3日目朝の会議
こうなって来るともはや食事の席は拷問だった。
何しろ全員がゲームのことが頭を離れず、何を信じて良いのか分からなくなっているからだ。
そんな中でも、一気に怪しくなった明は特に気にしている様子はなかった。
淡々といつも通りに食事を済ませ、それが逆に盤面の見えている狼のように皆には見えた。
真占い師なら、そんなはずはないと動揺して食事どころではないだろうからだ。
そんな中で食事を済ませて、拓海は皆を促してリビングへと移った。
重苦しい雰囲気の中で、拓海は口を開いた。
「…今日は秋也さんが襲撃された。占い結果は明さんが浩人白、史朗さんが礼二さん白。霊能結果一真が将生白。ここから話をして行こう。」
二千翔が、言った。
「…今日は一真吊り一択でしょ?違う?秋也さんが噛まれたんだよ?真だったってことでしょ?」
拓海は、首を振った。
「まだわからない。だからどうするかみんなに話を聞きたいんだ。」
礼二が、言った。
「…オレは一真を吊るべきだと思うけどな。占い師から黒も出ていないし、オレ的には史朗さんが真じゃないかって思っているんだ。さっき二千翔が言ってたように、狼が狂信者を噛むとは思えない。仮にそうだとしたら、よっぽど潜伏できてる狼が居るってことだろ?千晶さんは吊り位置筆頭に来てたし、あり得ない。朝陽さんがあんな風だったが真だったら、それを庇った千晶さんは限りなく白くなる。それを吊ろうとしていた明さんは真には見えない。」
確かに明さん目線では、聞いている限り狼候補が多いし露出している。
囲われているだろうと思っているということは、隆も狼で千晶が狼だったら、この噛みは詰みになるのだ。
縄が余裕で足りてしまうのだ。
拓海は、明を見た。
「…明さんは、どう思われますか?」
明は、面白がっているような顔をした。
そして、言った。
「…面白い。私に不利な噛みを私がこの盤面ですると皆、本気で思っているのか?」
二千翔が、言った。
「だから!結果を見せたくなかったからじゃないの?!」
明は、真顔で首を振った。
「結果などどうでもいい。霊能結果が白黒になるのは誰もが予想できたことではないか?むしろ噛まずにそのままにしておいた方が、私は今朝こんなに疑われる事はなかったはずだ。これは、狼が霊能に縄を使いたい噛み。だからこそ私は、狼は捕捉されている位置に居ると考えている。昨日、君は怪しんでいる千晶さんを占い位置に入れなかった。つまり、吊ろうと考えていたのではないか?狼にはそう見えたのだと思うぞ。だからこそ、今日をしのぐために狂信者を噛んだ。私はそう思った。とはいえ、まだわからない。あの二人が真であった可能性も私目線ではあるので、そうなると色を見せたくなかったとしたら将生が狂信者で、理央さんが真で宏夢が狐で、一真を囲っていた可能性も無いとは言えないから、今夜一真を吊る事には同意してもいい。千晶さんは、他を占って白圧迫してからでもいいと今は考えている。まあこの噛みから、黒は固いと尚更思ったがね。」
史朗が、珍しく口を挟んだ。
「オレから見たら黒の君がそれほど怪しむから逆に白いんだ。今回の噛みも、そう言おうと思って都合の悪い所をさっさと噛んだんじゃないかと思えて来てならない。そうやって理由を付けて罪もない村人を吊って行く、自信が君にならあるのだろうしな。」
明は、チラと史朗を見た。
「確かに。私は議論で君に負けるとは思ったことが無い。とはいえ…私は人心に疎いからな。」と、皆を見回した。「私からしたら簡単な盤面も、皆には全く見えないらしい。そもそもが私が占い師という役職に当たってしまっているばかりに、更に私目線ではいろいろ見えてしまっている。どうせ、私が何を言っても視点透けだとか誘導だとか言うのだろう。ならば、私は結果だけを落として、後は村に委ねよう。投票ですら、村人である拓海が言う所へ入れる事にする。私の票は拓海に託そう。但し、後になぜ言ってくれなかったのだと言うのは無しだ。私を信じなかった君達の問題であって、私の問題ではない。聞かれたことには答えよう。それでいいな?」
淡々と言っているが、どうやら明は内心憤っているようだった。
勝たせようと思って言っている事を、村が理解しないことにイライラしているようにも見えた。
「それでいい。」二千翔が言う。「拓海を説得しようとしても無駄だぞ。自分以外は全員馬鹿とか思ってるんでしょ?どうせ。」
明は、フンと鼻を鳴らした。
「…どうかな。君は自分の命がなぜあるのか、考えた事はあるのかね?」
二千翔は、ぐ、と黙った。
…明に、狩人が透けていると拓海は言っていた。
それどころか、幸喜のことすら…。
二千翔は、ブンブンと首を振った。
「それでも!そういうところも、仕込みみたいに見えるんだ!」
明は、立ち上がった。
「議論にならないな。」と、扉へと足を向けた。「ま、良いことだ。狼に媚を売っている限り、生かされるだろう。だが、最後の瞬間は容赦なく噛んで来るぞ。それとも、君は狼陣営なのかな?」
明は、そう捨て台詞を吐いて、去って行った。
…狩人だからではなく、史郎側の意見だから噛まれないで残っている、と狼に思わせるためにああ言った。
そこに居る誰もがそれを分かっていなかったが、拓海には分かった。
あんなに責められても、明は二千翔が狩人だと透ける事を避けたのだ。
「…言い過ぎだ!」拓海は、叫んだ。「なんだよ二千翔!今の話を聞いて、何も思わなかったのか!見損なったぞ、君は狼陣営に見える!」
