グレーの中では
浩人が、言った。
「…だったらオレはメタだと言われても毎日一真と話してて、一真を信じてるから朝陽さんは黒だと思っている。だから、その朝陽さんを庇ってた千晶さんがグレーの中では最黒だと思ってる。もう吊られるのが確定だって感じになってから、言い訳みたいに批判してたけどそれって色が見えちゃって疑われるのを避けようとした狼にも見えてるから。仮に白だったとしてもずっと疑われるだろうから絶対グレーの中では千晶さんだ。」
それには、一真も頷いた。
「オレもそう思う。そもそもオレと将生が真霊能なのに、秋也だけだったら結果を騙れなかったはずなのに後から吊り回避のために出て来ためんどくさい動きは、絶対人外だって思って欲しい。対抗が出てるのに出て来ない真役職ってどうだ?二日目に出て来て信じられると思ったんだろうか。絶対無理だよ、信じられない。その行動がおかしいって村目線分かって欲しい。」
礼二が、ため息をついた。
「朝陽さんがおかしな行動をしたのは確かだ。自己満足でしかないからな。朝陽さん目線真だというのは朝陽さんにしか分からないから、あれが二日目でも結局吊られただろうと思うし。だが、もし真だったら?それを利用して人外が勝ちに行ってるようにも見えなくもない。朝陽さん黒を確定する情報がないから、村としてはとりあえずもう片方も一人ローラーして必ず1人外が落ちたという確信が欲しいわけだ。あんまり強く推されると、逆に誘導されているんじゃないかって怪しむんだよなあ。」
それには、隣りの優斗も頷いた。
「オレも…。ちょっと、怪しいかなって思って来てしまった。」
グレーの中で意見が割れる。
桔平が言った。
「オレも一真は真だと思ってるんだけど、仲が良いからって言われたらそうだしなあ。難しい。史郎さんと明さんも、どっちも真かもしれないし、偽かもしれないんだよ。発言からは明さんが圧倒的に発言量が多いし、村利のある意見を出してると思うんだけど…あんまりにも明さんの言葉ってしっかりし過ぎてて、めっちゃ頭が切れるんだなって思うと、逆に怖いっていうか…素直に見たら絶対明さんが真なんだよ。だって、自分から発言してるし、考えるスピードが追い付かないほど速いし、やってることが村だと思うから。でも、こんなに頭が良いんだから、オレ達なんか簡単に騙せるんじゃないかって思っちゃって…。」
そうなんだよな。
拓海は、思った。
全てが白いし真に見えるのに、明はあまりにも真らしい動き過ぎて逆に騙されているのかもしれないと思ってしまうのだ。
当の明は黙って聞いている。
すると、幸喜が言った。
「…仕方がないよ。オレも、桔平の気持ちは分かるんだけどね、頭の良い人ってさ、みんなに理解されないんだよ。ちょっといいぐらいならいいの。でも、明さんはさ、めっちゃ頭が良いから。そこらの人じゃ太刀打ちできないぐらい。だから多分、それで逆に警戒されたりするのって、明さんは慣れっこなんだよね。」」
浩人が、驚いたように幸喜を見た。
「え、ただの知り合いじゃないの?お互いによく知ってるってこと?」
幸喜は、頷いた。
「うん。同じ病院で…研究職やってたから。オレなんか下っ端だけど、明さんはめっちゃその中でも偉い人だった。頭が良過ぎて。」
あり得ないほど頭が良いから、警戒される。
つまり、理解できないから回りは警戒するのだ。
こんなに見えるのは、人外ではないかとか、あまりにも出来過ぎるから、真占い師ではないのではないかとか。
状況を簡単にしようと初日から場を回しているのは、明だからだろう。
有難い事なのだが、それが逆に真か偽かどっちなのか分からないという、感情を生み出してしまっているのだ。
黙っていた、明が言った。
