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説明

拓海が降りて行くと、他の人達も一階の廊下を歩いているところだった。

さっきは顔をよく見る余裕もなかったが、それは相手も同じなようで、こちらを見て戸惑った顔をして、言った。

「…君は、白衣を着ていないって事は、患者の一人か?」

拓海は、話し掛けられると思っていなかったので、慌てて頷いた。

「ええ、そうです。あなたもですね?」

ちょっと見た事もないほど綺麗な顔立ちで、歳がよく分からない。

若いと言われたら若いだろうが、年上だと言われたらそうな気がした。

相手は、頷いて言った。

「私は、羽田明(はねだあきら)。君は?」

拓海は、答えた。

「オレは、永浦拓海です。ええっと、歳は31です。」

明は、苦笑した。

「私は33。君より年上だな。」

33歳か。

そう言われてしまうと、落ち着いた感じがしてもっと年上に見えるかもと思ってしまう。

とはいえ、この人も病気なのだ。

拓海は思って、その人の後について、廊下の正面にある大きな扉を開いて奥へと歩いた。


そこは、広い暖炉のある部屋だった。

入って左側には、大きな窓があってさっき通って来た道と、広い芝の庭が見える。

ソファが窓際に置かれてあって、どうしたわけかこちら側の暖炉の前には、丸く円形に肘掛け付きの椅子が置いてあって、その椅子の背には番号が書かれてあった。

何だろうと思いながら、皆が居るソファの方へと歩いていくと、そこには仲間である自分の他の19人と共に、白衣を着た五人の医師らしい男達が居た。

「ああ、そちらに座ってください。」ジョアンが言った。「今から、ご説明をします。」

拓海は、空いているソファに、一緒に来た明と共に並んで座った。

全員の顔を見回すと、さっきあれだけ青い顔をしていたのに、全員が顔色も良く、全く病んでいるようには見えない状態だった。

いったい、どんな注射をしたらこうなるのだろうと思っていると、ジョアンが言った。

「今日から、皆様にはこちらで療養生活をして頂きます。全員が、余命をひと月から三カ月と診断された人達ばかりです。」

全員が、顔を見合わせた。

分かってはいたが、みんなそんなに悪いのだ。

ひと月の人も居る、という事実は、拓海の心にも衝撃だった。

ジョアンは、続けた。

「…普通の抗がん剤では、もう治療をするだけ苦しむことになるということで、こちらへご案内した方々で、それぞれが同じ病に苛まれているのだと思ってくださって良いです。今は、私どもの研究所で開発した薬をそれぞれの容態に合わせてブレンドした物を投与させて頂きましたので、皆様の容態は劇的に安定しているように見えます。ですが、自覚が無いだけで、容体は変わっておりません。未承認の薬ですので、副作用はまだ分かっておりませんが、できるだけ調整して安定して通常通りに過ごせるように、努力して参りたいと思っております。」

未承認の薬なのか。

拓海は、自分の腕の注射痕を見た。

それが効いてこれだけ劇的に体が楽になっているのだ。

ジョアンは、淡々と続けた。

「腕に巻いているのは、時計の機能もありますが、それだけではありません。その中には、開発中の薬品が幾つも入っていて、もしもの時にはリモートで投与して苦痛を和らげるようになっております。入浴中も、防水機能が着いておりますのでつけたままにしてください。カバーを開くと、中には液晶画面がついており、時計が見えます。テンキーで数字を押し、入力することもできますが、それは後でご説明致します。」

拓海は、そっとカバーを開いて見た。

ジョアンが言った通り、中には液晶画面と小さなテンキーが並んでいた。

この小さな機械の中に、薬品が幾つも入っているなど思いもしないが、それが自分を緊急事態に助けてくれるのだと思うと、心強かった。

ジョアンは、歩き出すと壁にくっつけてあったホワイトボードを引っ張って皆に見える位置まで持って来て、そこに他の医師たちと手分けしてポスターのような紙を貼り付ける。

見ると、そこには番号と、名前が書いてあった。


1 畑山 史郎(しろう)

2 樫田 一真(かずま)

3 阿尾 浩人(ひろと)

4 中井 幸喜(こうき)

5 新田 圭斗(けいと)

6 根来 将生(まさき)

7 生垣 優斗(ゆうと)

8 町田 礼二(れいじ)

9 羽田 (あきら)

10赤坂 (りゅう)

11浜田 千晶(ちあき)

12永吉 朝陽(あさひ)

13坂田 理央(りお)

14平野 美鶴(みつる)

15浅井 瑠香(るか)

16境 宏夢(ひろむ)

17永浦 拓海(たくみ)

18三田 桔平(きっぺい)

19阿木 二千翔(にちか)