二千翔は、キッと拓海を睨んだ。
「何を言ってるんだよ!」
そんなはずはない、と二千翔は言おうとして、ハッとした顔をした。
恐らく、明がどういう意図でああ言ったのか分かったのだろう。
しかし拓海は、それに構わず歩き出した。
「…次は昼だ!一方的で議論にならない、オレは明さんにしっかり話を聞いて来る!」
「拓海!」
幸喜の声も聴こえるが、拓海は振り返らずに、明を追ってそこを出て行った。
…明さんは、真だ。
拓海は、今の会話でそれを確信して階段を駆け上がって行ったのだった。
拓海は、思っていた以上に足が速い明に驚きながら、必死に二階の、9の扉の前にもう立っていた、明に追いついた。
「明さん!」
明は、こちらを見た。
そして、拓海が追って来たのに少し、片方の眉を上げて驚いたような顔をしたが、立ち止った。
「どうしたのだ。会議は?」
拓海は、首を振った。
「いえ、後は昼からで。あまりにも一方的で話になりませんから。それより、オレはあなたの話が聞きたいんです。」
明は、眉を寄せたが、拓海があまりにも必死な顔をしているので、フッと肩で息をつくと、扉を大きく開いた。
「入るといい。」
拓海は、ホッとして明の9の部屋へと入って行った。
中は、拓海の部屋とあまり変わらなかった。
変わっているのは、ベッドの上がまるで寝ていないように綺麗に整えられていることだ。
拓海は寝たら寝っぱなしなので、明が几帳面な性格なのはそれで分かった。
明は、窓際の椅子へと歩み寄って、拓海にもその前の椅子を勧めた。
「座るといい。それで、君は私に肩入れしたら、他の者達が君の言う事を聞かなくなると分かっていてここへ来たのか?」
拓海は、そういえばそうだ、と今頃思い至って、顔をしかめる。
明は、フッと微笑した。
「考えていなかったのなら戻った方がいい。村をまとめるためには、どうしても共有が要るのだ。それとももう幸喜を出すのか。狼は恐らく、理央さんに囲われた狐だと幸喜の事を考えているかと思うぞ?まあ、宏夢が真だったらではあるが。もったいなくはないか。」
拓海は、首を振った。
「良いんです、どうせオレ達は意見が違うから、出たいって言うなら出てくれたらいい。というか、明さんの話をもっと聞きたいんですよ。この噛みは、明さんを陥れようとしているように思います。それに、明さんがさっき言っていた通り秋也を噛むことで千晶さん吊りが少なくとも一日遅れる事になった。朝陽さんの様子が白には見えなかったし、狼が身内噛みして来たとしてもおかしくはないと思ってます。だから、明さん不利になるように、わざと狼が印象操作しようとしてこんな噛みをしたんだと思っているんです。」
明は、黙って拓海を様子を観察していたが、不思議そうな顔をした。
「…君は私を怖がらないのか。結構長い付き合いの幸喜でも、こうしてゲームの中に入ると私を怖がっているのに。」
拓海は、首を傾げた。
「明さんと幸喜さんは、同じ病院だったって聞いてますけど?そんなに長いんですか。」
明は、答えた。
「私は研究所なのだ。幸喜が居た病院はその研究所と提携しているだけ。だが、あれが学生の頃からの知り合いでね。それなりに数年共に来たが、なかなか私を理解するまでには至らないようだ。いや、理解しているからこそ恐れるのかもしれないな。確かに私なら、皆を騙して勝ち残る事は容易にできただろう。ここへ来て、狼ならば良かったと思ったよ。それなら仲間が分かっているので、あちらは私の話を村に納得させようとしただろう。だが、今は残念ながら村なので、誰も私の味方などしない。真贋が分からないからだ。出来たらグレーの狐を呪殺したいものだが…難しいな。今のところ狐らしい所が全く分かっていないのだ。変に千晶やら幸喜やら、それに二千翔が話すので他が話さずに済んでしまうのだよ。そうなると、ボロが出ることが無いし考える材料が無い。二千翔は狩人なのだろう?少し黙れと言いたいね。だが、表向きグレーなので言うわけにも行かないが。」
確かに、あの二人が積極的に話すので他が話さなくて良くなっている。
「そこは、オレが言っておきます。他の人達に話させないと、グレーの色が全く分からないって。でも、どうして二千翔はあんなにあなたを疑うんでしょう。ちょっと病的な気がしましたけど。」
明は、フッと笑った。
「ああいう症状は見た事があるが、あれは何かコンプレックスを持っているな。」拓海が驚いていると、明は続けた。「もしかして自分の頭脳に自信が異常にあるのか、それとも異常に無いのかどちらかではないかな。どちらの場合でも、私のような人種に会うと毛嫌いするのだ。前者の場合は己のアイデンティティを叩きのめす私の思考が気に障る。後者の場合は己の弱い所を見せつけられているような心地になって不快になる。どちらにしても、嫌な感情であるのは間違いない。排除したい、打ち負かしたいと考えるだろう。今はそれどころではなかろうに。気の毒なものだよ。」
二千翔がこれを聞いたら、激昂するんだろうな。
拓海は、思った。
どちらか分からないが、恐らく前者の方ではないかと拓海は思った。どうも、一対一で話した時に、自分の思考に自信を持っているようだったのだ。明が、自分の考え付かないようなことを考えるので、刺激されて明に反発していたのかもしれない。
「…狩人がそんなじゃ、困ります。」拓海は、言った。「でも、オレは明さんを真だと思っています。」
明は、それこそ驚いた顔をした。
拓海は、続けた。




