寒くなる。
どこまで、明を信じていいのか。
だが、自分はあの目を信じると決めた。
史朗は、やはり今日もあまり目を長く合わせてくれない。
あれほど饒舌に話している時ですら、じっと見つめていてもチラとこちら見るだけで、すぐに他の方向へと視線を反らしていたのだ。
そういう性格だと言われたらそれまでだが、自分は自分の勘を信じたかった。
それに、自分達は少なくとも二千翔には入れない…狩人だと知っているからだ。
だが、いくら狩人でもこれまで護衛成功が出せていないし、何より思考ロックが酷いのはいかがなものか。
このまま二択にして二千翔が生き残れば、狼は二千翔を狩人とは思わず噛まないだろう。
仮に二千翔が吊られてしまっても、結果をどう出すかで一真の色が特定されるかも知れなかった。
二千翔は、ギリギリと歯を食い縛った。
恐らく狩人COしたいが、したらしたで噛まれてしまう未来しかないからだろう。
狩人を知っているはずの共有から二択に選ばれてしまい、仮にCOしても誰も信じないのだ。
拓海は、険しい顔で二千翔を睨んで、言った。
「…今日は、二千翔と千晶さんで。投票先でまたラインも見えて来るからね。さっきも言ったように、史朗さん目線じゃ二千翔の方が白いはずだ。千晶さんは同じグレーでも明さんに疑われていたという意外に何も情報はないし、そもそも発言もない。千晶さんに入れられないというのなら、そこにラインを見る事にする。そして、呪殺を目指して今夜は占い師達に占い先を二つ選んでもらう。それで決まりだ。」
千晶が、言った。
「待って!私だって発言したかったけど、史朗さんと二千翔さんが話すから話せなかったんじゃない!私は別に、疑われているけど明さんが偽だとはまだ思っていないし、どっちが真なんてわからないわ。明さんが誤解している真占い師かもしれないのに!」
幸喜が言う。
「どっちにしろ、昨日は史朗さんが勧めてた将生を吊ったし、今日は明さんが勧めてる君を吊るのがバランス取れて良いとは思う。まだ、占い師の真贋はわからない。拓海はめちゃロックしてるけど、君も確定村人でなかったら疑われていたよ?気をつけた方がいい。二千翔も大概ロック気味だけど、狼ならそこまで片方に肩入れするかなとも思うし…そこは占いで、結果を出して行けばいいんじゃないかな。二択は分かるし、オレは千晶さんに入れようと思うけど、みんなの投票先は任せるよ。」
拓海は、確かに共有でなかったら吊られている行動だったと少し、反省した。
それでも、村は朝にはあれほど明偽で固まろうとしていたのに、ここまで持ち直した。
明日からはもっとバランスを取って行こう、と拓海は思っていた。