20迫田 秋也(しゅうや)


自分の名前を見つけた拓海は、これは名簿だ、と分かった。

番号は、自分の部屋の番号だった。

ジョアンが、言った。

「これは、皆さんのお部屋の番号と、お名前です。これからこれが必要になって参ります。」と、皆を振り返った。「これは、皆さん次第ですが、皆さんは、未認可の新薬を、使いたいと思いますか?」

それには、端に座っていた、40代ぐらいの男性が重い口を開いた。

「…無理だ。自由診療でないと使えないと言われて、一回で効くとは聞いてるが、調合が物凄く難しいのだとか。専門医を呼び寄せて治療するから、とんでもない額になると聞いている。しかも、効かない場合もあるとか。それが無理だからここへ来たんだしな。」

ジョアンは、頷いた。

「あの薬はシキアオイといって、個人個人の細胞をしっかりと調べて、それに合わせて調合するので、それ専門の医者でなければ扱えないので認可が下りていないのが現状です。一度の投薬で効くのは確かですが、人によって薬の量が違うので、3000万円から8000万円掛かります。まだまだ一般的ではありませんが、治験としてどんどん使用されているのは確か。それ用の保険もできて、それに入っている人は使用できています。それほど、革命的な薬なのですよ。」と、皆を見回して、続けた。「…ただ、間に合わない時もあります。なぜなら、あれは癌細胞に自殺を命じるのでそれがあまりにも多過ぎて、体が再生するのに間に合わない時があるのです。つまり、投与して薬が作用した途端に死ぬことになります。多くの細胞を失う事になるので…その他、使用に耐えられるかどうかの判断が難しい所がある、大変に難しい薬なのです。」

他の、若い男が頷いた。

「聞いていた通りだ。そんな博打、打てるはずがないじゃないか。薬を使って助からなかったら、膨大な借金だけが残って、残された家族が苦しむことになる。オレには、そんな道は選べなかった。」

ジョアンは、頷いた。

「その通りです。ですから今は、それ用の保険に入っている方々が使用されているのが多いんですよ。使って良いかどうかの、見極めも難しい薬なのです。」と、名簿を振り返った。「…ただ、あなた方は各病院から送られて来た検査データと細胞のサンプルを調べた結果、全員がシキアオイの使用が可能だと分かりました。つまり、今の時点で投与すれば、助かる可能性があるということです。」

若い女性が息を飲むのが聴こえる。

その検査自体がお金がかかるものなので、拓海も検査は受けていなかったのだ。

なので、治るのかどうかも知らなかったが、自分達は、治るのだ。

絶対はないので、恐らく治る、ということなのだろう。

最初に口を開いた男性が、怒ったように言った。

「だから!そんな金は出せないからこそ、ここに居るんだよ!保険に入ってたら、とっくに使って治療してる!」

怒る気持ちも分かる。

治るのに、金が無いから治療を受けられないのだと知らせる方が、残酷かもしれない。

ジョアンは、そんな男性に言った。

「史郎さん。では、自分で稼ぐのはどうですか?」と、何やらカードのような物を箱から出して、皆に見せた。「もし、皆さんが治療を受けたいと仰るのなら、その費用を賭けてゲームをしてください。勝ち陣営の方々は、我々が責任を持って治療を行います。ですが、負けた方々は…残念ですが、当初の予定通り、こちらで最後までお世話致しましょう。どうしますか?参加をされない方は、お部屋に籠っていてくださって結構です。ですが、一度参加を決めたら離脱はルール違反とみなされます。」

拓海は、身を乗り出した。

「それは、どんなゲームなんですか?」

ジョアンは、手にしたカードをこちらへ向けた。

それは、黒く光るカードに美しい絵柄が描かれてある、人狼ゲームのカードだった。

「…人狼…?」

ジョアンは、頷いた。

「そう。人狼ゲームです。リアル時間でこれを行なってもらって、終了時に勝利陣営の皆様の治療をさせて頂きます。これは、我々の研究所の治験として行われますので、あなた方は検体としての権利をこれで勝ち取ることが可能なのです。参加を希望される方は、今すぐこのカードを取りに来てください。」

ジョアンは、言うとそのカードを伏せてさっさと繰った。

ジョアンに一番近かった、史郎と呼ばれた男が真っ先にそれを取りに行ったのを見て、拓海は慌てたが、皆が我も我もとジョアンに殺到した。

全員がカードを奪い合うように取って、ジョアンの手からはカードが一枚も無くなった。

「…では、それがあなた方の役職となります。誰にも見せないようにして確認してください。」

拓海は、フッと肩で息をついて、そっと手の平で隠しながらそれを見た。

それは、双子のような絵柄が描いてある、共有者のカードだった。

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