2日目の朝
次の日の朝、拓海は目を覚ました。
…襲撃されてない。
拓海は、ホッとして起き上がった。
今朝も点滴は既になく、腕にはシールが貼ってあった。
寝ている間にいろいろやってくれるのは、本当に助かった。
目覚めていきなり痛みに顔をしかめるとか、吐き気をもよおすとか、そんな事が全くないからだ。
金時計は、6時を指そうとしていた。
…ちょっとトイレだけは行っておこう。
拓海は、急いでトイレへと駆け込むと、さっさと用を足して今回は扉の前で待った。
髪が寝ぐせになってそうな気がしたが、ここは病人ばかりだし誰も気にしないだろうと整えようとは思わなかった。
じっと扉を見つめていると、ガツン、といきなり音がした。
…めっちゃ音がするな。
拓海は、この音に気付かないで寝て居られるとは思えないので、目覚まし代わりだなあと思った。
とはいえ、昨日はこの音で多分、目が覚めたのだが音自体は聞いてはいなかった。
ドアノブを掴んで押して開くと、廊下には皆が出て来て、顔を覗かせていた。
この階には11から20までの人達が居るのだが、昨日12番の朝陽が吊られ、初日に15番の瑠香が噛まれているので、残っているのは8人のはずだった。
「…みんな居るか?」
拓海が言うと、美鶴が言った。
「うーんと、でも理央ちゃんが出て来てないわ。宏夢さんも。」
拓海は、頷いた。
「まだ寝てるのかもしれない。理央さんの方は女子で確認頼む。オレ達は宏夢の所を訪ねるから。」
美鶴が、千晶と一緒に頷いてそちらへ行った。
拓海は、脇に立つ桔平を見た。
「宏夢、昨日具合どうだった?」
桔平は、肩をすくめた。
「分からん。でも、元気そうだったぞ?オレ達拓海を挟んで隣りだからおやすみって言って入ったんだけどな。」
拓海は頷いて、どんどんとノックをした。
「宏夢?おーい、寝てるのか?それとも具合悪いか?」
すると、階段を上がって来る人達の声が聴こえて来た。
拓海が振り返ると、幸喜が駆け寄って来た。
「ああ、みんな起きてる?下はみんな無事だったけど、誰が出て来ないの?」
拓海は、頷いた。
「宏夢と理央さんが出て来なくて。ノックしても反応が無いんだ。」
それには、後ろから来た明が言った。
「ああ、ノックなど聴こえないぞ。ここの防音がしっかりし過ぎていて、いきなり扉を開くしかないのだ。ドクター達も、いきなり入って来るだろう。」
言われてみたらそうだ。
拓海は、思った。
昨日、確かに扉を開いていきなり皆の声がワッと聴こえて来て、防音が凄いと思ったはずだったのに。
拓海は、ノブを握って開いた。
「宏夢…?大丈夫か?」
見ると、宏夢は眠っていた。
そうして、点滴の管がまだ腕についたままで、点滴のホルダーには「追放されました」という札が掛かっていた。
…襲撃か。
拓海は、思った。
すると、美鶴の声が開いた扉の向こうから聴こえた。
「拓海さん!理央さんも!理央さんも追放されましたって!」
…二人?!
「呪殺が出た。」明が言った。「宏夢が占って理央さんが死んだのか、理央さんが占って宏夢が死んだのかは分からない。だが、どちらかが真占い師だった。確定はできなかった…狼が、どちらかを噛んだんだ。」
どっちを噛んだ?
