2日目投票
まず、将生が悲壮な顔で言った。
「…別に死ぬわけじゃないし、吊られるのはいいんだよ。でも、村の縄をオレに消費するって事実が重い。だってオレ目線一真は真なのに、その一真を一人にして行くわけだろ。絶対勝ってくれるならいいけど、縄を1本無駄にして大丈夫なのかって、勝って治療してもらえるのかって心配なんだ。だって、オレは見てるしかできなくなるんだよ?村のみんなに託す勇気が出なくて。自分の未来を託すほど、みんなのこと知ってるわけじゃないし。」
その気持ちは分かる。
拓海は思った。
勝つには村なら吊られたらまずいのだ。
幸喜が言う。
「大丈夫だよ、まだ余裕があるから。村目線スッキリさせて、大事な所で判断を誤らないように吊られるのも大事なことだ。君目線相手が狼なら、絶対君には黒を打つだろう。そうなった時に相手陣営の黒先が減るから、その後縄が間に合ったらそうそう黒は打てなくなるし、破綻の未来も見えて来る。だから、真でも今日吊られて大丈夫だと思う。村のためになるよ。」
将生は頷いたが、それでも顔色は暗かった。
千晶が言った。
「私が吊られても結局人外は私に黒を打って色が分からなくなるだけでしょ?無駄だと思うわ、今日は村目線でも将生さん吊り一択だと思う!」
千晶目線ではそうだろう。
拓海が顔をしかめていると、明が言った。
「…なぜ君目線、人外が黒を打って来ると知っているのだ?」え、と皆が明を見る。明は続けた。「白なら白確定する可能性もあるのではないか?君が人外だから、真が絶対黒を打って来ると知っているからと私には見えたがな。」
そう言われてみたらそうだ。
拓海は、千晶を見た。
確かに千晶は、今黒を打って来ると言った。
千晶は、言った。
「だって…将生さんには黒を打って来るって幸喜さんが言ってたでしょ?私にもそうでしょ?」
明は、首を振った。
「将生は相方の一真が恐らく真占い師だと思われる宏夢の白なので、最悪狂信者でしかない。なので、敵対している陣営は、それを狼として黒を打つ方が信憑性があると見る。だが、君は完全グレーで全ての可能性がある。仮に人外だとしても狐の可能性も考えられる。まあ、朝陽さんが黒だと狐の千晶さんが庇うのはおかしいので、白が出たら村人なのだろうなと思うがね。とはいえ、今の発言で限りなく黒であろうと私は思った。君が黒なら、私を噛まないと全力で吊り殺そうとするぞとだけ言っておこう。」
強い意見だ。
だが、千晶が狼だった時、明の事だけは絶対に噛めない。
なぜなら、明真なら史郎が狼で、それを売ってまで生き残ることが果たして狼のためになるかと言われたらそうではないからだ。
千晶が顔を真っ赤にして反論しようとしていると、マルコムがタブレットを手に急いで入って来た。
「もう時間です。すみません、ギリギリになってしまいました。皆さん、腕輪のカバーを開いてください。」
見ると、確かに暖炉の上の金時計はもう7時を指していた。
皆が急いで腕輪を開くと、マルコムは言った。
「では、7時です。7時5分までに投票をお願いします。どうぞ。」
実際には、もう7時1分だ。
拓海は、迷った。
…ああして聞くと千晶は黒い。でも、村目線で分かりやすくなるのは将生…。
拓海は、ギリギリまで迷っていた。
回りでは、投票を受け付けましたと聴こえて来る。
…やっぱり、明さんを信じよう。
拓海は、11、千晶に投票した。
「…投票結果はモニターに送ります。」
マルコムが言う。
全員がモニターを見ると、そこに結果が表示された。
1 畑山 史郎→6
2 樫田 一真→11
3 阿尾 浩人→6
4 中井 幸喜→6
5 新田 圭斗→11
6 根来 将生→11
7 生垣 優斗→11
8 町田 礼二→6
9 羽田 明→11
10赤坂 隆→6
11浜田 千晶→6
14平野 美鶴→11
17永浦 拓海→11
18三田 桔平→6
19阿木 二千翔→6
20迫田 秋也→6
6が将生、11が千晶だ。
結構接戦な気がした。
「…№6、将生さんが追放されます。」
マルコムが言う。
将生は、ハアとため息をついた。
「将生…。」
一真が、話し掛けようとしたが、将生は寂し気に笑って、マルコムの隣りへと歩いた。
マルコムは、言った。
「では、将生さんは連れて行きますね。皆さん、9時にはお部屋に戻っておいてください。では。」
将生はひたすら悲壮な顔をしていたが、マルコムはあっさりと少し微笑んでまでいて、戻って行った。
まあ、マルコムから見たらただのゲームで、ただケアする場所が二階から四階に変わるだけの事なのだろう。
