面談
拓海は、部屋へ帰って急いでノートを準備した。
この部屋には机があって、その上にメモとまっさらのノート、そしてペンが準備されてある。
今まで使って来なかったが、確かにこれは使わない手はないだろう。
それのページを開いて、拓海は言った。
「そこの椅子に座ってください。」と、側の二つの椅子に促して、自分は机の前の椅子に腰掛けた。「何か分かったこととかあれば。」
史朗は、椅子を引きずって来て拓海の斜め前に座った。
まるで、医者の診察のような感じだ。
史朗は、言った。
「何も。オレに見えてるのは初日の隆白と昨日の明さん黒の二つの結果だけだ。だが、宏夢が相方だったのではないかと思ってるよ。理央さんはあまりにもお粗末だし、どうも幸喜が相方で囲われてる狐なんじゃないかと思い始めている。何しろ幸喜は積極的に議論に参加していたし、白くなろうと思っている人外なのかもなって。相方があれではがんばるしかないだろうが。」
幸喜は共有だけどね。
拓海は、思ったが、頷いた。
「確かに理央さんが相方ならがんばるしかないですよね。だから、グレー吊りに持って行ってたって考えですか?」
史朗は、頷く。
「そう。まだわからないがね。見えてることだけで考えるとそうなる。」
拓海は、言った。
「ということは宏夢の白の一真は少なくとも狐でも狼でもないってことですね。霊能者はどう思います?」
史朗は、眉を寄せた。
「どうだろうな。朝陽さんが白には見えなかったから、一真と将生の方が真なのかもと今は思っているが、意見を聞いてみないとわからない。昼からの議論でまたいろいろ見えてるだろうが、朝陽さんの色次第で怪しい位置が見えて来るとは思う。だが、朝陽さんのCOで村が難しくなったのは確かだから、やっぱり黒だったのかもしれない。」
拓海はいちいち頷きながら、それをノートに書いて行った。
そして、言った。
「ありがとうございます。じゃあ、次の一真にここへ来るように言って来てもらえます?」
史朗は、眉を上げた。
「もう終わりか?」
拓海は、頷いた。
「まだまだ話を聞かないといけないんで。史朗さんも言ったように、昼議論にならないとわからないこともありますしね。」
史朗は、納得したのか立ち上がった。
「じゃあ、一真を呼ぶよ。」
そうして、そこを出て行った。
次に来たのは、一真だった。
一真目線では朝陽は人外で、それに白を打っている秋也は人外確定だった。
なので昨日、朝陽を庇っていた千晶は疑い位置で、占い師だとあっさりグレーの時の朝陽を吊ろうと言った明は白で、史朗は黒だと思っているらしい。
とはいえ明なら、あっさり仲間を切り捨てそうなのでわからない。
それは、恐らく将生も同じだろうと思われた。
村目線ではまだどちらが真なのか全くわかっていないので、興奮気味に話す一真をなだめて、次の浩人を呼んだ。
浩人は、グレーだ。
なので全く見えていないと困惑気味だった。
狩人でもないようで、COはなかった。
感情的に仲の良い一真を信じたいらしいが、それが怖いとも言っていた。
その次の幸喜は、入って来るなり言った。
「…史朗さんは何て?」
拓海は、頷いてノートを見せた。
「君が怪しいって。宏夢が相方だと思ってるらしくて、理央さんが君に白を打ってるから囲ってるんじゃないかと考えてるらしい。」
幸喜は、頷く。
「まあ、それはもし真でも思うだろうから分かる思考だよね。問題はそこからなんだけどね。」と、幸喜は険しい顔をした。「…仮に史朗さんが人外だとしたら、オレに人外目を押し付けたいんじゃないかなって考えたんだ。というのも、狼は恐らく護衛が入ってる共有は噛めないから、占い師を噛んで来たわけでしょ?でも、どうやってそこが狐でないと知ったかってこと。明さんは真目を取っていたしもしかしたら護衛が入るかもしれないから宏夢にしたのかもしれないけど、それでも噛み抜けたわけだから真だった。だから、オレが相方だと思ってる。そんな感じかな。でもオレを占っても呪殺は出せないから、黒を打つしかないんだ。つまり史朗さん目線、理央さんがオレに白を出したから狼のオレには真が透けて噛んで来た、って言い訳が立つわけだよ。史朗さん狼なら、そうしたいってオレは思う。だから、その意見を聞いて真占い師でも考えうることではあるけど、オレから見たら狼に見えるんだよね。」
拓海は、へーっと感心した顔をした。
「そんな風に見えるのか。じゃあ理央さん真だったら?」
幸喜は、うーんと顔をしかめた。
「どうだろう。そもそも狼には、今回の噛みで狐位置が透けたはずなんだよね。噛めてるからね。村人からはどっちを噛んだのかわからないんだけど。でも、宏夢の白先の一真を真とか言ってるから、史朗さんが狼だったら多分宏夢が真だよ。明さんの意見がまだだから、わからないけど。あの人の意見が聞きたいよね。」
どっちにしろ拓海にはこんなに深く考えられない。
なので、言った。
「…しっかりメモっておくよ。あ、ここまでで狩人は居なかったよ。」
幸喜は、苦笑した。
「そう。狩人が分かったらやりやすくなるよね。頑張ってね、じゃあ圭斗を呼んで来るよ。」
拓海は、頷いた。
「うん、よろしく。」
そうして幸喜は、出て行った。
そして圭斗、優斗、礼二と狩人は居らず、皆が皆色が見えないから皆の意見を聞かないとわからないというありふれた意見を聞いて終わり、将生は一真と同じ意見だった。