拓海は、ベッドで眠る宏夢を見つめた。
普通に考えて、昨日白かったのは宏夢だった。
という事は、宏夢が噛まれて理央が呪殺されたと考えたらしっくりくるが、分からない。
何しろ理央は、あんな感じで全く色が落ちていないのだ。
「…とにかく、7時にご飯だけど、先に結果を聞いておいていいか?気になって仕方がないから。」
明が、いち早く言った。
「史郎が黒だった。」
史郎は、首を振った。
「違う、明さんが黒だ。」
ここが対抗。
どちらにしろ、真占い師は一人死んで一人は残っている。
そして、狐は一匹処理できた。
それが、どちらなのか分かっていないが。
「霊能は?」
二千翔が言う。
一真が、言った。
「黒だ。朝陽さんは黒だった。」
それには、将生も頷いた。
「そう、黒だ。オレもそう見た。腕輪に出るんだ。」
秋也が、叫んだ。
「違う!朝陽さんは白だったぞ!お前達、まとめて人外だな!オレの相方は朝陽さんだったんだ!」
こっちはパンダ。
皆が深刻な顔をする中、拓海はため息をついて言った。
「…分かった。とりあえず、今日は一人ずつ面談させて欲しい。番号が先の人から順番に、朝の会議の代わりにオレと話してくれ。そして、狩人はオレにだけ昨日誰を守っていたのか教えて欲しい。狩人が誰なのか、オレとオレの相方だけが知っておくことにするよ。まず、7時にご飯を食べたら、オレは部屋に戻っているから、1番の史郎さんから順番に、部屋に来て今どう考えてるのか教えてほしい。間接にしか聞かないよ、時間が掛かるから。今日の会議は、だから昼ご飯の後からリビングに集まってやることにしよう。」
幸喜が、言った。
「そうだね、共有に狩人が認知されてたら、誰を守ったのか分かるしね。でも、拓海は全員の意見を覚えられる?メモ取った方が良いんじゃない?狩人のことは、バレたらいけないから書かないでおいて、意見だけをメモって行ったらどう?」
幸喜は、恐らく情報を共有したいのだ。
拓海は、確かに覚えられるにも限界があると思って、頷いた。
「うん、メモしとくよ。じゃ、準備に戻ろう。解散。」
全員が、ぞろぞろと歩いて行く。
そこへ、ローレンスとマルコムが歩いて来て、何やら宏夢の方へと歩いて行く。
拓海が、振り返った。
「あれ、先生、もう連れて行くんですか?」
ローレンスが、振り返って頷いた。
「食事をさせないといけないので。四階と五階に同じように部屋を準備してあるから、心配はいらない。」
拓海は、寝て待ってるんじゃないんだと驚いて言った。
「じゃあ、初日の瑠香さんも昨日の朝陽さんも目が覚めてるんですか?」
ローレンスは、また頷いた。
「起きてる。ここと変わらないよ。寝ているとせっかく胃腸が復活してきてるのにまた大変だからね。今はみんなの動きを見ながら上で過ごしているよ。」
つまりは、観戦しているのだろう。
何しろあちこちにカメラがあるのだから、それも可能なのだ。
「え、まさか私室も見てるとか?」
それには、マルコムは笑った。
「まさか。彼らに見えるのはダイニングキッチンとリビングだけだよ。私達は、全て見ているがね。」
良かった。
拓海がホッとしているのを後目に、二人は宏夢を移動させるための準備を始めた。
拓海は、顔を洗って来よう、と自分の部屋へと向かったのだった。
朝食は、待ちに待った普通の食事だった。
とはいえ、ご飯はまだ八分粥だったが、それでも充分だった。
皆が満たされた気持ちになりながら部屋へと帰る中、史朗が話し掛けて来た。
「オレからだろう。部屋へ行こうか、拓海。」
拓海は、もう行くのかもしれないと慌てた。
「そうですね、昼までに全員だし。」と、急いで冷蔵庫から水のペットボトルを出した。「あれ。」
昨日まで、水しかなかったのにいろいろなジュースがあった。
「あ、ジュースがある!」後ろから、二千翔が叫んだ。「ジュース飲めるよ!」
皆が、わっと冷蔵庫に寄って来た。
まだコーヒーなどはないようだったが、確かにジュース類はいろいろ入っていた。
「やったー!普通の生活に近付いてるぞ!」と、圭斗はいち早く桃のネクターを手にした。「カロリー高そうだけどとにかく腹が減るからこれを持って行こう。」
みんながわらわらと冷蔵庫に寄って来て、冷蔵庫は開けっ放しになるのでピーピーと音を立てて抗議している。
それでも構わず、皆はそれぞれ好きな飲料を選んで目を輝かせていた。
史朗が、苦笑した。
「オレは水でいい。」と、拓海を見た。「行こう。」
拓海は頷いて、そうして二人で三階へと上がって行ったのだった。