そうして、その日の追放は終わったのだった。
拓海は、ササッと二人の占い師に占い先を指定して、逃げるように部屋へと戻った。
明らかに村が分断していた。
とはいえ、将生に入れた中にも、千晶が怪しいという人も居るだろう。
だが、今回は安定進行を選んだのだ。
共有も、拓海は千晶、幸喜は将生に入れている。
考え方の違いが出ていた。
拓海は明を信じたいと思っているが、幸喜は怖いと思っているのだ。
だから、安定進行を選んだと思えた。
将生に入れているのは、史郎、浩人、幸喜、礼二、隆、千晶、桔平、二千翔、秋也の9人だ。
そして千晶に入れているのは一真、圭斗、将生、優斗、明、美鶴、拓海の7人で、恐らくこの7人は将生の真と、明の真も見て千晶に投票したのではないかと思われた。
なぜなら、普通の村人ならば怖いので安定進行を取りたいと考えると思うからだ。
拓海は、ため息をついて胸を押えた。
痛みはない。だが、胸が苦しいような気がして仕方がない。
明を真だと信じたい。
拓海は、最近では働けなくって退職していたが、人を見る目だけで世の中を渡っていたところがあった。
両親を早くに亡くして妹の世話をしなければならなかったので、結構早くから世間というものを知ってその中で働いて生き抜いて来た。
なので、相手の目を見ていたら、何となく嘘をついているのかそうでないのか分かる。
明の目を見ていると、信じられると直感的に思った。
だが、史郎は自分と、基本的にあまり目を合わせないし発言が少ないので見る頻度が少ない。
あの感じは、なんだか怪しい気がしてならない。
だが、こんな感覚的な事を言っても、村を納得させられると思えないし、そもそも自分は共有者なので、思考ロックだと言われてしまうかもしれない。
だが、明を信じたいという気持ちはこれからの変わらない気がした。
明をよく知っている幸喜が恐れる理由を、今夜は聞いておきたいと思った。
「痛みますか?」
拓海が顔を上げると、カートを押して、今日はまた違うドクターが入って来た。
今回は、アジア人の顔立ちなので、日本人じゃないだろうか。
拓海は、首を振った。
「いえ、悩んでいて苦しい感じで。前のように刺すような痛みとか、そんなのじゃありません。」
そのドクターは、頷いた。
「段々込み入って来ましたものね。」と、自分の名札を手に取った。「颯といいます。本日は私が担当を。」と、今度はカートの上のタブレットを持ち上げて、それを見て言った。「…数値は良いですよ。日に日に良くなっています。今日は点滴は必要ありませんね。採血だけさせてください。もう今夜はゆっくり寝てもらって、いつも夜明けには来てましたけど、それも必要ないでしょう。」
拓海は、驚いた。
点滴が要らないのだ。
「え。でも、このままで痛みが来たりしませんか。」
颯は、首を振った。
「無いです。薬を出しておきますので、明日の朝から食後に服用してください。」と、袋に入った薬を拓海に手渡した。「一錠です。明日からは普通の食事ができますよ。療養食はもう終わりです。」
拓海は、パッと顔を明るくした。
では、明日から普通のご飯が出るのだ。
「本当ですか?!やった、普通のご飯が食べられる!」
颯は、苦笑しながら言った。
「今ここで希望を聞いておきましょう。明日の朝はパンとご飯が選べます。昼と夜は肉と魚が選べます。どうしますか?」
拓海は、うんうんと前のめりになりながら言った。
「朝は久しぶりにパンが食べたいです。昼はお肉、夜もお肉で。」
颯は、フフフと笑った。
「たくさん食べたいんですね。分かりました、では今入力しましたので。楽しみにしておいてください。では、採血します。左はもういい血管が無いなあ。右にしましょう。」
颯は、慣れたようにゴムの紐のようなものを腕に巻いて、さっさと採血をした。
全然痛みもないし、何よりとても素早かった。
三本ほど小さな容器に採って、シールをペタと貼った。
「…はい。では今夜はこれで。またどこかが痛むようならすぐに言ってくださいね。痛い、と言ってくれたら聞いているのですぐに来ます。寝ている時も見ているので、問題ありませんよ。」
拓海は、ほんとに有難いなあと思った。
ナースコールも必要ない。ただ、痛いと言えばいいだけなのだ。
めちゃくちゃ見てくれていると思うと、本当に安心だった。
「ありがとうございます、先生。頑張ります。」
颯は微笑むと、またカートを押して、出て行った。
点滴もないので、今日は寝る前にはシャワーを浴びよう、と拓海は議論のことも忘れてウキウキして来たのだった。