そして、明が入って来た。
明は、特に構える様子もなく、前の椅子に座った。
「どうだ?進んでいるかね。」
拓海は、頷いた。
「はい。」思わず敬語で答えて、だが言葉を崩すのもなんだか違う気がして、続けた。「あの、何が見えてますか?」
明は、苦笑した。
「何がと。私目線では美鶴さん白と史朗が狼なのが確定で見えているな。」
それは分かってるけど、その先なんですって。
拓海は思ったが、辛抱強く言った。
「いえ、あのそこから思うことを聞きたくて。」
明は、ため息をついた。
「私目線でしかないが、分かっているのは史朗が人外で、恐らく隆を囲っているのではと思っている。まだわからないが、グレー吊りの流れに逆らっていなかったからね。そして昨日の噛みは真を探した一か八かの賭けで、狼はそれに勝った。どっちかが狐だが、私は違うと見たのだろう。もしくは狩人の護衛を恐れたか。私は自分で言うのもなんだが、真目を取っていたからな。初日は護衛を引き寄せるために、少々多めに発言して真を取りに行ったので。だが、黒を打たれた今はもう私に護衛は必要ない。こうなることを望んでいたので良かったと思っているよ。」
つまりは計算の内だったのだ。
仮に史朗が狼ならば、明は真に見えているだろう。
相互占いを全く嫌がらずむしろ勧めていたからだ。
呪殺が出た今は、尚更そう見えるので黒を打たれることを知っていて、自分も対抗して黒を打って来た。
そうすると、もう明は噛めない。
破綻するからだ。
明は自分から護衛を外して他を守れるように、この形を望んでいたのだ。
「…では明さんは昨日からこの形を考えていたんですか。」
明は、頷く。
「そうだ。狼が真目の高い占い師を噛んで来ることは充分に考えられた。そうなっても残り三人の内に一人の真が居る以上、簡単にはローラーしようとはならないのを知っているのだ。なぜならまだ狐が居るから。だからといって、呪殺を出した占い師を鉄板護衛などしていたら他は噛み放題になるだろう。だから黒を打たせて噛めなくしたかったのだ。昨夜が山だったが、史朗は私が自分で呪殺を出さないのを知っている。出すとしたら、宏夢か理央。となると、どちらが真なのかに賭けて、噛んだのだろうと思う。狼は賭けに勝って村の思惑は外れた。確定占い師は一人消えた。だが、そうなったからこそ護衛は守り放題だ。狼は賭けに勝ったと思っているのだろうが、私に言わせたら思惑通りにやってくれたと思っているよ。」
明は、先々まで考えているのだ。
拓海は、明が真ならどんなに良いか、と思った。
だが、狼でもやるだろうからわからないのだ。
頭の切れる人は、それだけでどうしても警戒してしまうのだ。
「…もしかしたら、ですけど。」明は眉を上げる。拓海は続けた。「狩人位置とか、分かってたりします?」
明は、驚いた顔をしたが、すぐにクックと笑った。
「まあ、ここだろうなという位置はな。だが、言わない方が良いだろう?安心できないのではないか?私が狼かもしれないのに。」
拓海は、訴えるように言った。
「言ってみてください。」
明は、ため息をついた。
「…ヒントをあげよう。」と、遠い目をした。「昨日は最初グレー吊りの流れだった。狩人はグレーに居るだろうと私は推測している。狩人目線、自分は吊られるわけにはいかない。潜伏臭がすると吊られてしまう。となると積極的に議論に参加しようとするだろう。そうなると、自ずと位置が透けて来る。グレーの中で、促されずに発言した人は少ない。強気な意見も狩人ならできる。最悪COできるからな。以上を踏まえて、私は狩人位置を割り出している。」
誰だろう。
拓海は必死に昨日の議論を思い出した。
明は、フフと笑った。
「他の人の前ではやめておいた方がいい。君は顔に何でも出る。ちなみにあまり幸喜の意見ばかりに頷くとバレるぞ?気を付けた方がいい。」
相方を見透かしているのか…?
拓海が目を見開くと、明はそれを見て声を立てて笑った。
「やはりか。だったら本当に気を付けた方がいい。人外が黒を打って来る可能性があるだろう。仮に理央さんの方が狐であったなら、狼目線では初日白の幸喜は狐位置筆頭に見えている。噛んで来ることはないが、気取られたらせっかくの共有トラップがパアになる。気付かれないようにすることだ。」
明には何でも見えている。
拓海は、思った。
だったら昨日は宏夢を噛まずにさっさと狩人や、顔に出る頼りない共有ではなく意見の伸びる幸喜を噛めば、面倒はなかったはずなのだ。
恐らく明は、狼ではない。
とはいえ、それを思わせるためのフェイクかも知れなかった。
「…分かりました。」拓海は、言った。「あなたは限りなく真な気がしています。分かっているなら狩人を噛めば良かったのにそうしなかったんですから。狩人さえ噛んだら、噛み放題なのに。」
明は、立ち上がりながら言った。
「思考ロックはしないことだ。私が狼でも同じ事をした。私には史朗を打ち負かすスキルがあると自負しているからな。だったらさっさと面倒な真占い師を一人始末して、史朗との対抗にしようと考えると思う。だが、私は真だ。あまり私に肩入れしないようにな。史朗が切り捨てられて私が噛まれる未来が来る。」
拓海は、頷いた。
明は、不敵に笑ってから、そこを出て行ったのだった。