「…まあ、いい。私はこんなことは慣れているから。私の言う事を聞きたい者だけが聞けば良いと思っている。信じられないのなら、最後の盤面で私が真であったと後悔して吊られて行けば良いだろう。残念だが、そういう事だと思っているから。そう言う君だって、私が偽なら怖いと思っているのではないのかね?」
幸喜は、黙った。
つまりは、そうなのだろう。
頭が良すぎるので、回りからは理解されない。
怖がられるのだ。
拓海は、言った。
「…今日は占い師の決めうちの日じゃない。」拓海は皆を見ながら言った。「どちらが真でも大丈夫なように進行しよう。グレーなら、確かに千晶さんが昨日目立って朝陽さんを庇っていたから怪しい。朝陽さんが黒ならだけど。だから、今日は霊能者なら将生、グレーなら千晶さんにしよう。なぜなら朝陽さんに黒を打ってる将生と、その朝陽さんを庇った千晶さんで対抗だからだ。それでいいな?村の意見を投票で決めよう。」
千晶が、言った。
「そんなのおかしいわ!私は村人だから、みんなと同じように色が見えていないし、仲が良かったから庇っただけよ!それに、仮に朝陽さんが狼だとしても、そんなに目立って庇ったら危ないじゃない。狼ならそんなことする?全員に疑われていたのよ?他に誰も庇わなかったわ。狼陣営は五人なのに、だったら他の三人は何をしていたのよ。朝陽さんはやっぱり白だったんだと思う!朝陽さんを怪しんだ全員が怪しいわ!」
言われてみたらそうだ。
だが、ここでぶれては拓海自信も分からなくなると思った。
なので、言った。
「だったら将生に入れてくれたらいい!とにかく、今日は千晶さんと将生で投票だ。オレだってわからないんだよ…でも、朝陽さんの昨日の行動はどう見ても村利はなかった。そこを庇ったのは君だけだし、他の狼には切られてたのかもしれないしわからない。手探りするしかない。他にグレーで怪しい所がある人は言ってくれ。」
皆は、グッと黙った。
結局、他に挙げられないのだ。
目立って怪しい行動をしている人は居ないし、狼も動きが鈍い。
誰も庇わないのが白いのか、それすらもわからない状況だった。
恐らく狼も、絶対に勝ちたいので怪しまれないように慎重になっているのだろう。
明が、言った。
「…私はそれで構わない。とりあえず一度休憩を入れよう。皆疲れて来ているのではないか?」
拓海は、回りを見た。
確かに心労もあるのだろうが、皆の顔色が冴えない。
拓海は、頷いた。
「じゃあ、次は夕御飯の後で。投票まで僅かな時間だろうけど、言いたいことがある人はそこで言って欲しい。今夜は二択だ。」
それでラインも見えて来るだろう。
そうして、皆が重い体を引きずって思い思いの方向へ行くのを、拓海はじっと見つめていた。
どうしても勝ちたい…みんながそうだからこそ、素直に明を信じられない。
だが、自分も明のことは怖いと思っている。何しろここまで明の意見が通って来た気がするのだ。
狼だったら、どこまでもまずい展開のはずだった。
…何か決定打があったら…!
拓海は、明が真だという確証を求めて足掻いていた。
夕食の席では、朝陽のように千晶は来ないということもなく、堂々としていた。
美鶴とも普通に話しているし、重苦しい雰囲気でもない。
対して将生はお通夜のような顔をしていたが、一真に慰められていた。
仮に真だとしたら、どうして吊られるのかと鬱々とした気持ちにもなるだろう。
明と史朗は口を開かず、他の皆は場の空気がおかしくならないように気を遣って明日の食事が楽しみだとか関係のない事を言っている。
幸喜は明に何か言いたそうにしていたが、結局話し掛ける事はなかった。
拓海は、言った。
「…あと15分だ。リビングに行こうか。最後に投票対象の二人の話を聞きたい。」
皆がびくと肩を震わせる。
投票は、避けられないのだ。
放棄したら陣営が勝っても結局治療が受けられない事になるので、治療も放棄することになる。
全員が重い体を持ち上げて立ち上がり、リビングへと促されるままに歩いて出て行った。




